ハイドラ

与える女/海蛇の娘 アネシドラ・ハイドラ rétro→ https://retro.app/u/anesidora

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マガジン

  • 連載『Swinging Chandelier』

    2022年11月より連載中。 「揺れる、ままならない、夜と朝。これは生き続ける女の物語」

最近の記事

レイニー、コクトー・ツインズ。

レイニー、コクトー・ツインズ。  その記憶は雨だった。雨の日の車中に、コクトー・ツインズが流れていた。  前回『駅と川と』という記事で私のふるさとらしきものに触れたのでまた生まれの話をするのは恐縮なのだが、私は首都圏のとある政令指定都市の生まれだ。政令指定都市と言っても煌びやかな都会は市の本庁舎がある自治体や、ターミナル駅のすぐそばなどで、私が住んでいた地域は住宅街や畑、谷戸、雑木林の多く残る地域だった。バブルの名残でニュータウン開発などもあったため、東京で言うなら立川や聖

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    • 駅と川と

       私が住んでいた地域の公立高校には、昔は学区というものがあった。原則、自分の中学が位置する学区の高校に進学する仕組みで、越境入学は頭ひとつぶん学力がないと難しいとされていた。  けれど私が通っていた中学校は北部学区と東部学区の境目に位置していたため、どちらの高校も選択しやすい環境だった。割合としては北部に進学する生徒が多かったようにも思う。  私は東部のとある公立高校を受験した。同じ中学からその高校を受験したのは私の他には一人だけだった。その子とは特に親しいということもなかっ

      • お茶代八月課題【心震える一冊】

        ※有料記事設定ですが最後まで無料でお読みいただけます。  2010年代の前半だったと思う。とりあえず私は20代だった。読むことを勧めてきたのは友人と、その母上だった。二人とも編集の仕事をしている人で「あなたは絶対『ヘルタースケルター』を読んだ方がいい」と。当時名前だけは知っていたし、なんというか、90年代後半のごちゃごちゃとした物質的な乱立や巨大な焦燥感みたいなものに対して、郷愁とも憧憬とも憎しみともとれるような共感を抱き続けている私にとっては「いずれ読むだろう」という感覚

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        • Swinging Chandelier:番外編-ミツノカギロヒ

           盂蘭盆の夜、その橋の往来に提燈がかかる。連なる燈はゆるく弧を描いて、対岸の鳥居まで続く。  祭りの二日間の間橋は一般車が通行止めになり、午後のまだ早い時間から様々な催し物があるらしい。のだが、すでに日暮のそこに初めて踏み入れば、橋の入り口からぽつりぽつりと並ぶ夜店が、対岸に近づけば近づくほど密に燈をともしている。鳥居を越えた先に建てられた櫓は宵闇のなか燈に浮かび上がり、こだまして聴こえる太鼓囃子が盂蘭盆を告げる。  元々、知らない街だった。知らない土地の知らない社は、遠目に

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        • 連載『Swinging Chandelier』
          17本

        記事

          Swinging Chandelier:15-オディール≠オデット(下)

          Swinging Chandelier:14-オディール≠オデット  最初にアイホール全体にパール系のシルバー。次にややマットのライラックを上まぶたの二重幅と下瞼の目頭に入れる。二重の線に沿うようにやや細めの筆で偏光グリッターを乗せて全体をぼかす。インナーラインを黒で入れたら目尻を強めにリキッドで描き、細筆でダークパープルをのせる。  ゴスメイク、というほどではないけれど、まあ近いよな、という仕上がり。リップラインで縁取ってから強めに塗りつぶしたベルベットローズ。  待ち合

          Swinging Chandelier:15-オディール≠オデット(下)

          お茶代6月課題

           資本主義の犬になりたい☆彡  と、たまに言っている。ここで言う「資本主義の犬」とは資本主義社会のなかで割とお金を儲けていてイキイキと経済を回している人間を指す。 けれど私は金を儲けるのはヘタクソだし、ビジネスベースの思考の組み上げにとにかく相性も悪く、そもそも金持ちではない。金持ちではないけれど物欲はそれなりにあるし、NARSのリニューアルしたリキッドファンデは気になるしそろそろHAREのスカートも見に行きたいしライブに行ったら物販には並びたい。  資本主義の犬にはなれない

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          お茶代6月課題

          夢十夜番外地

             氷の海の上から核ミサイルが発射される。暗闇の中、それは箒星のように尾を引いて空を昇っていった。  地下に逃げなければ、と夜の中を彷徨うと、モグラ人間の住処があり、あたたかな灯りが溢れている。モグラ人間は快く迎えてくれた。そこは木造のアパートだったが、モグラ人間が掘り進めた地下にも居住空間がひろがっていた。わたしたちは畳の部屋の真ん中にある炬燵に集まった。  窓から外の、昼間の公園の景色が見えて私が驚いていると、 「これは窓の代わりに、金属の板に風景を描いたものなんです

