【赤】
自分のテーマカラーがあるとしたら、私にとってそれは赤い色で、単純に「ぴったり収まる」心地がするからである。
出会いというと大げさだが、私が赤と向き合ったタイミングは明確な出来事があり、大学生のころの芸祭(美術大学の学生は学園祭をこう呼ぶ)のフリーマーケットでのことだった。
芸祭のフリーマーケットでは、学生がおのおの好きな物を売る。
それは作品を収録した画集だったり、写真だったり、手作りのアクセサリーだったり、古着や使わなくなった小物だったりした。それをピクニックで使うビニールシートの上なんかに並べて好きに売り買いをする。そういう小さなお店がところ狭しと並んでいる。自分の「好きなもの」がはっきりしている人が多いので、パッと見ただけで、その人の趣味とか雰囲気とか世界観が、ビニールシートの上から伝わってくる。
そのなかのひとつに、レトロなワンピースを身にまとったお姉さんお店があった。
そのビニールシートの上のお店は古着ばかりが並んでいて、その中にひときわ目立つ真っ赤なワンピースがあった。それは丸襟で、胸まで小さなボタンが付いており、Aラインの細かいプリーツスカートが膝まで広がっていた。細かいドット柄で、全体はポストみたいな鮮やかな赤。ほぼ未使用の新品だった。お姉さんがいうに、お迎えしたけど、鮮やかすぎるので殆ど着なかったものなのだと。
値段を聞くと、300円。
毎日の制作費が嵩み寂しいお財布だった私の懐にもやさしかったため、迷うことなく赤いワンピースは私のワードローブに追加された。
持ち帰って家で身にまとってみると、それはとてもしっくりと肌に馴染んだ。
全身鏡でみたとき、あ、と声が出た。似合う似合わないという段階を超えて、「これに見合いたい」と思える服に初めて出会ったからであった。
そこから私のクローゼットとバッグの中身はまるっと一変して、Aラインのワンピースと、ポストみたいな鮮やかな赤い小物でいっぱいになった。赤が増えるたび、幸福感に苛まれた。幸福を与えてくれる色だと本気で感じた。
多分それ…幸福とか心を落ち着かせるとか、目に入ると感情を動かすような…を感じさせるはものは、人によって違う色やかたちや模様をしていて、きっとそれが私にとってはポストみたいな鮮やかな赤い色、なのだと思う。
そういう経緯で、私は赤のことを「300円の出会い」だと称している。
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