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連載『Swinging Chandelier』

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2022年11月より連載中。 「揺れる、ままならない、夜と朝。これは生き続ける女の物語」
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Swinging Chandelier-1:綱渡り

Swinging Chandelier-1:綱渡り

Swinging Chandelier-1:綱渡り
 特に示し合わせたわけでもなかった。互いに了承はしていた。
「傷つけたくはないんだ、ごめん。でもその、」
シャワーを終えてタオルを巻いた姿の木崎さんが言った。自宅で使っているものと同じボディーソープを選んだらしいから、まあ大丈夫とは思うが。仕事で接触が何度かあってその後なんとなく食事をする間、左手の指輪にこちらが気づかないとでも思ったのだろうか。

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Swinging Chandelier-2:双子

Swinging Chandelier-2:双子

Swinging Chandelier-2:双子

 今の仕事が好きかどうかと訊かれたらまあ好きな方だ。大企業というわけではないけれど分野としては面白いし、うちの会社はわりあい休みも取りやすい。まだ発掘されていない無名のパターンナー、デザイナー、彫金師、陶芸家、革細工職人……そう言った人間の中から才能のある人を探して、うちの会社が企画するイベントや借りたテナントに出店してもらったり、マーケティング

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Swinging Chandelier-3:交叉点

Swinging Chandelier-3:交叉点

Swinging Chandelier-3:交叉点

 子犬みたいに可愛い子だ。
 でもあれは大人の女を知っている。
 教えられたことを正しいと思ったまま、すごく自分を持て余している。そういう意味においてはきっと、お友達。

 会社が企画したクリエイター発掘のオフ会。過去何回か開催していて、オフ会経由でうちの会社に登録するクリエイターも毎回数名いる。開催ごとに微妙にクリエイターのジャンルをずらしな

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Swinging Chandelier-4:二本脚の蜘蛛

Swinging Chandelier-4:二本脚の蜘蛛

Swinging Chandelier-4:二本脚の蜘蛛

 失敗した、と思った時は、いつも少し遅い。
 場慣れしていないような、優しい男だった。着ているものは高級品というわけではないが、ほつれや汚れもなく、髪や指先もそれなりに手入れがされていて清潔感があった。丸首のシャツにテーラードジャケット、細身のジーンズ、ハイカットのスニーカー。お洒落だけど、尖り過ぎてはいない。埋没しようと思えば簡単に埋没

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Swinging chandelier-4.5:夜の幕間

Swinging chandelier-4.5:夜の幕間

Swinging Chandelier-4.5:夜の幕間

オスロはいま何時。

@chandelier_150 投稿1件
「夕方の雑踏は好き」

 建物の線のコントラストを少し強くして、塗りつぶされた街路樹の向こうに、陽が落ちた空。誰もが行き交う場所。誰でも降りる駅だから、誰かがシャッターを切っても誰も気にしない。

@ryou_highper_enough 投稿1件
「全部金色。チビも大喜び

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Swinging Chandelier-5:衛星

Swinging Chandelier-5:衛星

Swinging Chandelier-5:衛星 好きな曲とミュージックビデオを流しているバーの、高めの椅子に体育座りをしていたら、マスターのユキさんがしかめっ面で来た。
「椅子が汚れるでしょ、あとお行儀悪い」
「だって床に足がつかないんだもん」
 スキニージーンズを穿いた脚をぶらぶらさせる。
「ほら踏み台、貸してあげるから」
 カウンター越しに受け取る。彼はこういうところ、いつも優しい。
「なに

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Swinging Chandelier-6:ブライズメイド・上

Swinging Chandelier-6:ブライズメイド・上

Swinging Chandelier-6:ブライズメイド上 その席で彼女はミルクで煮出した紅茶に蜂蜜を入れる。その匂いは甘くやすらかに、けれどその指がカップの取手に絡まるときにはほんのりと、タンニンとは違う苦味がこごる。
 絡まる絡まる、髪に甘みに、苦いそれ。

 今日も定時で帰れると席を立つか立たないかの頃合に、上條さん来客予定ありましたっけ?と、同僚が声をかけてきた。そんな予定がないことを

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Swinging Chandelier:7 ブライズメイド・下

