オマタアヤノ

イラストレーター ⌇個展で展示していたエッセイを掲載しています。【a.omata77@…

オマタアヤノ

イラストレーター ⌇個展で展示していたエッセイを掲載しています。【a.omata77@gmail.com】

最近の記事

【吉祥寺のカフェにて】

私のお仕事先のひとつは吉祥寺の近くにあって、だから私は吉祥寺でお昼ご飯を取ることが多い。 今でこそ、お隣のテーブルと距離があいていたり、透明なアクリル板のパーテーションがつけていられたりするけれど(私はひとの気配がとても気になるので、これは大層ありがたいと思っている)、お昼時の吉祥寺は「いかに人数をいれるか」が勝負なところがあって、左右のテーブルとの距離が近く、お隣の会話が自然と耳に入ってしまうことが常だった。 お昼の吉祥寺は、ベビーカーを引いたお母さんたちの憩いの場であ

    • 【赤】

      自分のテーマカラーがあるとしたら、私にとってそれは赤い色で、単純に「ぴったり収まる」心地がするからである。 出会いというと大げさだが、私が赤と向き合ったタイミングは明確な出来事があり、大学生のころの芸祭(美術大学の学生は学園祭をこう呼ぶ)のフリーマーケットでのことだった。 芸祭のフリーマーケットでは、学生がおのおの好きな物を売る。 それは作品を収録した画集だったり、写真だったり、手作りのアクセサリーだったり、古着や使わなくなった小物だったりした。それをピクニックで使うビ

      • 【瞼の裏の赤い光】

        むかしから、眠ることが嫌いな子どもだった。 今も、眠ることがあまり得意ではない。 たくさん動いて、くたくたになるまで疲れて、這うように布団に潜り込んで意識を失う。そういうやり方でしか眠る方法がわからない。未だに。 子どものころは、別に眠くなくても眠るように言われるので、毎日結構つらかったと記憶している。 大人はまだ眠る時間ではなかったから、廊下から漏れてくる光で薄く見える時計の針が、ほんとうに少しずつ動いていくのをただジッと見つめていた。それにも飽きると、空想ばかりし

        • 【ハート型】

          ハート型がすきだ。 ハート模様ではなく、ハート型。 これはもう私にとっては動かしようのない事実で、無条件での好意であり、好きな理由すら思い出せないのだった。 ときめく対象は、アクセサリーだったり、バッグだったり、クッションだったり、食べ物だったりする。とにかく、シンプルなハートの形に目が惹きつけられる。 心地よいとか、好きだ、という気持ちよりも先に「自分のもの」のような気がしてしまうのだ。 あるときふと、私の母はわたしの持ち物すべてに、同じ模様を描いていたことを思い

        【吉祥寺のカフェにて】

          【いちごタルト】

          近年、苺の色が鮮やかになったような気がする。 鮮やかになっただけでなく、甘くなった。 私が子どものころに食べていた苺はもっと色が薄く、酸っぱかったように思う。だから幼いころのわたしは苺を潰して、牛乳と白砂糖をかけて、うつわの中でかき混ぜてよく食べた。 苺というものそれ自体が、赤々として甘みが増していくにつれて、砂糖を混ぜる習慣が無くなった。それを裏付けるように、いちごを潰すためのスプーンを見なくなったように思う。スプーンとフォークの間の子のような、苺を潰すためだけのスプ

          【いちごタルト】

          【香水】

          幼い頃、香水というものが苦手だった。 こどもは香りに敏感だったりとか、当時の流行りの香りも関係があったのだと思うが、口の中が砂糖でじゃりじゃりしそうなくらい甘いバニラの香りや、鼻を突き刺すようなムスクの香り、お香を浴びてるみたいな白檀の香りなんかがすれ違う人からすると、とにかくそこから逃げ出したかった。 けれど、香水瓶は好きだった。 実用性よりも心をくすぐるデザイン性に特化した、香水の綺麗な色の液体が透ける、あの宝石みたいな瓶がとても欲しかった。 大きくなり、香水を自

          【口紅】

          お化粧品の中で、いちばん口紅が好きだ。 唇に色を乗せるだけに存在する、手のひらに収まるあの形が、たまらなく美しいと思う。 赤にピンク、オレンジにブラウン。 コスメカウンターに行くと、所狭しと並ぶ僅かな色味の差の海に、圧倒される。 潤いを与える瑞々しい質感のものは、唇に蜂蜜が広がったみたいな心地がするし、ベルベットみたいなこっくりマットな質感のものは、唇に引くとチョコレートみたいな感触がする。なめらかで淡くシアーなものは、薄い花びらが描けそうな繊細さをしている。 ラメ

          【占い】

          つい気になってしまうものの1つに、占いがある。 たとえばお正月に引くおみくじとか、雑誌の巻末の星座占いとか。 いい結果だと嬉しくなるし、悪い結果だと、気にしなければいいものの、やっぱり少し落ち込む。 けれど占いの良い悪いの結果に特に人生を左右されたことはなく、読んだ側から細かなことがらは忘れるので、あんまり何が書いてあったかは覚えていない。 多分、そこそこ占いを受けたことがある方だと思う。 手相占い、姓名判断、星座占い、四柱推命、カラー診断とか、あとは花のレイを首か

