小説 人蟲・新説四谷怪談〜二十八
「小岩さえは死んでる!?」
昼下がり。
赤坂の喫茶店に中津川玲子と勝倫太郎はいた。
「そういうこった。今年の7月、四ツ谷左門町のアパートで白骨遺体が発見された。その白骨遺体の主か小岩さえってこった。死んでから恐らく3年ほど経過していたようだ。」
「そんな…。」
「民谷伊一郎が会っていたのが小岩さえだとすると、そいつは幽霊ってことになるな。」
勝は珈琲に大量に砂糖を投入しながら言った。
あまりの砂糖の量に玲子が顔をしかめる。
「あんた糖尿病になるわよ。」
「ま。恐らくは民谷伊一郎が相手の名前を騙ったか、もしくは相手が小岩さえになりすましたか。そんなとこだろうがな。」
「でも、なぜわざわざ、小岩さえを名乗る必要があったのかしら?」
玲子は首を傾げた。
「そいつが俺にもわかんねぇのよ。」
勝は頭を掻いた。
そして言葉を続けた。
「小岩さえには双子の妹がいる。」
「妹?」
「あぁ。その妹がさえの遺体の確認をしたことで身元が割れたのさ。」
勝はそこで言葉を切った。
そして、にやりと笑った。
「今日、ここに呼んでる。」
「ここに?」
玲子は少し驚いた顔した。
勝は玲子の驚いた顔が嬉しかったらしく、笑顔を満面に広げた。
「ま。俺ひとりで会っても良かったんだが、一応、相棒さんに敬意を表して、ふたりで会うことにしたってわけよ。」
「恩着せがましい言い方しないでよ。」
玲子は憮然とした。
喫茶店の扉が開いた。
扉についてあるベルがカランコロンと乾いた音を鳴らす。
玲子は扉の方向を見た。
若い女がオドオドした様子で入ってきた。
「小岩さん。こっちです。」
勝が右手を上げる。
小岩さえの双子の妹。
小岩やえだった。
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