『青くない春』

青春は あおい だけじゃない。 すこし、青くて、にがい春 写真、お話:sui 絵、デ…

『青くない春』

青春は あおい だけじゃない。 すこし、青くて、にがい春 写真、お話:sui 絵、デザイン:森野ひにち

最近の記事

10月

二十二時。 明日はあかねたちとお出かけなのに、 来ていく予定の服を洗濯物に出すの忘れていた… もうこんな時間だし、ウチの洗濯機は使えない。 仕方なく近所のコインランドリーに来た。 他の準備もしなきゃいけないのに… 洗い終わるのを待っていると 同じクラスの男子がやってきた。 「あ。」 「ども」 ほとんど喋ったことがない男子だから、 目が合って軽く会釈する程度。 確か名前は…颯太(ソウタ)くん 「颯太くんも洗濯?」 「うん」 「あー、洗濯したの忘れちゃったとか?」 「

    • 9月

      十五時─。 学校から帰る途中 いつもは通らない裏道を歩いてみた。 背の高い 薄(すすき)が 1本の道を作るように並んでいる。 そういえば ふとある事を思い出した 小2くらいのとき、よく遊んでた あの子のこと。 みんなでも ふたりでも とにかく毎日のように遊んでた。 その子との繋がりは、今はもうない。 わたしは 今と違う所に住んでいて、 家の事情で隣の区に…つまり 今住んでいる所へ引越しする事になった。 なんてことはない。 少し頑張れば いつでも会える距離。 でも

      • 8月

        14時10分 暑い。とにかく暑い。 じゅわっと丸焼けになりそうな陽射しの中、 わたしは河川敷を歩いていた。 夏休みも終盤だというのに ここ数週間、なんの予定もない。 ふとインスタを開いてみる。 キャンプ、テーマパーク、花火… 日々楽しそうな友達のストーリーが流れる 仲良いグループで 海に行く予定を立てたけど あいにくの悪天候に、由美の急用(絶対デート) 延期に延期を重ねてこのまま消滅な予感。 何もしていない時間はむしろ好きだし 1人でいる事には苦を感じない。 だけ

        • 7月

          十二時三十分 まもなく電車が入ってきます。線路の~ 鳴り響く踏切の音、下がる遮断機 もうすぐ わたしを現実に戻す電車が来る。 夏休みが始まってから数日 わたしは祖父母のお家に遊びに来ていた 海の目の前にある素敵な一軒家 両親と一緒に来ることはあるけど、 今回は1人で1週間。 畑仕事や 家事を手伝いながら、 空いた時間で町の行事や会に参加した 忘れもしない。 こっちに来て2日目の出来事 その日は、町のおまつりで おばあちゃんは浴衣を貸してくれた。 町内会の小さ

          6月

          九時三〇分 今日の朝は、自然に目覚めた。 曇天と雨が続くこの時期では珍しい 眩しい朝日を浴びたおかげだろうか。 久しぶりの快晴。しかも土曜日。 気持ちも晴れ晴れとする所だけど 今日のわたしの心は、生憎 曇天です。 二度寝をしようかと思ったけど、 こんな気分じゃおちおち寝られない。 最低限の身だしなみを整え 近くの大きい公園へ向かった。 池の近くのベンチに座る 空いているのは、日向のベンチばかり 『あっつ…』 急な夏日の気温に、体が追いつかない… 外出たの 失敗か

          5月

          17時20分 〜♪ 歌いたい曲は一通り歌い終えた。 皆でくる時は あれを歌えてない これを歌えてないと、 消化不良のまま時間がやってくるのに… 1人のカラオケは時間を持て余すみたいだ。 初めての1人カラオケ。 勢いで来てしまった 案内されたこの部屋は302号室。 あの日と同じ、302号室。 ドキドキしながら登った階段 ちょっと広くて、座る場所に迷ったな。 初めて聞いた歌声は、思ったより低くて胸に響いた。 ノリノリになると、 ちょっと動きがヘンテコ 。 思

          4月 

          16時15分。 いつもの駅、いつもの電車 何も変わらない帰り道。 だけど今日は まだ帰りたくない気分だった … 別に何かあったワケじゃない。 小テストの点数はよかったし、 向葵さんと週末に買い物へ行く約束をした。 おまけに、目の前に広がる雨上がりの夕焼けがとっても綺麗。 全てが順調ってわけではないけれど、 小さな幸せがひとつ ふたつと重なっている。 だから、今日は良い日で終われると思っていた。 ─そう思って帰路についている … 家に帰るための電車は、10分後にや

          February

          2月。 『明日はトクベツ・スペシャルディ〜 ふふんふーん…』 …あれ、ここのメロディなんだっけ? 学校の友だちが知らないこのうたは おねえちゃんが毎年うたっていて、 やけにメロディが頭にのこっている。 いつもは友チョコしか作らないけど 今年のわたしは、ちょっとちがうの。 この前学校から帰っている時 幼稚園の頃から大好きな れんくんに 「チョコレート作ってよ」って言われたの! 顔に出ないように、すんとした顔で「いいよ」って言ったけど しんぞうの音がどきん!どきん!って

