ジーン大門

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  • 地上の楽園 (夢のクロニクル)

    日本だけでなく、世界各国の読者に大航海時代の魅力を知ってもらいたくて書き続けています。今、世界は宇宙に向けての第二次大航海時代。未来へのビジョンをも喚起してくれるでしょう。

最近の記事

月光荘と赤軍テロリストの関係

「月光荘はかつてテロリストの本拠地として使用されていたという噂はあったみたいね」 「らしいね」 「しかも、ベランダの近くにある美しい花壇では、いわゆる総括が行われていたとか」 「総括っていうのは、ちょうどそのころ、例の日本赤軍も逃亡中にやってた集団リンチ的な処刑だよね」 「つまり、単なるテロリストじゃなくて、共産主義テロリストだったってわけね。その点、今度出てきたマラヤ共産党暗殺説とも符合するわね」 「でも、おかしいと思わないか?」 「なにが?」 「だって、リン博士は生まれは

    • 1-1

      僕たちは、サイゴン川を見下ろすラウンジの壁際のカウンター席に並んで座っている。僕はジンフィズをすすりながら、連れはタンジーレモンを飲みながら、街の夜景を眺めている。 夜の闇の底をぼうっと見つめていると、川面に映って揺れる街の灯りが、ペナン島の奥に位置する或る村の夜景と重なってくる。 「あれって、何だったんだろうね?」僕はなんとなく呟いてみる。 「そうね、意外にもほんとのことだったのかもね」連れも同じことを考えていたのだ。 クアラルンプールからホーチミンに向かうマレーシア航空

      • 死の床の告白

        人々の興味をひく「謎」というのは、その手がかりが少なければ少ないほど、いろんな憶測を産む。 1967年におきたこの「事件」が、今なお東南アジア各国や米国で関心を持たれ続けているのも、まさにそれで、事故説から殺害説まで実に様々な説theoriesが流れている。 そこに、今世紀に入って十年余りになろうとするころ、ある人物が死に臨んだときの告白証言が出てきた。 それによると、かつてキャメロン・ハイランドはマラヤ共産党(CPM)の潜伏拠点で、ムーンライト・コテッジにはCPMの司令部

        • キャメロンハイランド

          今、マレーシアにいるのですが、たまたまNewsweekのオンライン版で或る記事を読んで思い出したことがあるので、急いで書いておきます。 (今はとにかくこのことに集中しておきたいので「夢のクロニクル」の方はしばらくおやすみします) その記事というのは、タイシルク王と呼ばれた、ジム・トンプソン失踪の謎に関するもので、タイの英字紙「ネーション」に掲載された新説の紹介です。 実は、私自身も以前からこの事件には関心があって、実際に彼が失踪したキャメロンハイランドCameron Hi

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        • 地上の楽園 (夢のクロニクル)
          4本

        記事

          花嫁の飛翔 8

          【1496年9月26日】 彼は、野宿している夢をみていた。 この寒空の下にもかかわらず、体はほかほかと温かく、満腹だった。だが、こうしている場合ではない。絶世の美女と噂されるある女性と会うために、自分は早馬を駆って旅しているのだ。 と、闇の彼方に人影が浮かぶのが見えた。 ひょっとして…? 目を凝らそうとしたとたん、目が覚めた。 フェリペは、こじんまりとした部屋の簡易ベッドに横たわっている自分を見出す。 暖炉ではパチパチと薪がはぜていた。 彼は、まだぼうっとした頭を抱えるよう

          花嫁の飛翔 8

          花嫁の飛翔 7

          「ずいぶん時間がかかりそうだな、乾くまでには」フェリペは冗談めかして独り言のように呟く。「しかし、ま、致し方ない…。どうぞそのように願います」 院長はフェリペをサロンへと案内した。そして、応接係のベギンたちに、部屋着や食事を用意してフェリペ公に提供するように指示したうえで、いったん自室に戻ってからフアナの部屋へと急いだ。 「ジョアンナ、ついにその時が訪れましたよ」院長は、特に親しく話すときには、フアナをそう呼ぶようになっていた。「さあ、支度をはじめましょう」 「なにの…支度で

          花嫁の飛翔 7

          花嫁の飛翔 6

          「御身を目の当たりにした我が民たちは、こぞって御身の美しさを絶賛しているとのこと」と、フェリペは書いている。「なのに、我が身ひとつが、御身の美しさを、はるか遠いこのチロルの地にて耳にするばかり。そしてまだ見ぬ異国の王女の幻に心を焦がし身を焦がす切なさよ」 或る意味、それは恋の常套句を巧みに編んだだけの空想的な恋文紛いa quasi-love letterに過ぎなかった。しかも、ほとんどの表現は彼お抱えの宮廷詩人の下書きを借りたものだった。 だが、深窓に生まれ育ち、その手のこと

          花嫁の飛翔 6

          花嫁の飛翔 5

          実際のところ、フアナはカトリック両王の一男三女のなかでは一人浮き上がったような存在だった。子煩悩な父のフェルナンドも、次女のフアナだけは取り扱いに困っていたようだ。 フアナ自身、そのことに気づいてはいたが、たた父から疎まれている寂しさを覚えるばかりで、その理由はよくわからなかった。だが、昨日の瞑想会のあとに声をかけてきたうら若いベギンの言葉から、ひょっとして父は自分がこの世とあの世の境目に生きている女だということを直感的に察しているのではないかと思うようになった。 フアナは

