『火の鳥』
山奥に「幼子村」という小さな村があった。
十にも至らぬ子供達。病弱な母を看病している子、幼い兄弟達を面倒みる子、老人の目や耳になる子。長年この土地を蝕む流行病…動ける大人達は 永遠の命を火の鳥に追い求め、家族を残して旅に出たまま この村に戻って来る事はなかった。それでも笑顔を絶やすことなく微笑み続ける子供達。病む者に、弱き者に笑顔を与えられる事を知っていたから。
火の鳥を追い求める者に残された者達…ここはそんな子供達の居付く村。
とある凍えるような冬の夜。闇空に一筋の紅い光が線を引く。
素足のまま薪木を集めていた子供達は 手を止めて空に描かれたその光の行方を呆然と眺めていた。
その光は徐々に村近くの山へと迫り、霞池のある場所へと落ちて行った。
各々の顔を見合わせ頷く子供達は、抱えていた薪木を地面へと散りばめ 一斉に池へと走って行った。吐きだされる吐息が一瞬にして結晶へと変わる。子供達の足跡の上に残された吐息が闇に光り 輝く道筋を作り出す。
ぼーっと放たれる紅い光の中に 一羽の鳥が横たわっていた。
ボロボロになった翼に 縄の巻かれた細い足。石の形がくっきりと浮かび上がる胸の痣に 矢で傷つけられた首。
火の鳥
自らの親たちが追い求め 去って行った…その鳥が目の前にいた。
一人がそっとその傷口に手を添えると、次々と他の子供達も手を伸ばす。
血相を変えて矢を放つ者、石を投げる者、縄を飛ばす者…優しかった大人達の変わり果てた姿が見えてくる。
親が恋しい…隠していた気持ちは子供達の瞳から溢れ 火の鳥から流れる血を洗って行く。
子供達は優しく火の鳥を抱え そっと村一番大きい木の麓に運んだ。
誰一人として、火の鳥を大人に差し出そうと提案する者はいない…自らの上着を掛ける子、翼を撫でる子、傷に洋服を引き裂いた布を巻く子、子守唄を歌う子…子供達は最後の息を吐く火の鳥に そっと微笑を贈った。
ゆっくりと消えた紅い命。辺りは闇に覆われ しんと静まり返る。
と、手の中で息絶えた火の鳥が仄かに光を放ち始め パンとはじけたかと思うと 光り輝く蓮の花々が宙に舞った。それは暖かな光を放ち、くるりと回りながら 子供一人一人の元へ降りてくる。子供達の小さな手の中に 一つづつポンと収まると 蓮の花が彼らの胸へと吸い込まれていき 小さな体が火の鳥を灯した。
火の鳥はもういない。
人々が探し続けた「火の鳥」は地平線にも水平線にも現れない。
しかし、自らの胸に手を当てれば
そこに紅く そっと灯る火に出会えるはずだ。
夢であり、希望であり、紡がれる永遠の命は
今もあなたの中で
光放っている。
(1194文字)
********************
こちらに応募させていただきます。
12月…家族の不幸が立て続けにあったり…年末という事もあって、折角復帰したのも束の間、なかなか本格的にノートに戻ってこれていない私です。
この作品が私の今年最後の投稿です。
ピリカさんのこの企画には 絶対に参加させていただきたく、急ぎ足で書かせていただきました。
今年はノートを始めた年。沢山の素敵な出会いをいただけた事…ここで皆様に「ありがとう」を届けさせてください:)
2022年は、また引き続き皆様と沢山の素敵を紡いでゆけます様に 心から願いを込めて。
ありがとう
そして
これからの分も 一足先に
ありがとう
七田 苗子