見出し画像

4月 

16時15分。

いつもの駅、いつもの電車
何も変わらない帰り道。

だけど今日は まだ帰りたくない気分だった


別に何かあったワケじゃない。

小テストの点数はよかったし、
向葵さんと週末に買い物へ行く約束をした。
おまけに、目の前に広がる雨上がりの夕焼けがとっても綺麗。

全てが順調ってわけではないけれど、
小さな幸せがひとつ ふたつと重なっている。

だから、今日は良い日で終われると思っていた。
─そう思って帰路についている


家に帰るための電車は、10分後にやってくる
今まではあっという間だった時間が、今日はやけに長い。

待ち時間が長く感じる理由は分かってる。
だけど、気づいていないふりをしている。
このモヤモヤには、この先慣れていかないと。

その時、後ろのホームに電車が到着した。
いつもの駅じゃなくて、別のどこかへ運んでくれる電車。

「─まもなく〇〇行き 普通列車が発車します」

わたしはおもむろに振り返り
その電車へと乗り込んだ。


車内は満席で、座る場所がなかった。
反対の電車に乗っただけなのに、なんだか悪いことをしているみたい・・

鞄からヘッドフォンを取り出し、再生ボタンを押す。
お気に入りの曲も、景色が違うとほんの少しだけ違く聞こえるんだね

今頃、駅には帰路の電車が到着している。
向葵さんと一緒に乗っていた、16時25分発の区間快速

向葵さんが卒業して初めての月初の水曜日だった。
分かってはいたけど、現実は想像していたより辛いな。

ラインもインスタも知っているし、
なんなら今も連絡を取っている。

だけど、連絡を取り合わなくても、待ち合わせをしなくても
自然と一緒に帰っていた あの日々は戻ってこない。

『これに乗っていれば、向葵さんに会えないかな。』
─この電車では、向葵さんの居る街には辿りつけない。

だけど そんなありもしない期待を乗せながら、
電車はがたんごとんと、わたしを運んでいく。



▼カレンダー

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?