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果てしない波のくりかえしのなかでいつまでも眠る真珠になろう

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青山勇樹 新抒情派詩集 1 (2019年12月)
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記事一覧

「未来」 青山勇樹

「未来」 青山勇樹

 「未来」という詩を紹介します。

欄干にもたれても
昨夜の夢がかえってこない
そんなときは蝶になって
まだ朱け染めぬ海峡を渡る
それにしてもきのうの夢は
いままでにかえってきたためしがない
だからもうすっかり蝶になってしまって
こうして渡りつづけてはいるが
まだ海流は暗く閉じたままで
いつまでも向こうの桟橋を教えない
きっといまごろその波止場では
あちこちの倉庫の開かれる軋みや
動きはじめる貨車

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「手紙」 青山勇樹

「手紙」 青山勇樹

 「手紙」という散文詩を紹介します。

宮殿からアテティカの谷へと降りてゆくあの階段で、あなたを見かけようとは思いもしないことでした。暑い日盛り、あなたの着ていたガウンと足許の大理石との白が、たがいに響きあって、澄んだ階音を鳴らしていたことを記憶しております。それともあれは、ただの衣擦れだったのでしょうか。かつて宮中一のエラート奏者とうたわれたあなたのまわりには、いつも音の粒子がまといついている、

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「朝のエチュード」 青山勇樹

「朝のエチュード」 青山勇樹

 「朝のエチュード」という詩を紹介します。

すべてはどうしてこれほどまでに
私を不安にさせるのだろう
たとえばそれがライターにしても
たとえばひとくちの水であるにしても

こんなにもすべてがそろっているのに
こんなにもたくさんのひとがいるのに
なんだかとても寒くてならない
陽はこんなにもまぶしいというのに

おだやかな朝ふと気がつくと
すべてがふいに透明になる
そんな激しいひろがりのなか
私ひと

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「視線」 青山勇樹

「視線」 青山勇樹

 「視線」という詩を紹介します。

ふたりでいるときよりも
ひとりでいるときのほうがずっと
あなたのことを感じていられる
恋のはじまりとは嫉妬でしかない
そんな感情をもてあましながら
まぶしさについて考えている
光はどこかに闇があるので
あんなにかがやいていられるのかしら
たとえどんなにあなたが愛されようと
あなたについて考えることだけは
つねに私に許されていてほしい
窓辺に置かれたグレープ

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「いざない」 青山勇樹

「いざない」 青山勇樹

 「いざない」という詩を紹介します。

あした
真夜中の海にこないか
果てしない波のくりかえしのなかで
いつまでも眠る真珠になろう

それは美しい歌でもなく
それは誓いの言葉でもなく
ただうずくまるだけの真珠
その透きとおる肌のおもてに
あらゆるものを映して

どんないろやかたちやにおいも
ひかる真珠の沈黙のために
用意された答えに過ぎない
それならばうずくまることで新しく
すべてのものに答えて

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「不在証明」 青山勇樹

「不在証明」 青山勇樹

 「不在証明」という詩を紹介します。

そこにいる
ただそれだけの理由であなたを愛せる
これは不遜な考えだろうか
たとえば〈たとえば〉という言葉ひとつで
あなたについて語ろうとするのは

名づけることで
それは私のなかで息衝きはじめる
不在証明とは
だから名前を消し去ることだ
名づけられないものたちは
ついに私のなかに住むことはできない

瞳 唇 肩 腕 胸
あなたのすべてについて
いったいど

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「留守番電話」 青山勇樹

「留守番電話」 青山勇樹

 「留守番電話」という詩を紹介します。

ひとは沈黙がおそろしいので
おしゃべりをやめることができない
ひとは無がおそろしいので
遍在したいと願うのだ

無を語るには沈黙しかないのに
電話にさえ私はいないと云う声がいる
私はいないというそのことを
あたかも在るというかのように

在ることはつねにかなしみである
在ることについては語らねばならない
それがたとえばこんなふうに
とるにたらない詩であると

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「恋の終わり」 青山勇樹

「恋の終わり」 青山勇樹

 「恋の終わり」という詩を紹介します。

こんなにかたく結びあっているのに
あなたと私とのあいだには
つづいているみちのりがあって
だから時間がいつも
空気になってゆらいでいる

まぶしい陽をみつめていると
不意にあなたに会いたくなって
それなのに誰だったのか思いだせない
あなたの名前も面差しも
こんなに鮮やかに浮かべられるのに

忘れることが罪ならば
覚えていることはとても恥ずかしい
私の瞳には

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