          January

           1月。 例年より暖かい冬を迎えたおかげで 去年は幅が狭く、ガタついていた通学路が すっきりと歩きやすい道になっている。 委員会の居残りで遅くなり、 普段乗っているバスに目の前で置いて行かれた。 「あと30分か…」 待ちぼうけを食らうことになってしまった。 友達と一緒に待っていれば 30分なんてあっという間だけど… あいにく『今日は』お一人様だ。 (いつも1人な訳じゃないのよ?) 憂鬱な仕事を押し付けられた事もあり、 すぐに家に帰り疲れを癒したい私には この30

          December

          12月。 嫌と言うほど街に流れる 冬を祝福する音楽たちにうんざりしながら、 俺はポケットから取り出した煙草に火を付けた。 火を付けるために吸い込んだ煙と、真っ白な息が視界を遮る 久しぶりに吸った煙草は、なんだか少し不思議な味がした。 俺に煙草を教えた彼女は、 今頃もう煙草なんて吸ってないんだろうな。 教えたとすら思われてないけど — 「彼女」は、近所に住んでる年上のお姉ちゃんで、 両親共働きの俺は彼女の家でお世話になる事が多かった。 なんでも知っていて、なんでも

          November

          11月。 大人にだって青春はある。 この人と私の関係がまさにそう、 正確には「だった」なのかもしれない 色づく木々に秋を感じる今日、 私たちは「他人」になる準備をしていた。 「うん。やっぱりお別れかな。」 「そう…だよね。」 「色々考えてみたけど、無理。私は幸治とは一緒にいけない。」 「かといって、遠距離は難しい。もんな。」 「帰ってくるか分からないまま遠距離なんて、しんどいだけだよ?お互い」 出会って2年と少し、幸治の事は全て分かったつもりだった。 現実的で、大

          October

          10月。 『やっと涼しくなってきたなぁ』 今日は講義終わりに友人達と飲みに行った。 皆と家の方向が逆なぼくは、1人夜道を歩く。 すっかり暗くなるのも早くなり 辺りは真っ暗だ。 ふと、すれ違った高校生 思わず振り返ってしまった。 髪型も、歩き方も、 ポケットに手を突っ込んで歩くクセ そして何より、あの香水の匂い。 何もかも彼女に似ていた。 びっくりした。そんなわけ無いのに。 高校の頃、ぼくは違う地方にいた。 父の都合で転校したあの街で、 ぼくは彼女に出会った。

          September

          9月。 町の少し奥の方。 車通りは多いけど、誰も知らないヒミツの場所。 街灯もなく、夜になると真っ暗になるこの場所には 遠くに見える街の灯りと、澄んだ夜空が一面広がっている。 車を停め、僕たちは下に降りた 真っ暗な草むらに、前日降った雨の雫 少し滑る坂道を彼女の手を取って降りていく。 コンビニで買った花火は ちょっとだけ量が少なかった。 携帯のカメラで撮った花火文字は 後から見たら全然出来ていなかった。 花火が終わった後に何も言わず見上げた空 帰ろうとしたら、土

          August

          8月。 わたあめみたいな入道雲 楽しそうな浴衣のカップル プールではしゃぐ子供たち もはや風物詩を楽しむ余裕もないほど、 僕の心には余裕がなかった。 これでもかとばかりに光と熱を集める、黒い服を身にまとい 熱されたアスファルトが見せる陽炎を僕はただ眺めていた。 いわゆる「大人」と呼ばれるようになってから約2年が過ぎた。 今では定時後に飲むビールの事しか考えていない僕だが、 始めた頃は何か変えてやる!誰よりも稼いでやる! そんないくばくかの野望を持っていた。まあ、過

          July

          7月。 「あー、あっつ…」 ジメジメとうんざりな梅雨を抜け出し、 最近は快晴ばかりの日々が続いている。 まだまだ暴力的な日差し、とまではいかないが 例年上がり続ける気温のおかげ「さま」で 7月の初めだってのに、 アスファルトではお肉が焼けそうだ。 卸したてのストライプシャツと、 お気に入りの黄色のスーツケース 大好きな物を身に纏ったわたしは、 夏の間お世話になる人の住む地へ旅立つ。 避暑地として有名だし、快適な夏を過ごせるかな! 食べ物違うみたいけど、お気に入り見

          June

          6月。 「6月に結婚式を行うと一生幸せな結婚生活を送れる。」 ヨーロッパに古くから伝わる言い伝えで、多様なイベントを あれこれと受け入れる日本でも、今月は結婚式が多く行われる。 そんな半分迷信のような言い伝えに則り このめでたい式も6月に執り行われることになった。 居るだけで心が弾む式場の空気。 目の前に並べられた美味しそうな料理たち。 恐らく、この会場で幸せな気持ちでない人など居ないだろう。 ただ一人わたしを除いて。 式も滞りなく進行していき終盤を迎えた頃 わたし