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水いぼ。子どもの5〜10%が発症し、トラコーマ鑷子(せっし)による摘除での治療法が一般的な感染症。
こんにちは、翼祈(たすき)です。
水いぼの正式名称は、伝染性軟属腫(でんせんせいなんぞくしゅ)といい、ポックスウイルス科に属する伝染性軟属腫ウイルス(molluscum contagiosum virus; MCV)という種類のウイルス感染が原因の皮膚の感染症の1つです。
一生の中で、子どもの5〜10%が水いぼを発症すると推定されていて、それほど珍しい感染症ではありません。皮膚のバリア機能が未熟な7歳以下の子どもに多い感染症です。
ヒトからヒトへ感染しますが、大人が水いぼを発症することは少例で、特にアトピー性皮膚炎など、アレルギー体質や湿疹のある人、その他の基礎疾患がある場合などの小さな人に多い感染症です。
最初に、伝染性軟属腫ウイルスが微細な傷や毛穴、肌荒れ、湿疹、乾燥肌などの皮膚のバリア機能が破れた部位から侵入し、皮膚の細胞に感染していきます。次に、その細胞の中で増殖し、その結果、水いぼとなって皮膚に出現します。
水いぼの潜伏期間は、14日から50日と言われています。免疫力が発達していない子ども達の四肢や体幹、下腹部、デリケートゾーン、太ももの内側などに主に出現します。とびひなど、二次皮膚疾患を発症するリスクもあります。
水いぼが潰れた所を触った手で肌を触ることでの皮膚の接触、タオルの共用などで水いぼに感染することが多いとの報告もあります。
一般的に水いぼは自然治癒することが多いですが、ごく稀に全身に広がって悪化したり、周りの人に水いぼを移してしまうこともあります。
今回は水いぼの症状、原因、トラコーマ鑷子などでの治療法、予防法などを紹介します。
▽症状
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皮膚と同じ様な色の1〜5mm程度の程度の常色~白~淡紅色の丘疹、しこりが多数現われます。水いぼに感染した初期は小さいサイズで、少しずつ大きさが拡大していきますが、1cmをほぼ超過する水いぼはできないといいます。水がさも入っているかの様なツヤツヤした柔らかいいぼで、かゆみや痛みは伴いません。
大きいサイズの水いぼは、中心部が凹んでいます。これも水いぼの典型症状です。痒みを伴うことから、ぶつかったり、ひっかくなどして皮膚を傷付けると、軟属腫が壊れて、炎症が起きてその後に自然治癒します。ごく少例で、その炎症が化膿したりする場合もあります。
水いぼの好発部位は身体と手足で、特に胸やお腹、腕の内側、脇の下などの肌が薄く、こすれ合う部分で増殖していく傾向です。
消失していく速度よりも、水いぼが次々と自分の皮膚に拡大していく速度の方が早く、一定期間水いぼの数は増殖し続けます。ですが、数ヵ月経過すると、その増殖と拡大は止まって、自然と消失していきます。身体の中の免疫反応に起因し、消失していくと想定されていますが、詳細な免疫反応は解明されていません。
水いぼは6ヵ月など1年以内に自然治癒することが1番多く、遅くても2、3年程度で自然治癒します。ですが、長い経過となることから、経過中に水いぼをひっかいてしまったり、皮膚がこすれて軟属腫が破れると、伝染性軟属腫ウイルスを含んだ軟属腫が別の部位の皮膚に付着し新しい水いぼが出現してしまいます。
▽原因
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接触感染が主な感染経路。
水いぼの中身は液体ではなく、実は伝染性軟属腫ウイルスを含んだ軟属腫と言われている固形が水いぼの中に詰まって存在します。ひっかくなどすると、この軟属腫が水いぼから突き出て皮膚に付くと、水ぶくれの中にいる伝染性軟属腫ウイルスが自分や周囲の人の皮膚の傷口や毛穴に接触することでそこの皮膚の細胞が水いぼに感染します。
プールの水では水いぼに感染しませんが、タオル、ビート板、浮き輪等を介して感染するケースがあります。水いぼの人と交流する時などは、直接皮膚に触れない様に注意を払って下さい。
▽重症すると?
