アカリ

わたしもいつかしぬ

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    過去のことを思い出して転げ回りながら書いています、読んでもらえたら嬉しいです。

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【はつこいふしまつ】 前編

 私はついに冷静になった。精神をひんやりとした風が吹き渡り、湿度の低いその風は、身体までをも軽くしていった。ここ最近の混沌が嘘のように胸の中が透き通っている。自分の胸がゆっくり上下するのを意識して、これまで息をちゃんとしていたことなんてなかったのではとあやしんだ。ものがまともに見えるのは実に二週間ぶりのことだし、もしかしたらもっとずっと前からなかったことかもしれない。米良とはじめて出会った十歳の初夏から、十一年間、私はまともな呼吸なんかしてこなかったのかもしれない。 **

    • はじめての食欲不振レポート

      たぶん人生ではじめて食欲のない時期を過ごしている。 今日の昼、久しぶりの街での仕事が終わって記憶を頼りにサラダ屋にたどり着き、喜び勇んでわたしの好きなものしか入っていない魅力的なメキシカンサラダとシンハー(タイのビール)を注文した。二階席の快適な一角を確保して、さて、とサラダの乗ったプレートと対峙したところで、気付いてしまった。 少しも食べたくない。 わたしの目の前にはたっぷりの野菜にプリプリの茹で鶏がのせられたサラダがある。全体にかかっているサルサソースのミワクの香り

      • しゃっくりの話

        子どものころマジに半日以上しゃっくりが止まらなくなった日があって、あれは7、8さいのときだったと思うけど、怖かった。 その日は親戚の何か大きい集まりで誰かの家にいてみんなでちょっとゴーカな仕出し料理を食べていた。家族でそこに向かう道中からしゃっくり出始めてて、もともとしゃっくりよく出る子だったけどこの日のはトクベツしぶとく、息を止めても変な水の飲み方してもちっとも止まんなくて、食事しづらいし、親戚の子もいるのに恥ずかしいわで。わたしは恥ずかしいのに大人たちときたらニヤニヤし

        • パスタくらい気ままに作らせてくれ

          調理が好きだ。 台所に立ち、欲望の赴くままにわがままに包丁や火を使う時間は、曲がりなりにも自立した大人としてのわたしの自負を最も強く支えてくれる。 台所でわたしがするのはあくまでも調理で、わたしにとっての調理とは、食材のかたちや温度を変えていい感じに食べられるようにすること。 言葉が、料理、となるとなぜか尻込みしてしまう。一文字違うだけなのにおかしいのだけれど、料理? いやいやそんな大それたことはちょっと……とあとずさってしまう。 なんだろう、料理好きっていうとすごく本格

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        【はつこいふしまつ】 前編

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          肉魚魚肉海老肉烏賊

          出張先の夜、仕事先の人たちとの懇親会があった。会場となった店のコース料理はとてもワンパクだった。 前菜:燻製肉&白身魚ソテー メイン①:煮魚(おかしら) メイン②:海老フライ&ハンバーグ&トンカツ メイン③:鶏モモ唐揚げ&イカフライ ③以外すべて一人一皿、それも大皿。立派な量でくる。 前菜からタンパク質&タンパク質だし、そのあともタンパク質まつりである。タンパク質に全振りだ。揚げ物の次に揚げ物がやってくるのもスゴい。 メイン最後の皿のイカフライをくわえてモイモイ噛みながら

          肉魚魚肉海老肉烏賊

          みわくのグリーン車に今日は乗りませんでした

          仕事でわりと遠くへ行った帰り途、鈍行の上り列車は思っていたより混んでいた。7人がけのシートに隙間をひとつ見つけて、そっと身体をすべりこませた。 左の人は『安倍晋三 回顧録』を読んでいて、右の人はしきりに手を擦り合わせたり、祈るように組み合わせてはほどいたりする乾いた音を、絶え間なくたてていた。わたしはなぜか、油断できない気持ちになり、背を伸ばしていつもよりタテに長くなって、文庫本を読んだ。 左の人も、右の人も、わたしもずっと降りなくて、1時間半、左の人とわたしはページを繰

          みわくのグリーン車に今日は乗りませんでした

          フリーの骨

          ヒビが入った肋骨の痛みがようやく引いたと思ったら今度は左の手首が痛い。あたしは桐の箪笥かよ。 痛いほうの手首をよくよく観察してみると、とあるホネがポコんっと、痛くないほうにくらべて明らかに出っぱっている。えー。これ、痛いから気づいたけど、もしかして痛くなる前からこっちのホネだけポコってた? いやさすがにこれだけ左右差あったら(1cmくらい)、自分の身体のことだし、気づくよね? でも自信ないな手首とかまじまじ見ないし、もしかしてあたし何年も手首のホネ出っぱり人間だった??

