キャメロンハイランド
今、マレーシアにいるのですが、たまたまNewsweekのオンライン版で或る記事を読んで思い出したことがあるので、急いで書いておきます。
(今はとにかくこのことに集中しておきたいので「夢のクロニクル」の方はしばらくおやすみします)
その記事というのは、タイシルク王と呼ばれた、ジム・トンプソン失踪の謎に関するもので、タイの英字紙「ネーション」に掲載された新説の紹介です。
実は、私自身も以前からこの事件には関心があって、実際に彼が失踪したキャメロンハイランドCameron Highlandsにしばらく滞在して、ちょっと現地を歩いたりしてみたことがあります。
もう何年前になるかな、今手元に記録がないし、意外と覚えていないものですが、とにかくまずクアラルンプールからバスでタナラタまで行って一泊した後、キャメロン ハイランド リゾートCameron Highlands Resortへと移動しました。そこが、彼の失踪地に一番近いところだったからです。
しかも、そのホテルでは、宿泊者へのサービスのひとつとして、ガイド付きのジャングルトレイルを提供してくれていたので、翌日予約しておきました。
当日は小雨模様。しかも、参加者は私と連れの二人だけ。
定刻ちょっと過ぎに、四十台半ばぐらいの女性ガイドがやってきて、ホテルのバスで山の中腹まで登り、ジャングルの小道(といってもまだ舗装道路)を歩き始めました。
私たちは一応雨傘をもってはいたんだけど、ガイドさんは薄手のレインコートを用意してくれていた。それが必要だってことは、やがて舗装道路をそれて結構急な山道を上り始めたときにわかりました。
私は子供のころ田舎の山河を駆け回って遊んでいた経験があるのでどうってことはなかったけれど、都会育ちの連れはけっこう大変そうでした。
鬱蒼とした木立のなかだし、もともと土が湿ってるところにもってきて雨降りだもんだから、滑るんですよね、足元が。
ガイドさんは時々立ち止まって和たちを待ってくれてて、追いつくと、その辺に生えている植物や木々の説明をしてくれる。ほとんど覚えてないですけどね。(笑)それより、見たかったのは月光荘Moonlight Cottageだったし。
月光荘というのはジム・トンプソンの友人が所有する山小屋というか、ちょっとした別荘なんですが、そこに滞在中の1967年3月26日、一人でふらっと散歩に出たまま行方不明に。その後、軍や警察、住民などによる大規模な捜索が行われたけれど、なんの手掛かりも遺留品も発見されないまま事件は迷宮入り。
「ムーンライト・コテッジって、あれですか?」
それらしき建物が、山の斜面のずうっと上の、ちょっと高台みたいになったところに見えてきたので、私はガイドに訊いてみました。
「ええ、そうです。今は、ジム・トンプソンコッテージと呼ばれていて、誰も住んでいませんし、立ち入り禁止です」
どうやら、近くまで登ることもダメっぽかったので、話はそれきり。
でも、せっかくここまで来たのだからということで、翌々日からは自分たちだけであちこち歩いてみました。
あちこちといっても、バスやタクシーで適当な拠点まで行って、そこから歩きで山道へと入っていくぐらいのことしかできませんでしたけど、それでもなんとなく現地調査っぽくて、それはそれで興味深かったですね。
特に、Thompson Fallsという滝までのトレイルは、まるで捜索の追体験をしてるみたいでした。他にも旅の思い出めいたシーンはいろいろありますが、今はこれぐらいにしておきます。
ちなみに、松本清張の『熱い絹』というサスペンスはこの事件をネタにしているとういことで、行く前に読みかけてみたんだけど、ちょっと私たちの関心とは違うかなということで、最後まで読み通してません。
それに、私自身はべつにサスペンスを書くつもりもなかったし、資料らしきものも手に入れることはできなかったし、まさかそれから何年もたって、こんなことを思い出して書くことになろうとは想像もしてなかったです。