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大人が水いぼに感染し重症化すると、薬や病気の影響で免疫不全状態に陥る恐れが高まります。また陰部の周囲にSTD(Sexual Transmitted Disease)として発症する可能性もあります。
▽診断基準
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ほとんどの子どもが典型的な経過を辿ることから、基本的には検査をせず、問診と診察で確定診断します。
▽治療法
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①摘除する
トラコーマ鑷子(さっし)という特殊なピンセットの様な道具を使用し、水いぼを直接摘除します。予めペンレステープという局所麻酔薬テープを貼付することで痛みは軽減可能ですが、小さな水いぼが沢山ある場合には数回に分けて治療を施します。
1回の摘除では終わらず、次の摘除が必要な場合は、次回受診前に患部にペンレステープを1~1.5時間貼って貰い、1回8ヵ所程度までトラコーマ鑷子で、水いぼを摘除します。
ですが、ペンレステープによるアナフィラキシーショックなどのアレルギー反応が出る可能性も極めて稀に起こります。水いぼの人の身体の安全を確保するために、ペンレステープの持ち帰りはお断りしている病院も多く、ペンレステープの使用を希望される方は、受診を希望される病院に直接お問い合わせして下さい。
ペンレステープは、水いぼを摘除する1時間から2時間前の時に貼付するのが最大の効果が得られると想定されています。 お時間を事前に計算してから受診して下さい。
ペンレステープを貼ってから1時間位経過してから、トラコーマ鑷子で摘んで取ると、痛みが和らいで水いぼが取れやすいといいます。また、入浴をする時、シャワーを流しながらご家族の方に摘んで、ペンレステープを取って貰うこともあります。
トラコーマ鑷子で摘除してしまえば、その瞬間にそこの水いぼは治癒します。皮膚を摘ままず水いぼのみを摘除することで、ほぼ痛みを感じることなく摘除できますが、子どもは怖がって暴れてしまうことから、なかなかトラコーマ鑷子での治療は困難が伴います。
小さな子どもでは耐え切れない痛みになることもあり得ますので、無理をさせないことが肝心です。水いぼを摘除した後は特に問題なく生活を送れます。入浴も問題なく、プールも可能です。
②凍らせる(冷凍凝固療法)
液体窒素を当てて水いぼを凍らせます。-196度の液体窒素を綿棒あるいはスプレーなどで患部に当てると、伝染性軟属腫ウイルスを直接凍結できることで、治癒することも早いケースもあります。
直接水いぼを摘出するよりも効果は低くなりますが、伝染性軟属腫ウイルスに直接ダメージを与えることで、経過観察や内服療法よりも効果は高いと言えます。
冷凍凝固療法を施した後は、かきむしらない様にし、清潔なガーゼなどで皮膚を保護します。
ですが、痛みを伴い、多くの水いぼに冷凍凝固療法を施すことも子どもが嫌がるので困難であること、液体窒素では炎症後の瘢痕や色素沈着が残ることもあり得ます。血豆や水ぶくれもできてしまうかもしれません。
③外用薬、内服薬
外用薬、内服薬でも水いぼの治療が可能です。痛みはありませんが、上記の治療法に比較しても治癒率は落ちます。
【外用薬】
硝酸銀ペーストの塗布タイプ、サリチル酸を含んだ、貼付するシールタイプ、ポビドンヨード、トリクロロ酢酸、イミキモド、カンタリジン、銀イオンクリーム、ビダラビン軟膏の塗布タイプ、といった様々な治療法があります。
ポビドンヨードは、消毒液タイプの治療薬です。少しずつ水いぼに綿棒などを使用して、ポビドンヨードを塗って1つずつ水いぼを小さくします。
硝酸銀ペーストとサリチル酸を使用した治療は、ほとんど痛みはありません。ですが、正常な皮膚に付けるとダメージを受けてしまう恐れがあるので、使用する際は要注意です。
ビダラビン軟膏は、抗ウイルス薬を含んだ軟膏タイプの治療薬です。
1日2回、朝と入浴後に毎日塗ると、水いぼのところだけ赤くなってきて、その後水いぼが消失していきます。一般的に、外用薬での治療を始めた後、平均2~3か月で水いぼが治癒するといわれています。3ヵ月以上かかる人でも治癒にかかる期間が短縮されると言われています。
【内服薬】
「ヨクイニン」と呼ばれる漢方の飲み薬を使用する治療法もあります。全員に効果を発揮するわけではありませんが、数ヵ月単位で服用し、水いぼに対する身体の抵抗力を上げていきます。