          フリーの骨

          肋骨しめつけバンド

          分厚いサラシのようなものを胴にきつく巻いて暮らすようになって1週間。いまわたしの肋骨にはひびが入っていて、痛みの軽減のためと治癒を助けるためにその肋骨しめつけバンドを巻くことになったのだが、シンプルに苦しいし、暑くて煩わしい。せめて冬場なら腹巻きを兼ねられて良かったのだろうが。気を抜くと奇声を上げながら胴体からバンドをもぎ取り投げ捨てそうになるくらいには鬱陶しい代物だ。それでも毎日巻いてせっせと肋骨をしめつけているのは、やはり、巻くと痛みがかなり抑えられるのだ。 子どもが「

          肋骨しめつけバンド

          旬ブーム/梅酒売り

          梅しごとをしたくて梅酒用の瓶を買いに開店したてのスーパーに入った。近ごろのわたしは良い。地元の海であさりが育てば潮干狩りに出かけていき、里山でハーブが育ったと聞けば袋いっぱいに摘んできては保存食に加工し、青梅が売り出されれば梅しごとをする。さふいふ人にわたしはなりたい、というわけではなかったんだけど旬を楽しめてる気がしてなんかいいよねー。 行きつけのスーパーは2階に100円ショップが入っているから、梅を漬ける瓶はそっちで買うつもりでいた。ところが、はりきりすぎていたんでしょ

          旬ブーム/梅酒売り

          ●下書き日記放出 2021年〜2023年

          ここ数年の、下書きのままになっていた日記をまとめました。 ●2021年5月2日(日) 友だちのおごりで水上バスに乗せてもらった。水上バスってなんじゃいとおもったら、普通のバスみたいに街を走ったあと海に続く急坂をザブーンと下って船になるバスなのだそうだ。 なんというか、世の中にはいろんなことを考えて実行する人がいるなあ。人間って、面白!状態になった。(デスノートなつかしい) 海に入るときの水しぶきで前方の窓が真っ白になった。それが止むと普通にもうバスが船になって海に浮か

          ●下書き日記放出 2021年〜2023年

          海と砂粒

           海の見える町で過ごしたのは幼年期からはたちくらいの間までです。海は本当に見えるだけで、実際の海岸に行くのには自転車で40分ほどの距離がありました。それに小高い丘に囲まれた私と両親の家からは海など端っこも見えず、だからそれほど身近な存在ではなかったのです。ただ、通っていた小学校は丘の上にあって教室からは青い水平線がたしかに見えたので、海と、それからときどき見える遥かな富士山もちゃっかり一緒に、校歌に織り込まれていました。歌いながらまあ確かにね、見えるよねと思っていました。町は

          海と砂粒

          浅野屋のパンは高くておいしいね 信頼させてくれてありがと

          図書館に行ったら胸骨圧迫(心臓マッサージ)の講習がひらかれていて、わたしも飛び入りで圧迫した。圧迫用の人形の胸がべこべこへこんでは跳ね返ってくる感触が久しぶりすぎて懐かしかった。 昔ガードマンだった頃も(そんな頃があった)人形相手にかなり練習したものだが、10年以上もブランクがあるから身体が流れを忘れかけていたここ最近「そろそろ圧迫してえ〜」と思っていたのだ。丁度。イメトレだけじゃなく。 本当にいざというときって多分パニックになるから、多少頭がバグっても身体が勝手に動くくらい

          浅野屋のパンは高くておいしいね 信頼させてくれてありがと

          はちみつ/ごめんね

          はちみつを買おうね あの手この手で子どもを幼稚園に誘導しひと仕事終えた気分で青森から来たちょっといいニンニクを買った。はちみつを買い忘れた。毎日はちみつを買い忘れてもう1週間になる。 今朝は寒かった。布団のようなコートを恥ずかしげもなく着ていた。わたしは暦に振り回されない。3月だろうが寒ければただちにモコモコになれる。スギの花粉が飛び、河津桜が咲き、散歩をする人が増えている。春は進行している。ダウンの中でわたしの身体だけが冬をあたためつづけている。 ごめんね バラとユ

          はちみつ/ごめんね

          就寝前、古(いにしへ)の寝覚め爽快サプリを飲んだはずだ。おかしい。目が開かない。布団から出られないどころか、もはや起きるってどんなことだったかイメージすらつかめない。古はやはり駄目か。具体的には2016年のサプリ。そもそも寝覚め爽快ってどんな感覚だ。有り得るのか。そんなものはじめから無いんじゃあないのか。わたしたちは存在しないものを追い求めているのでは。 やっとのことで横に寝ている子どもに声をかける。子どもを起こすことで起きた子どもに起こしてもらうという作戦である。子どもは鮮

          2022年よんだ本を思いだせるだけ 後半13冊

          作品の重要な展開には触れていないつもりです。 ●レインボー・ローウェル『エレナーとパーク』 スクールバスもの! 乗ったことないくせにスクールバスに弱い。そういえば今年大好きになった小説、チョン・セラン『アンダー、サンダー、テンダー』もちょっとスクールバスものっぽかった(あっちは実際は路線バスだけど)。ティーンズが詰め込まれる乗り物って青春装置っぽくていい。 ボーイミーツガールものでもある。 生育環境が違いすぎるふたりのボーイミーツガール(ガールミーツボーイ)である、とい

          2022年よんだ本を思いだせるだけ 後半13冊

          5年前日記⑥

          子どもが5歳になった。 それで5年前の記憶がわたしのまわりをうろうろしている。 せっかくなので書きとめておこうと思う。 2018年2月6日(火) 4日前にわたしの切開されたお腹から取り出された赤ちゃんはよく寝る赤ちゃんのようだ。乳を飲み、助産師が心配するほどよく眠り、そして目覚めるたびにちょっと大きくなるみたいだった。頼もしい赤ちゃん。 ところで、わたしの乳首は蛇口と化した。 授乳がはじまってからというもの、助産師がかわるがわるやってきてはわたしの乳を揉んだりひねったり

          5年前日記⑥