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移植片対宿主病(GVHD)の原因は、強毒な腸内細菌が発症に関与!大阪公立大学など発表。

こんにちは、翼祈(たすき)です。

この記事のテーマは、「移植片対宿主病(いしょくへんたいしゅくしゅびょう)」です。

まず、「移植片対宿主病(GVHD)」の説明をしたいと思います。

白血病の治療法ではドナー由来の他人の骨髄などから採取した同種造血幹細胞を移植しますが、その後、移植した同種造血幹細胞から生成される免疫細胞が患者さんの身体を「異物(他人)」と認識して攻撃する免疫反応で、皮膚がはがれる紅皮症(こうひしょう)や下痢などになることがあります。

「移植片対宿主病(GVHD)」は、同種造血細胞移植を受けた患者さんに発症する合併症で、患者さんの3~5割が発症し、命に関わる危険性もあります。

同種造血細胞を移植した後3ヵ月頃から2年までに発症しますが、3ヵ月以内や2年以降に発症することもあります。発症頻度は、末梢血幹細胞移植を受けられた人の60%程度、骨髄移植を受けられた人の40%程度で発症すると言われています。過去の研究成果で腸内細菌の一種が「GVHD」の悪化に関わることが理解されていました。

この記事の本題は、「移植片対宿主病(GVHD)」を発症する原因物質を解明した、研究成果となります。

白血病患者に骨髄移植をした後の重い副作用として知られる合併症「移植片対宿主病(GVHD)」の原因に、強毒な腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」が関与することを大阪公立大学の植松智教授、東京大学の井元清哉教授と藤本康介准教授の共同研究チームが発見しました。

この腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」だけを「狙い撃ち」できる酵素の合成にも成功し、新しい治療法の開発に結び付く可能性も、酵素の投与で合併症の発症で亡くなることを減らせることを動物実験で示し、2024年7月11日、イギリスの科学誌[ネイチャー]にて掲載されました。

これから患者さんでも効果を確かめてこの酵素が実用化すれば、白血病を治療することの安全性が向上していきます。

今回は、移植片対宿主病(GVHD)の発症の原因になる、腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」について取り上げます。

移植片対宿主病(GVHD)の原因の腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」を突き止めた研究成果

画像引用・参照:毒性の強い腸内細菌が造血幹細胞移植の重篤な合併症を引き起こすことを発見 -ファージ由来の溶菌酵素による新規治療薬の開発へ- 東京大学医科学研究所(2024年)

「GVHD」で亡くなるリスクを高める要因として、骨髄を移植をした後に特定の腸内細菌が増殖することが報告されていました。

研究チームは造血幹細胞の移植を受けた患者さん46人の便を採取し、その中に含まれているDNAを分析しました。すると10人から「エンテロコッカス・フェカーリス」という今まで「GVHD」との関連が疑われていた腸内細菌を発見しました。

「GVHD」を発症した患者さんにはこの腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」が多く、その中に赤血球を溶かす強毒性があることを解明しました。

この腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」は膜状のバリアを作る遺伝子を持ち、患者さんに投与される抗菌薬から逃れて増殖していると推定されました。

さらに、この腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」だけを攻撃する「バクテリオファージ」と呼ばれるウイルスの遺伝子も同時に検出されました。このウイルス「バクテリオファージ」が生成する、患者さんの便からとれた腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」には、身体細胞を傷付けたり、それ以外の微生物を溶かしたりする毒性があると分かり、免疫の働きを活発にして「GVHD」のきっかけになる可能性が考えられました。

そこで研究チームは、無菌状態で生まれたマウスに、今回発見されたマウスの腸に定着させて強毒性がある腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」だけを定着させて、「GVHD」を発症させると、25日間で4割から5割の半数近くが死にましたが、他の細菌を定着させたマウスより生存率が下がることを確認できました。

酵素を投与し、腸内細菌「エンテロコッカス・フェカーリス」を除去したマウスは、1匹も死にませんでした。

参照:白血病治療での骨髄移植後の合併症を悪化させる腸内細菌を特定、細菌を攻撃する酵素の合成も成功 読売新聞(2024年)

血液内科が専門の、東京医科歯科大学の副学長の男性は、

マウスでの動物実験でしたが、合併症の症状がとても改善されたという手応えがありました。腸内細菌『エンテロコッカス・フェカーリス』がどう悪化に関与するかを見出した意義は大きいです

とし、

「実際の患者さんに活用できる新しい治療法へと、既存の薬が効かない難治性『GVHD』に効果のある画期的な治療薬の開発へと結び付くことに期待し、研究を進めて頂きたいです」

と述べました。

注意点

「移植片対宿主病(GVHD)」が重症化すると、感染症を併発したり、生活の質(QOL)の低下を誘発する場合があります。起こりやすい場所は皮膚、肝臓、眼、口腔です。

皮膚に発症した時には、皮膚が硬くなったり、湿疹が出たりします。逆に色が抜けて白くなったり、皮膚の色が黒くなったり、脱毛が認められる場合があります。

口腔に発症した時には、歯磨きや食事をすると痛みが出たり、白い網目の様な変化が口の粘膜に認められたりします。

目に発症した時には、目の痛みや充血、目の表面が乾燥してドライアイ、涙が出づらくなります。食道に発症した時には、飲み込む動作、嚥下が困難になる場合があります。

肝臓に発症した時には、無症状な場合が多いですが、血液検査で肝機能値(ALT、AST、ALPなど)の上昇が認められます。関節の曲げ伸ばしが困難になり、筋膜が硬くなる場合があります。

肺に発症した時には、閉塞性細気管支炎と呼ばれ、運動している時に息苦しさを感じたり、喘息の様な喘鳴音が聞こえたりします。それ以外の臓器にも、症状が出現する場合があります。

難治性の「GVHD」の治療は「GVHD」の重症度と患者さんの病気の感染症、再発リスクなどの合併症を総合的に評価して実施します。一般的には、難治性の「GVHD」が軽症の時には外用薬などの局所療法を実施します。中等症または重症の時や、局所療法のみで改善に乏しい場合は、ステロイド内服をメーンとする全身治療を実施します。

難治性の「GVHD」の治療を受ける時には副作用の対策をすることが非常に重要です。

例を挙げると、骨密度が低下することが多いことから、骨密度の確認が必要です。

また、糖尿病になっていないか定期的な確認も必要です。

感染症を予防するために、アシクロビルという抗ウイルス薬や、ST合剤という抗菌薬の内服を処方する場合が多いです。

また、満月様顔貌(ムーンフェイス)、白内障、中心性肥満、ステロイド挫創(ニキビ)、高血圧、皮膚が薄くなるなどの副作用もよく認められます。

こうして見ると、「移植片対宿主病(GVHD)」もとても重大な副作用のある合併症でした。今回の研究はとても価値のあるものだと思いますし、この研究成果で、「移植片対宿主病(GVHD)」の発症が抑えられる様になって欲しいです。


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