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人蟲・新説四谷怪談 完結

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四谷で発見された若い女性の白骨死体。そこからつながる四谷怪談の真相。陰陽探偵中津川玲子シリーズ第2弾
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2014年9月の記事一覧

小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十四

小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十四

「師走だというに、このような面倒なことに巻き込まれるとは。」南町奉行所与力、小原正三郎は溜息をついた。

数年ぶりに江戸に降る大雪は止むことなく降り続いている。

正三郎の溜息も瞬く間に白い塊となる。

「小原殿いかが致しますか!?一気に討ち込みますか!」

配下の武蔵川伊之助が正三郎に尋ねる。

言葉は威勢がいいが、足が震えている。

「今しばらく待て。あの狭い入り口を我らが押し合いへしあい攻め

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十五

小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十五

現に。最初に踏み込んだ野田や内田といった正三郎の組の中では手練れの者達があっという間に斬り伏せられた。

幸い鎖帷子を着込んでいたので死は免れたが、手負い逃げ出してきた彼らの言葉に正三郎達は震え上がった。

田宮伊右衛門には怨霊が取り憑いておる。

彼らは口々に言った。

伊右衛門は白い着物の女の骸を掻き抱き、幽鬼悪鬼羅刹の体にて闇を睥睨していると。

伊右衛門の周りには無数の蛇がのたうちまわって

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十六

小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十六

「御側衆三宅十兵衛でござる。」男は静かに名乗った。

優男の印象とは反対の野太い太い声であった。

「御側衆とは…。」

正三郎は目を見張った。

御側衆とは御側用人直属の組織である。

現在の御側用人の筆頭は柳沢吉保。

幕閣の事実上の支配者である。

その御側用人直属の御側衆が派遣されるということはただならぬことである。

「お役目ご苦労様でござる。し、して、いかなる御用向きで。」

正三郎は

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十七

小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十七

月が雲に隠れた。

梅子はまた四ツ谷にいた。

なぜ足を運んでしまったのか。

伊一郎に対する未練なのか。

はたまた。

怒り、恨みなのか。

いずれも違う気がした。

救いたい。

何を?

何から?

わからない。

梅子は自分が混乱していることを自覚している。

そして、伊一郎のことを本当に愛しているのかどうかも怪しいことも気づいてる。

だからこそ。

もう一度、伊一郎に会わなければなら

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十八

小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十八

「小岩さえは死んでる!?」

昼下がり。

赤坂の喫茶店に中津川玲子と勝倫太郎はいた。

「そういうこった。今年の7月、四ツ谷左門町のアパートで白骨遺体が発見された。その白骨遺体の主か小岩さえってこった。死んでから恐らく3年ほど経過していたようだ。」

「そんな…。」

「民谷伊一郎が会っていたのが小岩さえだとすると、そいつは幽霊ってことになるな。」

勝は珈琲に大量に砂糖を投入しながら言った。

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十九

小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十九

「姉とは、高校卒業してから全く交流はなかったんです…。それが…あんなことに…。」

小岩やえは、聞き取るのも難しいくらいの小さな声で話しさめざめと泣いた。

小柄で、少し癖毛の髪を後ろでまとめ、二重の瞳は印象的だが、浅黒い肌に薄いメイク。

地味で大人しい印象だ。

グレーのスーツに黒のストラップパンプス。

玲子のファッションと比べれば同じ年頃の娘でも違う人種のようにさえ感じる。

「私の両親は

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十

小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十

岩…。

やっと逢えたのう。

長かった…。

そちに逢えるのは…

なぜそちはわしの元を去ったのだ…。

「岩は醜いのです。」

そう云ったな…。

わしも醜いと云った…。

わしを恨むとも云った…。

なぜじゃ。

わしにはわからぬ。

ただ。

そちのいないこの世などわしには地獄じゃ。

もはやわしは畜生道に墜ちた。

罪のない忠兵衛殿と梅を斬った。

わしは地獄に堕ちるであろう。

あの世

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十一

小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十一

伊藤梅子が姿を消したとの連絡を古川から、玲子と勝が受けたのは、小岩やえと会ってから数日後のことだった。

梅子は夜遅く自宅を出て、それきり戻らなかったらしい。

古川が忠彦に聞き出したところによると、梅子は誰かに呼び出されて出かけたようだと言う。

ことがことだけに忠彦は正式に伊一郎の件も含めて警察に捜索依頼を出したという。

今朝のことだ。

古川の尽力により、マスコミへの緘口令はうまくいったよ

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十二

小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十二

伊藤忠彦は少なからず衝撃を受けていた。

今しがた去って行った小岩やえの言葉が耳から離れない…。

「親父の呪縛からは何処までいっても逃れられないのか…。」

忠彦はソファから立ち上がった。

身体が鉛のように重い。

伊一郎、梅子、小岩さえ、やえ…。

忠彦にとって全てが呪縛だ。

呪縛とは「過去」である。

呪縛を解き放つため忠彦は懸命に「未来」をつくろうとしてきた。

しかし

「過去」は忠

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十三

小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十三

玲子と勝は四ツ谷左門町にある古い2階建てのアパートの階段を登っていた。

錆びた金属の手摺が、二人が登る振動でギシギシ音を立てる。

陽が傾き、風が冷たさを帯びる。

「ここが小岩さえの部屋だ。」

勝は2階の一番奥の部屋の扉の前で云った。

「今年の7月、この部屋で小岩さえの白骨遺体が見つかった。」

勝は鍵穴に鍵を差し込んだ。

ゆっくり回すとカチリと音がした。

玲子は勝に先立って部屋に入る

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十四

小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十四

「ちょっと待って?」玲子は思わず声を張り上げた。

「家賃はずっと払われてたってこと!?」

「そういうこった。死んだ幽霊が律儀に払ってたってことになるな。」

秋の夕暮れは急激に闇に近づく、部屋に差してこんでいた陽は暗い陰に変化を見せていた。

「誰が払ってたの…?」

玲子は勝を見た。あることが頭に浮かんでいた。

部屋の中の熱気はいつの間にか消え、冷んやりとした空気がひっそりと流れていた。

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十五

小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十五

三宅十兵衛は、庵の扉を開いた。

開くといっても、扉は半分ほど壊れており、もはや扉の体は為しておらぬ。

恐らく、先ほど庵の中から逃げ出した同心達が勢い余って破壊したのだろう。

庵の中に身体を差し込むと、黴の臭いと、何かが蠢く気配が十兵衛の五感を襲う。

蠢くものは尋常な数ではない。

黴の臭いと共にそのもの達から発せられる獣の臭い。

生臭く、へばりつくような臭い。

この庵室の全ての水分は、

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十六

小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十六

小岩やえは恐怖に慄いていた。

あり得ない。

伊藤忠彦から聴いた話はやえのか細い精神ではとても受け入れられるものではなかった。

さえの亡霊…。

やえは、足を止めた。

尾けられている。

やえは振り返った。

白いワンピース。

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小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十七

小説 人蟲・新説四谷怪談〜三十七

「此は、拙者の妻で岩と申す。」

田宮伊右衛門は、無惨な骸と化した妻の髪を撫でた。

まるで生きるがごとく優しく。

三宅十兵衛は表情を変えず、伊右衛門と対峙する。

「拙者は、捨て子でござった。播州赤穂で打ち捨てられた者でござる。拙者はある浪人夫婦に拾われもうした。」

伊右衛門は訥々と話し始めた。

それは十兵衛に話すというより自分自身に語りかけるように。

「拙者の養父母が申すには、拙者には

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