Swinging Chandelier:7 ブライズメイド・下

Swinging Chandelier:7 ブライズメイド・下

 カツコツと、ヒールが踵に響く。カツコツと、最寄駅から自宅までの道のりを歩く。十一時近い駅前のビル風を浴びながら、歩く。

 夕食にアンズさんと入ったのは、わたしがさゆりさんとたまに行っているイタリアンバル。カウンターとテーブルがあり、入店時に店員がイタリア語で挨拶する感じの、お通しに揚げたパスタが出るような店。
 わたしがデカンタ

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Swinging Chandelier : 8-カナリア

Swinging Chandelier : 8-カナリア

Swinging Chandelier: 8-カナリア

 二度目の打ち合わせはわたしと大貫の二人で、場所は向こうの会社の、オフィスから直接入れる少人数向けの会議室だった。壁と入り口のドアには半透明の硝子が多く使われ、開放感と防犯どちらにも有用なデザインになっていた。書類を机に揃えながら、この部屋いいですねと大貫に伝える。
「やっぱりわかるものでしょうか」
「どういう意味ですか?」
「オフィスを改

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Swinging Chandelier-9:まばたきの回路

Swinging Chandelier-9:まばたきの回路

Swinging Chandelier-9:まばたきの回路

 森は陰になって、樹々もしんと黙ったようでいる。
 その淵から、ひらけた場所を見ている。
 小鳥が歌いながら飛ぶ、晴れた空の、そこ。
 わたしは、見つける。

 生まれた時は青い灰色。成長するごとに澄んで、銀灰色。やがて磨かれたように、白馬になる。
 朝露がまだひそやかに残る草の上に、それは立っている。頸と脚とがほっそりとした、まだ青み

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Swinging Chandelier:10 赤い夜

Swinging Chandelier:10 赤い夜

Swinging Chandelier:10赤い夜

 大貫たちの会社とのコラボ企画も動きが少し落ち着いてきて、それ以外にも企画イベントなどは特になく、内勤だけで済む期間にいる。ジムに行く時間を増やしやすくなったり、買い物だってゆっくり時間をかけやすくなったりしているはずが、却って持て余すような心地になっている。
 仕事帰りの電車の窓のぎりぎりにおでこを近づけて、引き裂かれるように滑っていく景色を

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Swinging Chandelier:11-土曜の夜

Swinging Chandelier:11-土曜の夜

 鏡の前に立つ。あまり大きくはならなかった乳房、ジム通いで絞った腰、尖った肩、一五〇センチとあと少しあるかわからない背丈。作り込んで、いや作り物めいているから、かえって気分は楽になる。
 鎖骨が綺麗に見えるボートネックの、ふくれ織りの生地を使って上半身を少しタイトにしながら、切り替えからソフトプリーツがふんわりと広がるシルエットのワンピースを着る。財布とスマホと化粧ポーチを入れたらもう容積が埋まっ

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Swinging Chandelier:12-最高の日曜日

Swinging Chandelier:12-最高の日曜日

 捨てる。棄てる。
 とにかく、すてる。

 いつも渡すアカウントに登録された名前、郵便受けに溜まるダイレクトメール、他人の体温。

 いつもみたいに「可愛いね」と言われる。いつもみたいに淡く微笑んでおく。いつもみたいに裾はたくしあげられる。いつもみたいにその手の甲を静かに撫でる。
 あー良かった。昨日眉ティントしておいたからあとで化粧落としても気が楽。あとそれ、リバーレースの下着だから爪引っ掛け

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Swinging Chandelier:13-孟買青玉

Swinging Chandelier:13-孟買青玉

 鍵を閉める。外の廊下を歩いて階段を降りる。駅まで十分と少し。肩にかけた鞄はうちの会社に登録してくれている革職人のセミオーダー品。オフィス用のモデルは軽めでパソコンも入るし、何よりデザインが可愛い。ハイウエストのワイドパンツに丈の短い上着を合わせて、ショートブーツのヒールが鳴る。
 住宅街の庭からのぞく鉢植えのビオラを横目に歩き、繁華街を貫く大通りに出ると街路樹の花水木の葉がまばらに色づいていた。

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