「ヨクイニン」は、ハトムギの皮を除いた種で、古くから肌トラブルに用いられる生薬です。 身体の水分バランスを整える作用や消炎作用があると言われていて、肌荒れや、いぼに効果があるといわれています。
海外では「ヨクイニン」を2〜3ヵ月の長期間に渡って内服する治療法で、顔面の水いぼに効果が認められたというケースがあります。
「ヨクイニン」での治療に関しては、長期間の漢方薬服用が必要となることで、ハッキリとした効果も見えづらいことから長続きしにくく、途中で水いぼの治療が断念されるケースが多い印象です。
④経過観察(自然治癒)
▽トラコーマ鑷子での水いぼの摘除にデメリットも
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❶痛みを伴うこと。
❷複数水いぼが皮膚に存在する時は、一部を水いぼを摘除しても増殖や再発を繰り返すため治療効果が得られないこと。
❸強い恐怖体験からトラウマになり、病院嫌いになってしまう場合があること。
❹治療を受ける子どもに恐怖体験や痛みの治療をしても再発が多いこと(水いぼは潜伏期間が数週から数ヵ月あることから、目に見えないところにも伝染性軟属腫ウイルスは既に、身体内に侵入しています)。
この4つの理由から水いぼがあることよりも、トラコーマ鑷子で摘除治療を行うことの方がデメリットが大きいと考えるからです。
▽予防
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・衣類、耐水性ばんそうこう、包帯等で覆い、他の人への水いぼの感染を防ぎます。
・皮膚同士の接触以外にも、タオルの共用、遊具、ドアノブなど不特定多数の人が触れる場所には、触る前に手を清潔にするなど、こまめに対応することを推奨されます。
・接触感染により水いぼに感染することから、日常的に手洗いの励行等の一般的な予防対策を行うことが重要です。
・日頃から皮膚の保湿を行いましょう(特にプールに入った後は皮膚表面のバリア機能が低下しやすいので、できればすぐに保湿しましょう)。
▽プールなどは?登園・登園の目安
プールの水を介して水いぼが移ることは無いことから、プールに入ることは禁止されていません。ですが、水いぼが潰れて中から飛び出してくる伝染性軟属腫ウイルスを含む液が皮膚に触れると他の人に移る場合があります。タオルなどの共有はしない様にして下さい。プールに入った後にはシャワーをしっかり浴びて、皮膚を清潔に保ちましょう。
日本小児感染症学会、日本皮膚科学会、日本小児皮膚科学会、日本臨床皮膚科医会のいずれにおいても水いぼに関して統一した見解では、「水いぼは幼児・小児によく感染し、放っておいても自然治癒してしまう場合もありますが、完全に治癒するまでには長期間を必要なことから、周りの子どもに伝染することを考慮して水いぼの治療をしていきます。プールなどの皮膚の触れ合う場所では水着やタオル、またはプールの浮き輪やビート板の共用を控えるなどの配慮が必要だと言えます。この水いぼのために、学校を休む必要はありません。」が掲載されています。
▽再診の目安
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・水いぼをひっかいて化膿してしまったとき
・水いぼの周りに湿疹ができ、かゆみを伴うとき
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参考サイト
私の水いぼ体験
私がまだ保育園の頃、スイミングスクールに行っていた時に、肩から上腕にかけて水ぶくれの様なブツブツが大量にできていたと母はいいます。
「もしかして…?」と思って、皮膚科を受診すると水いぼの診断で、トラコーマ鑷子の先で摘んで水いぼを潰していきましたが、「痛い!」と言って、私は泣いていたそうです。その後自然治癒したと聞きました。
この記事を書いていて思ったのが、私もトラコーマ鑷子で摘除する時に、ペンレステープを使ったはずですし、スイミングスクールで貰って来たということは、普通浮き輪やビート板などは共有ですし、そこで他の子から水いぼを貰って来たのかもしれませんね。
感染症の記事を書いて、合併症のことを詳しく書き出してから、書かなかったのは初めてだと思います。それ位、自然治癒でも時間はかかっても、完治する感染症なんでしょうね。
トラコーマ鑷子は、1回に摘除できる水いぼは限られてはいるものの、確かな治療法なんだろうなと思いました。
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