December
12月。
嫌と言うほど街に流れる
冬を祝福する音楽たちにうんざりしながら、
俺はポケットから取り出した煙草に火を付けた。
火を付けるために吸い込んだ煙と、真っ白な息が視界を遮る
久しぶりに吸った煙草は、なんだか少し不思議な味がした。
俺に煙草を教えた彼女は、
今頃もう煙草なんて吸ってないんだろうな。
教えたとすら思われてないけど
—
「彼女」は、近所に住んでる年上のお姉ちゃんで、
両親共働きの俺は彼女の家でお世話になる事が多かった。
なんでも知っていて、なんでも出来る。
おれにとっては憧れのスーパーヒーロー!
だけど月日が経つにつれて、俺と彼女は少しずつ疎遠になり
スーパーヒーローの彼女は、気付けばキレイなお姉さんになっていた。
数年前に彼女を街で見かけた
見た事ないくらい小洒落た服と少し色っぽい顔。
あまりにも違う雰囲気の彼女の横を
僕は他人のフリをしてすれ違うことしか出来なかった。
だけど、その時に残った甘い煙草の匂いと
すれ違う時に聞こえた言葉が、俺はずっと忘れられない。
「冬に外で吸うタバコって、美味しいよね。
凍えた空気がすぅーって入ってきてさ。私、あれ好きなの」
—
火を付けたまま数分が経っていた
多分この煙草は、彼女が吸っていたのと同じ銘柄。
もう「スーパーヒーロー」でも「キレイなお姉さん」でもないのに
日常のどこかに、彼女の姿を探してしまう自分がいた。
服装も、髪型も、気が付けばあの時
隣にいたアイツが選びそうなモノばかり選んでしまうんだ。
凍てつく空気と共に、煙草の煙を吸い込む。
今まで一度も美味いと感じなかった煙草が、今日は少しだけ沁みる。
「ああ、美味い、かも。」
さよなら、姉ちゃん
アイツと幸せになれよ。
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