          【お風呂】

          大きいお風呂が好きだ。 大人になってから、大きいお風呂だから、ではなく「決められていない時間に、のんびり湯につかること」が好きなのだと気付いた。 温泉にしてもスパ施設にしても、今日はお風呂にゆっくり浸かるぞ、という気持ちで向かうので、あんまり浸かる時間の終わりを決めていない。それが好きだ。 服にも時間にも縛られず、暖かな湯の中でぼんやりしていると、なんだか現実から遠のいている感じがする。 湯に浸かって温まる以外にすることが無いというのは、結構な贅沢だと思う。 不思議

          【バラ】

          バラという花が長らく苦手だった。 というのも、煌びやかで豪奢、というものをかたちに起こした花だと思っていたので、何層にもたっぷり布が重なったドレスのような重厚感をもって私の目には写っていた。 花屋の中でも庭にあっても、気取っていて、群を抜いてとても存在感を放つ花であったため、バラにはいつも圧倒されてしまう。 近くにあると落ち着かない花だった。 貰うと嬉しい反面、やはり自分の側にあるとそわそわしてしまう。 この存在感に自分が見合うと思えず、長らく縁遠いと思っていたのだ

          【レモンティー】

           子どものころ紅茶を頼むとこう聞かれた。  「ミルクとレモンとストレート、どちらになさいますか?」  近頃、レモンティーの存在感が薄れつつある気がする。  だいぶ昔に遡るが、かつてはドリンクバーにも、薄く切ったスライスレモンが置かれていた。銀色の小さい蓋つきの入れ物に入っていて、小さい銀色のトングが添えてあって。  わたしは昔からミルクティーが好きだったけど、夏、アイスティーにスライスレモンを多めに入れて、サッパリしたレモネードみたいに飲むのは好きだった。紅茶の赤色のてっぺ

          【レモンティー】

          【カブトムシのゼリー】

           クリスマスが近づく寒い時期は、ナッツやシナモンの香りがするこっくり甘い香水をつけている。そんな頃、六歳の男の子たちがわたしに近づいてきたときに「なんだかいい匂いがする」と言った。わたしは素直に悪い気はしなかった。  「この匂いぜったい知ってるんだよなあ」  「なんだっけ、これ」  「あ、わかった!カブトムシのゼリーだ!」  「ほんとだ、これカブトムシのゼリーじゃん!」  わたしの身につけていた香水は、瞬く間に「カブトムシのゼリーの香り」として彼らの間で人気になった

          【カブトムシのゼリー】

          【アロエのジュース】

           小さいころ、アロエのジュースが好きだった。近頃はめっきり見なくなったアロエのジュース。  ペットボトルの中のうすく透けた白い液体に、透明なアロエの果肉が沈んでいた。パッとみた感じはカルピスをさらに薄めた感じで、果肉がどこに入っているのかわかりづらかった。  甘くて、さっぱりした味がする。と思って飲んでいた気がする。遠い記憶の味や匂いは、なんとも言葉で伝えづらいものだと思う。  先日、定期で頼んでいるヤクルトのおまけでジョアのマスカット味をもらった。ジョアは小学校の給食で飲

          【アロエのジュース】

          【スキンケア】

           面倒だけれど好きなもの、の筆頭がスキンケアである。  いろんな形のボトルに入った、顔や体をきれいに保つ為の、透明な液体とかクリームとか。お風呂上がりに順番に塗り込むあの時間。  いろんな質感のものがあるのが面白い。私はこっくり、と表現されがちなかたいクリームが好みで、触るたびに、一晩置いて少しばかり状態が悪くなってしまった生クリームのことを思い出す。私はケーキを買った翌朝に、あの硬く縮んだ甘いクリームを食べることが、結構好きだ。  逆にしゃびしゃびした水みたいな化粧水と

          【スキンケア】

          【チャイナドレス】

           わたしのお友だちは普段着にチャイナドレスを着る人で、最初は驚いたものの、今では見慣れてしまった。歴史や文化的な部分は置いておいて、目に慣れてしまうと、ロング丈のワンピースとほぼ変わりないように思う。  彼女いわく「コンパクトに畳めるから長旅に最適」とのことで、言われてみれば、縦にまっすぐな形の、すっきりとした衣服なので、確かに荷物を小さくまとめるには適しているのかもしれない。  チャイナドレスを纏う彼女はどこを歩いていても絵になった。姿勢が良く歩き方が軽やかで、品がいいこ

          【チャイナドレス】

          【友人について】

           高草滋汰くんは作家の友人で、よく絵を描きながら通話をする。彼の話題は問題提起や、相手の人生に踏み込んだ疑問が多い。ずかずか土足で踏み込むようで明日には忘れているような、そんなに深くも浅くも無い会話。さながら深夜ラジオのような時間だ。  ある夜の話題は「友人をどの要素で選んでいるか」だった。考えたこともなかった。友人を「選んだ」自覚が一回もなかったからである。なんて傲慢な、とさえ思った。  ただ私に自覚がないだけで、普段身の回りに居てくれる人々は自分の選択の結果だとも言える。

          【友人について】