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青山勇樹
2019年12月29日 06:58
「未来」という詩を紹介します。欄干にもたれても昨夜の夢がかえってこないそんなときは蝶になってまだ朱け染めぬ海峡を渡るそれにしてもきのうの夢はいままでにかえってきたためしがないだからもうすっかり蝶になってしまってこうして渡りつづけてはいるがまだ海流は暗く閉じたままでいつまでも向こうの桟橋を教えないきっといまごろその波止場ではあちこちの倉庫の開かれる軋みや動きはじめる貨車
2019年12月29日 06:29
「手紙」という散文詩を紹介します。宮殿からアテティカの谷へと降りてゆくあの階段で、あなたを見かけようとは思いもしないことでした。暑い日盛り、あなたの着ていたガウンと足許の大理石との白が、たがいに響きあって、澄んだ階音を鳴らしていたことを記憶しております。それともあれは、ただの衣擦れだったのでしょうか。かつて宮中一のエラート奏者とうたわれたあなたのまわりには、いつも音の粒子がまといついている、
2019年12月29日 06:25
「朝のエチュード」という詩を紹介します。すべてはどうしてこれほどまでに私を不安にさせるのだろうたとえばそれがライターにしてもたとえばひとくちの水であるにしてもこんなにもすべてがそろっているのにこんなにもたくさんのひとがいるのになんだかとても寒くてならない陽はこんなにもまぶしいというのにおだやかな朝ふと気がつくとすべてがふいに透明になるそんな激しいひろがりのなか私ひと
2019年12月26日 19:31
「視線」という詩を紹介します。 ふたりでいるときよりもひとりでいるときのほうがずっとあなたのことを感じていられる恋のはじまりとは嫉妬でしかないそんな感情をもてあましながらまぶしさについて考えている 光はどこかに闇があるのであんなにかがやいていられるのかしらたとえどんなにあなたが愛されようとあなたについて考えることだけはつねに私に許されていてほしい窓辺に置かれたグレープ
2019年12月27日 06:44
「いざない」という詩を紹介します。 あした真夜中の海にこないか果てしない波のくりかえしのなかでいつまでも眠る真珠になろうそれは美しい歌でもなくそれは誓いの言葉でもなくただうずくまるだけの真珠その透きとおる肌のおもてにあらゆるものを映してどんないろやかたちやにおいもひかる真珠の沈黙のために用意された答えに過ぎないそれならばうずくまることで新しくすべてのものに答えて
2019年12月27日 09:39
「不在証明」という詩を紹介します。そこにいるただそれだけの理由であなたを愛せるこれは不遜な考えだろうかたとえば〈たとえば〉という言葉ひとつであなたについて語ろうとするのは 名づけることでそれは私のなかで息衝きはじめる不在証明とはだから名前を消し去ることだ名づけられないものたちはついに私のなかに住むことはできない 瞳 唇 肩 腕 胸あなたのすべてについていったいど
2019年12月28日 07:06
「留守番電話」という詩を紹介します。ひとは沈黙がおそろしいのでおしゃべりをやめることができないひとは無がおそろしいので遍在したいと願うのだ無を語るには沈黙しかないのに電話にさえ私はいないと云う声がいる私はいないというそのことをあたかも在るというかのように在ることはつねにかなしみである在ることについては語らねばならないそれがたとえばこんなふうにとるにたらない詩であると
2019年12月28日 07:15
「恋の終わり」という詩を紹介します。こんなにかたく結びあっているのにあなたと私とのあいだにはつづいているみちのりがあってだから時間がいつも空気になってゆらいでいるまぶしい陽をみつめていると不意にあなたに会いたくなってそれなのに誰だったのか思いだせないあなたの名前も面差しもこんなに鮮やかに浮かべられるのに忘れることが罪ならば覚えていることはとても恥ずかしい私の瞳には