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旬ブーム/梅酒売り

梅しごとをしたくて梅酒用の瓶を買いに開店したてのスーパーに入った。近ごろのわたしは良い。地元の海であさりが育てば潮干狩りに出かけていき、里山でハーブが育ったと聞けば袋いっぱいに摘んできては保存食に加工し、青梅が売り出されれば梅しごとをする。さふいふ人にわたしはなりたい、というわけではなかったんだけど旬を楽しめてる気がしてなんかいいよねー。

行きつけのスーパーは2階に100円ショップが入っているから、梅を漬ける瓶はそっちで買うつもりでいた。ところが、はりきりすぎていたんでしょうね。スーパー開店直後の時間だったものだから、100円ショップのほうはまだ開いていなくって、DAISOのシャッターの前でアイドリングすることになってしまった。DAISOの開店待ち。大創ガチ勢。シャッターの前にはわたしの他にも数人が並んでいた。おとなたちは まっている DAISOがあくのを まっている。

4リットル入る500円商品を買って右腕で抱きかかえ、ホクホク顔で1階に降りてキッチンペーパーを買い左腕に抱きしめて帰った。いい買い物をしたと思った。わたしはカサが大きいものにめっぽう弱いので、両手に感じる体積&重量に幸せを感じたわけだ。

梅酒瓶を買ったが梅酒を仕込むのではない。6歳の子どもが梅ジュースを所望しているのだ。昨晩のうちにへたを取って凍らせておいた青梅1キロを砂糖1キロと瓶で合わせ、冷暗所に置くだけだった。梅しごとっていうとやっぱりおかーさんが漬けてた梅干しのイメージがあって、あれは工程多いしすべての工程において雑菌の混入を防ぐのに大変気を遣っていた記憶がある。あれにくらべたらかんたんかんたん。うん、砂糖1キロ入れるのは気持ちよかった。梅しごとははじめてだから加減がわからなくて。2週間くらいで梅シロップができるんだって。どんだけ甘いのできるかな。

むかし梅酒に容積の半分くらい乗っ取られてる居酒屋でバイトしていた。
前店長がせっせと漬けては毎年売り切れずにきた大量の梅酒。それを引き継いだ新店長の命により梅酒大放出祭りを開催することになった。
「この大量の梅酒、ぜーんぶ減価償却済んじゃってるから。タダってことだから。タダのもん売って儲けましょ!梅酒は金のなる木!」
ということだった。
わたしたちは一丸となって梅酒を売りまくった。かなり安くした。1杯目100円とかにして。すでにタダのもんなので痛くも痒くもない。客におすすめを訊かれればとにかく梅酒ですねと恥知らずに答えた。
黒糖で漬けたもの、泡盛で漬けたもの、バリエーションが豊富だったので薦めやすくはあった。当たり年の梅酒もあれば仕込みがイマイチな梅酒もあり、イマイチ梅酒はシフト上がったバイトに飲み放題の賄いとして供された。最初こそ喜んでいたものの(無料のアルコール飲料!!アツい!!!!)、毎日飲むうちにありがたみは漸減し、今日も梅酒、明日も梅酒、梅酒梅酒梅酒ばーっかり…となってしまった。コロッケ現象。

しまいにはみんな、店長も、バイトも、常連も、梅酒にうんざりしていた。
そこまでして売りまくり、飲みまくっていたのに、梅酒の在庫はまだまだ棚いっぱいにあった。もう、梅酒を売り切るのが先か店がなくなるのが先かという感じだったし、実際どうなったのか、ほどなくしてバイトを辞めたわたしにはわからない。
その店での梅酒消費マラソンの記憶から、梅酒それは収納を圧迫するもの。梅酒それはタダで飲むもの。という誤った認知が刻み込まれてしまったわたしである。今生で梅酒を漬けることはないって気がする。



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