マガジンのカバー画像

アポロが超泣いたお気に入り🍀

162
超泣けるやつをここへ入れとこ〜っと♬
運営しているクリエイター

#ショートショート

繋ぐ者【秋ピリカ】

繋ぐ者【秋ピリカ】

「生きるって、どういうことだと思う?」

そう口にすると、彼女は視線を落とした。
先程まで絡めていた指はもう熱を失っていた。

「そんなこと、わっちに聞くかえ?客を取って、明日のおまんまの金を稼ぐ。遊女なんて、食いっぱくれないように今日を生きてくのに精一杯さ」

彼女は起き上がり、煙管に火を付けた。

「そういうお前さんはどうなんだい?」

「そうだな..歪んだ結び目を解いて、また紡いでいく、って

もっとみる
名もなき夜に【#夜行バスに乗って】

名もなき夜に【#夜行バスに乗って】

帰る、ということは
帰る場所がそこにあるということだ。

帰る場所には待っている人がいる。
それで初めてそこがホームとなる。

僕の帰る場所と呼べるところは、
もうどこにもない。

東京の部屋はただそこに居を構えているだけで、帰る場所という言葉には値しない。僕の帰る場所はずっと、生まれた時から住んでいたあの家しかなかった。

だけど、父を追うように安らかに空へ還った母の葬式を終え、実家を処分して荷

もっとみる
絵描きの掌編 〜空っぽの御伽話〜

絵描きの掌編 〜空っぽの御伽話〜


空っぽの御伽話

 彼はおとなになっても、穴を発見すると指を突っ込む癖が治りませんでした。
 塀の穴も壁の穴も、幹の穴や蟻の巣も、土竜や蛇の穴だってとりあえず指を突っ込みます。きっと銃口を向けられても、指を突っ込むに違いありません。
 彼は土を捏ねる陶器作りの職人見習いだったけど、彼の作る器には不自然な穴が存在して実用性が全くありません。師匠に良くも悪くも見放され、非実用性過多の陶器作家として、

もっとみる
【140字小説】余白

【140字小説】余白

春の柔らかな雨が降る午後だった。
私は水色の傘を差して図書館に向かう。

久しぶりに手に取った「海辺のカフカ」。
253ページ目に、鉛筆で薄く「好きです」の消し跡。
それは見つけてもらうのを待っていたのだろうか。

言葉たちは魂を宿し、私に教えてくれる。
本に閉じ込められた愛は永遠になるのだと。

—-

今日は春の柔らかな雨が降っていて、
本に囲まれた空間に行きたいなぁと。
本の余白にもきっと、

もっとみる
たぬきちが帰ってきた🐾 (絵描き泣いてよろこぶ)

たぬきちが帰ってきた🐾 (絵描き泣いてよろこぶ)

愛すべきわれらがたぬきちくんの物語

アポロ作 「こたぬきたぬきち、町へゆく」 リメイク版アルファポリスで、ついに発表されました。

たぬきちくんの化け兄である、アポロくん (普段は俳人や詩人や絵描きなどなど多彩な人物に化けている) の、note活動の原点でもある (と、勝手にひろ生が思ってる) と思われる、この、キュートでスウィートでラブリーなたぬきちくんの、センチメートル……じゃなくて、センチ

もっとみる
さよならロザリオ 4

さよならロザリオ 4

ナオが居なくなって一週間が過ぎた。

ナオと同じ部屋のミズキは先生に呼ばれ、ナオから何か聞いていないか、行き先に心当たりはないか聞かれた。

ミズキの知っているナオは、いつも冷静だった。不機嫌を顔に出したり、暗い顔をしていたこともなかった。かと言って、楽しそうにしている顔も、笑っている顔もあまり見たことがなかった。

なにかあったのかな。検討もつかず、ナオのことを思い浮かべながらも、ミズキの視線は

もっとみる
【ショートショート】おでんのつゆ20円 お気軽にどうぞ

【ショートショート】おでんのつゆ20円 お気軽にどうぞ

小さい老婆が、弱々しく声を掛けてきた。

「おでんのつゆを、売ってくださいませんか」
「・・・え?」

真冬の深夜2時半。ふと見上げたバックヤードのカメラに映る老婆。最初は幽霊かと思った。ビビりつつ、レジに出て声を掛ける。高齢のホームレスのようだ。

「つゆを、売ってください」
老婆は右手を差し出す。一瞬身構えたが、彼女の手には10円玉が2枚。

「すこしでいいので、おねがいします」
彼女の指先は

もっとみる
『火の鳥』

『火の鳥』

山奥に「幼子村」という小さな村があった。
十にも至らぬ子供達。病弱な母を看病している子、幼い兄弟達を面倒みる子、老人の目や耳になる子。長年この土地を蝕む流行病…動ける大人達は 永遠の命を火の鳥に追い求め、家族を残して旅に出たまま この村に戻って来る事はなかった。それでも笑顔を絶やすことなく微笑み続ける子供達。病む者に、弱き者に笑顔を与えられる事を知っていたから。

火の鳥を追い求める者に残された者

もっとみる