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October

10月。

『やっと涼しくなってきたなぁ』
今日は講義終わりに友人達と飲みに行った。

皆と家の方向が逆なぼくは、1人夜道を歩く。

すっかり暗くなるのも早くなり
辺りは真っ暗だ。

ふと、すれ違った高校生
思わず振り返ってしまった。

髪型も、歩き方も、
ポケットに手を突っ込んで歩くクセ
そして何より、あの香水の匂い。

何もかも彼女に似ていた。
びっくりした。そんなわけ無いのに。


高校の頃、ぼくは違う地方にいた。
父の都合で転校したあの街で、
ぼくは彼女に出会った。

初めて2人で出掛けたカラオケ。
パワフルな性格とは裏腹に、
澄んだ声で歌う横顔を今でも覚えている。

『いい歌でしょー。最近聴いてるんだ。』

『…歌、上手いね。』

『ふふ、あたしの歌声に惚れたかぁ?なんてね』

さっきまで歌っていた歌をハミングしながら
ごきげんな彼女は言った。

『この歌に出てくる金木犀ってどんな香りなんだろう。そもそもなんだ?金木犀って』

ぼくは鞄から香水を取り出し
彼女の手首につけた。

『こんな香り。そうか、こっちには無いもんね。いつか、本当の香りを教えてあげるよ』

そこから恋人になって、
普通に恋をして、普通に他人になった。

彼女と別れる最後の瞬間まで、
ぼくたちは同じ金木犀を纏っていた。


同じ香りの香水の匂いなんて、
よくある事だけど、すれ違ったあの高校生に
ふいに彼女を重ねてしまった。

本物のキンモクセイ、知れたかな。
果たせなかった約束を思い出しながら

僕はふとあの歌をハミングしていた。


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