          花嫁の飛翔 5

          花嫁の飛翔4

          【1496年9月17日】 ベギンホフBegijnhof は、ひとつの集落であり街である。 中世の町々は城壁に囲われているのが常だったが、ベギンホフの場合は、広い中庭Hof を取り囲んで立つ住居や集会所などの建物そのものが外壁代わりになっていた。 そして、外部と通じる門は日中には開かれており、出入りは自由だったが、夕方になると男性は退出を促され、夜には閉じられた。 その日の昼下がり、数台の馬車の列がそのベギンホフの門近くに停まった。なかでももっとも豪華な馬車から降りてきたのは

          花嫁の飛翔4

          花嫁の飛翔 3

          そこまで察したフアナは、奇妙な感興が沸き上がってくるのを感じた。 そこには、この年頃の乙女特有の怖いもの見たさの心理もあったかもしれない。ただ、彼女自身の直感では、そこに邪悪な空気はなかった。 「ここにいるのは、当然のことながら、男気のない女性たちばかりです」マリーは続ける。「ただ、処女もいれば、未亡人もいます。男性経験のあるなしは問題ではありません。そして、もしも男性と結婚することになっても、それも問題にはなりません」 「でも、結婚すればここから出ていくことになるんですよ

          花嫁の飛翔 3

          花嫁の飛翔 2

          ただし、ここは正確には修道院ではなく、敬虔な半聖半俗の女性であるベギン Begijn たちが集まって、慎ましやかな信仰生活を送る、一種のコミュニティーであり、ベギンホフBegijnhof、つまり文字通りには「ベギンの園」と呼ばれていた。 住んでいるのは未亡人が多かったが、良家の子女が精神修養のために一時的に寄宿するケースもあり、みんな精神的な姉妹として穏やかに暮らしていた。 フアナはこのベギンホフの雰囲気がすぐに好きになった。 中心をなす広い中庭には木々が並び立ち、地面のあ

          花嫁の飛翔 2

          花嫁の飛翔 1

          【1496年9月15日】 どこかで小鳥たちが啼いていた。 その囀りに目を覚まされたフアナは、自分はどこにいるのだろうと思った。それほど深い深い眠りの底から浮かび上がってきたのだ。 おかげで、これまでの長い旅で溜まりにたまっていた疲労や精神的重圧がとれ、ちょうど雨が大気の汚れを洗い流してくれた後のように、心身共に清く澄んでいるのを感じた。 …長い旅? そう、彼女は母から離れて海を渡ってここまできたのだった。 色とりどりの旗に彩られた膨大な数の船、その中心にいて常にヒロインとし

          花嫁の飛翔 1

          花嫁の船出 10の途中からの加筆部分 5

          【1496年9月13日】 聖母教会の北側にひときわ高くそびえる尖塔は、教会に属するものではなく、アントウェルペン市の鐘楼だった。 市長の案内で見晴台まで登ったフアナは、眼下に広がるブラバント地方の光景を眺めながら、脳裏にさまざまな思いを巡らせていた。 これから自分の第二の郷里になるはずの地。それを、母がラレードLaredoで出航前に語り聞かせてくれたアレバロ Arévaloの荒涼たる光景のイメージとオーバーラップさせてみる。むろん、互いに似ても似つかぬ土地であることはわかる

          花嫁の船出 10の途中からの加筆部分 5

          花嫁の船出 10の途中からの加筆部分 4

          「さようですな…」司祭はちょっと思案顔になる。「実は、先ほどオソリオ司教Bishop Osorioからもお話しがあったのですが、ここアントウェルペンは、姫君のような敬虔なクリスチャンに長逗留していただけるような街とはいいがたいところでしてな、ずっとブルゴーニュ家からのご連絡を待たれるにはふさわしくないかとも存じます」 フアナはもの問いたげな面持ちで、ハエン司教Bishop of Jaénであり兄フアンの礼拝牧師chaplain mayorでもある使節団長ルイス・オソリオLui

          花嫁の船出 10の途中からの加筆部分 4

          花嫁の船出 10の途中からの加筆部分 3

          「フェリペ公の母堂のマリア様も音楽とダンスの名手でいらっしゃいました」オブレヒトは懐かしそうな口調で話す。「よくマクシミリアン公と踊っていらしたと伺っております。そのお二方のご子息だけあって、フェリペ公ご自身が踊られるお姿も、それはそれはお見事でございます」 「そうですか…」フアナはほんのり頬を赤らめる。 すると、傍らの司祭が咳ばらいをしつつ横目でオブレヒトを諫め、今度は彼の斜め後ろに控えている青年を紹介する。 「こちらはヘンドリック・ブレデマースHendrik /Henr

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          花嫁の船出 10の途中からの加筆部分2

          馬車に乗っているのは、むろんフアナ王女である。 まだ一般市民に公表する段階ではないので、形の上ではお忍びだった。 ただし、聖母教会側ではすでに用意万端整えて、王女一行を待っていた。 フアナ王女一行が聖堂に入っていくと、ア・カペラの唄声が静かに沸き上がってくる。 Ave Maria, gratia plena, Dominus tecum, benedicta tu in mulieribus, et benedictus fructus ventris t

          花嫁の船出 10の途中からの加筆部分2