【カブトムシのゼリー】
クリスマスが近づく寒い時期は、ナッツやシナモンの香りがするこっくり甘い香水をつけている。そんな頃、六歳の男の子たちがわたしに近づいてきたときに「なんだかいい匂いがする」と言った。わたしは素直に悪い気はしなかった。
「この匂いぜったい知ってるんだよなあ」
「なんだっけ、これ」
「あ、わかった!カブトムシのゼリーだ!」
「ほんとだ、これカブトムシのゼリーじゃん!」
わたしの身につけていた香水は、瞬く間に「カブトムシのゼリーの香り」として彼らの間で人気になった。
ちいさな男の子たちにとって「甘くていい香りのするもの」の記憶の引き出しの手前にあるものが「カブトムシのゼリー」だと言う事実がとてもすばらしく思えて、わたしの人生のお気に入りの思い出になった。
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