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福井の郷土料理は「地味」なれど「滋味」である ~佐々木京美さん~
今回ご紹介するのは、福井の郷土料理研究家で食プロデューサーでもある佐々木京美さん。福井の特産品を使った新たなお土産の商品化や、水ようかんといった既存商品のブランド化、農林水産省の6次化プランナーなど、数えきれないほどの食にまつわる企画・プロデュースにかかわっておられます。
7月のジオリブ公開講座でのお話などから、印象的だったお言葉をいくつかご紹介します。
❚ 日常にあるものでおもてなしをする
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福井を代表する食材には、甘エビ、カニ、ぐじ(アカアマダイ)などがあります。近海で獲れるこれらの食材は、新鮮だからこそ美味しいという食の魅力があります。
『高級でなくても、日常の暮らしの中で手に入る今あるもの、過去に保存した食材をいかに美味しく食べるか、人にもてなすかが福井の郷土料理の特徴』
郷土料理とは、地域の女性たちが脈々と受け継ぎ、互いに情報やモノを交換しながら世代を超えてブラッシュアップされたものだとか。決して高級ではないけれど、時には身近な食材でつくられた「おもてなし料理」にもなります。だから、郷土料理をみればその地域の自然や歴史、人々の暮らしがわかるんですって。
❚ 精進料理一つとっても・・・
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信仰心の厚い福井といえば、やはり精進料理が有名で、こちらもまたユニーク。福井の精進料理は大まかに、
曹洞宗の永平寺で作られる精進料理
臨済宗の大安禅寺で作られるお殿様のための精進料理
浄土真宗の報恩講で地域の女性が作る精進料理
に分けられるそうです。ちなみに、1. 永平寺の精進料理には、もてなす相手や目的によって、下の表のようにたくさん種類があるんです!
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さらに、3. 浄土真宗の宗教行事「報恩講(ほうおんこう)」の時に、地域の女性が身近な食材でつくる精進料理(供養食)にも、福井特有のエピソードが。
奥越(大野市・勝山市)では、お膳のおかずに大きな油揚げが1枚添えられるんですが、食べずに家に持って帰るそう。それは、油揚げが大豆を豆腐にしたものをさらに貴重な油で揚げるという、まさに肉に代わるごちそうだったから。帰りを待つ家族も、お土産の油揚げを楽しみにしていたそうです!
注)報恩講:浄土真宗の開祖である親鸞の祥月命日の前後に行われる行事。
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❚ 即興で詠歌するほど嬉しい?!
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油揚げを調べていくと、面白いことに明治2年の古文書にこんな歌が残っていました。
「油揚げの 味戴くや 報恩講」(詠み人知らず)
この年は、あまりの物価高騰で報恩講の開催が危ぶまれたが、老旦那の支援もあって、なんとか供養食の油揚げを食べることができた。そんな喜びを、即興で歌にしたことがちゃんと書き残されてたんですねー。
福井の人々の暮らしに、こうした宗教行事がしっかり根付いていただけでなく、大豆からつくる油揚げがとっても特別な食べ物だったと実感できます。
福井の精進料理はホント奥が深いなぁ…。
❚ 食材を大切にする知恵と工夫
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『福井の食は華やかさはないが、手が込んでいて、カラダがホッとする「滋味深い」食べ物だということがわかった』
佐々木さんのおっしゃるとおり、福井の郷土料理は、食材をとても大切に扱っていて、実際に食べるとカラダが喜ぶような優しさを感じました。
『発酵食のへしこは、生きていくための保存食。一度にいっぱい獲れたらもったいないので、まず塩漬けにして糠に漬けることで、冬場に漁に出られない時に食する保存食だった』
『越廼(こしの)の漁師はイカを追いかけて漁をしていたので、越廼にだけイカのへしこがある』
厳しい気候風土で生きていくためには、食物が不足する時期に備えて蓄えておくことも必要。越廼のイカのへしこは、生きていくための知恵や工夫が詰まった、まさに結晶。
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『へしこは夏が熱くなればなるほど美味しくなる。「樽の表面にしらとりさん(カビ)が出たぞ!」となれば、美味しいへしこになったしるし』
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自然の力を利用して、その恵みをいただく。人間と自然が一体であり、とても理に適った暮らしを、福井ではずっと昔から続けていたんです。
『料理を通して、その地域の自然、歴史、人々の暮らしが見えてくる。料理から見えるものは、地域によって全然違う』
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フードロスや生活習慣病など、食にまつわる課題が山積するいま、連綿と受け継がれる福井の食文化を振り返ることで、新しい未来の道しるべがきっと見つかるんじゃないかと思います。