          夢十夜番外地

          単発小説『贖罪コンビニエンス』

          贖罪コンビニエンス  くたびれた眼差しをあげたその先に光っているのは、駅と家の間の道すがらにあるコンビニだった。もうすぐ十二時をまわる路上に人通りは少ないが、出入り口の脇には光に吸い寄せられているかのように二、三人、十九歳くらいの子達が何か食べたり飲んだり煙草を吸ったりしながら地べたに座り込んでいて、それはなんだか肩を寄せ合っているように見えた。そしてその光景を、五十歳くらいの会社員っぽい服装の男の人が少し離れた喫煙所でアイコスを咥えながら、顔をしかめるようにして眺めていた

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          単発小説『贖罪コンビニエンス』

          Swinging Chandelier:14-オディール≠オデット(上)

          Swinging Chandelier:13-オディール≠オデット  会社には偽物の観葉植物がある。ぜんたい、ぷにぷにとしていそうで葉の先端は尖っている。それは窓に面した通路に置かれているから、毎日目に入る。  浮島と、わたしたちは呼んでいた。それはコンセントや充電ケーブルや文房具を中央部分にまとめた大きなテーブルで、わたしたちはその周りに立ったり座ったりしながら仕事をする。浮島のどのあたりに誰が位置取るのかに規定はないが、大体みんな行きたい場所があった。同じ作業をする人、

          Swinging Chandelier:14-オディール≠オデット(上)

          お茶代課題2月ヒョーロン部門『J-POPまもるくんの謎』

          ※有料設定ですが全文無料で読めます。  脱輪さんが主催する文芸サークル"お茶代"の2月の課題に挑戦しました。  テーマは「守る」歌詞。  今回私は主に「守る/守りたい」というラブソングを想定して記事を書いています。  この二つの問いに明確さを持って答えられるか正直自信はない。「守る/守りたい」という歌詞のラブソングは確かに多数あり、それぞれ意味は異なるだろう。  ただ一般認識として「守る/守りたい」という歌が主にヘテロセクシュアルの男性から女性に対するメッセージとして歌わ

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          お茶代課題2月ヒョーロン部門『J-POPまもるくんの謎』

          「エモい」は、 「えも言われぬ」い、んですか? 「エモーショナル」い、んですか?

          「エモい」は、 「えも言われぬ」い、んですか? 「エモーショナル」い、んですか?

          『哀れなるものたち』 あふれだす五感の情報に気持ちよく振り回されたくなるのですが、ここぞというところで思考する場所に引きずり出される。そんな映画です。 #哀れなるものたち

          『哀れなるものたち』 あふれだす五感の情報に気持ちよく振り回されたくなるのですが、ここぞというところで思考する場所に引きずり出される。そんな映画です。 #哀れなるものたち

          Swinging Chandelier:13-孟買青玉

           鍵を閉める。外の廊下を歩いて階段を降りる。駅まで十分と少し。肩にかけた鞄はうちの会社に登録してくれている革職人のセミオーダー品。オフィス用のモデルは軽めでパソコンも入るし、何よりデザインが可愛い。ハイウエストのワイドパンツに丈の短い上着を合わせて、ショートブーツのヒールが鳴る。  住宅街の庭からのぞく鉢植えのビオラを横目に歩き、繁華街を貫く大通りに出ると街路樹の花水木の葉がまばらに色づいていた。駅に向かう人の忙しい塊に混じりながら歩き続ければわたしも勝手に足早になる。改札を

          Swinging Chandelier:13-孟買青玉

          Swinging Chandelier:12-最高の日曜日

           捨てる。棄てる。  とにかく、すてる。  いつも渡すアカウントに登録された名前、郵便受けに溜まるダイレクトメール、他人の体温。  いつもみたいに「可愛いね」と言われる。いつもみたいに淡く微笑んでおく。いつもみたいに裾はたくしあげられる。いつもみたいにその手の甲を静かに撫でる。  あー良かった。昨日眉ティントしておいたからあとで化粧落としても気が楽。あとそれ、リバーレースの下着だから爪引っ掛けないように脱がして。  トン、と肩から押されてシーツに背中を預ける。頸を口唇が噛

          Swinging Chandelier:12-最高の日曜日

          Swinging Chandelier:11-土曜の夜

           鏡の前に立つ。あまり大きくはならなかった乳房、ジム通いで絞った腰、尖った肩、一五〇センチとあと少しあるかわからない背丈。作り込んで、いや作り物めいているから、かえって気分は楽になる。  鎖骨が綺麗に見えるボートネックの、ふくれ織りの生地を使って上半身を少しタイトにしながら、切り替えからソフトプリーツがふんわりと広がるシルエットのワンピースを着る。財布とスマホと化粧ポーチを入れたらもう容積が埋まってしまうくらいのハンドバッグ。まぶたにはスモーキーなライラックのグラデーションを

          Swinging Chandelier:11-土曜の夜

          感覚するということを認識するということ。自覚された身体、躯。

          感覚するということを認識するということ。自覚された身体、躯。