夜野

愛は光

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月報:2024年9月

 秋分の日を過ぎたころからぐっと涼しくなり、さみしい風が吹く季節が来た。夏のかけらと冬の予兆の両方が入り混じっていて、不思議と心地よい。ずっとこの淡さが続いてくれたらいいのになあ。 ■最近のこと  しまむらひかりさんのデザインのクッキー缶があまりにかわいらしく、幸せな気持ちに浸っていた。ぽってりとしたいぬの愛らしさよ……。  アイシングクッキーの理屈はわかるけれど、その技術のすさまじさがいつも信じられない。右上のクッキーがアンリ・マティスめいた雰囲気を醸し出しているのが

    • 季報:映画『きみの色』と自分自身のうつくしさを照らすこと

      ※映画『きみの色』のネタバレを含みます。  先日、山田尚子監督『きみの色』を観た。監督を山田尚子さん、脚本を吉田玲子さん、音楽を牛尾憲輔さんが担当している、完璧な布陣によるオリジナルアニメーション映画だ。  観終わったあと、しばらく呆然としていた。この作品について語ることばをずっと探して、うまく見つからなくて、今でも探しつづけている気がする。  あらゆる創作物は受け取るタイミングによって印象が変わるものだけれど、いまの私にはこの作品が必要だったと確信した。心の隙間をそっと埋

      • 月報:2024年8月

         夏だけがぽっかり浮かんで見える。季節には連続性があるはずなのに、夏だけが突然現れたかのように異質だ。  夏に参っています。暑い。溶ける。じりじりと灼かれるたびになにかが削り取られていく。強大なエネルギーを持つ夏と根比べをしている心地になる。参りました。そう両手を上げてもなお、夏は続いていく。 ■「HIKARU UTADA SCIENCE FICTION TOUR 2024」東京公演のこと ※具体的なセットリストには言及していません。   私にとっての音楽の神さまはふた

        • 月報:2024年7月

           梅雨と真夏をさっくりと混ぜ合わせてマーブル模様を作ったような天気が続いている。食べ終わる直前のパフェの底のように無秩序だ。暑さにすっかり参っているけれど、まだ夏の前哨戦さえ終わっていない。  生のライチとパッションフルーツを買った。ライチは思いのほか剥くのがむずかしく、果汁で指がひたひたになる。花の蜜をあつめて閉じこめたようなみずみずしさがあって、美味しかった。パッションフルーツはまだ食べごろではないようなので、つるりとした果皮を撫でながら見守っている。 ■最近のこと

        月報:2024年9月

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        • 月報
          15本
        • 季報
          7本

        記事

          月報:2024年6月

           浴室に、寄る辺のない夜にだけ使うシャンプーとコンディショナーを置いている。それらはペトリコールという、雨の香りの名をもつ。このふたつで一日の澱を洗い流すと、雨の日の土と、木々と、花の香りに包まれる。  世界に対してチャーミングな嘘をついている。晴れの夜にも雨を連れてくることで、穏やかに眠れるような気がした。いつかボディソープも置けるようになったら、いよいよ雨に溶けることができるかもしれない。 ■最近のこと  先日、第171回直木三十五賞の候補作が発表された。リストの中に

          月報:2024年6月

          月報:2024年5月

           春になったおかげで、朝の光が清々しい。ある休日に早起きをして、近くのパン屋さんまで歩いた。大通りを進み、住宅街を抜け、並木道を渡る。風はぬるく、咲く花々の色がまぶしい。  温かいパンの袋を下げながら帰路についたとき、散歩するいぬといぬが挨拶を交わす場面を見かけた。それだけでもう良い日だ、と思えたことがうれしかった。 ■Edenのあたらしいアルバムのこと  Edenのあたらしいアルバムである『ENSEMBLE STARS!! ALBUM SERIES ー TRIP Vol

          月報:2024年5月

          月報:2024年4月

           春の眠りが生クリームのようにやさしいから、たくさん眠ってしまった。気がつけば白木蓮の季節は過ぎ、桜が街を一色に染めあげていた。花が咲いてようやく、その木が生きているのだと実感する。  いっせいに咲いていっせいに散るのがなんだか怖いけれど、蕾たちがひそひそ話を繰り返しては咲く日を決めているのだとしたらかわいいな、と夢想する。 ■最近のこと   SCRAPが提供するサブスクリプションサービス「Mystery for you」を契約した。「謎の定期便」と銘打たれているとおり、

          月報:2024年4月

          月報:2024年3月

           愛すべき友人から花束のようなお菓子が届いた。明るい紅と桜色が眩しい。春はもう密やかに訪れていたみたいで、目の前の景色が明るいひかりを帯びた気がした。  窓を開けて、まだつめたい風を浴びる。遠くの方で鳥がさえずっている。マカロンを齧ったとき、かすかに立ちのぼる苺の香りが世界の匂いと混じりあう。こうして春は芽吹いてゆくのかもしれない。 ■最近のこと  先日、漢字検定の準1級に合格した。172点でした。うれしいね〜。  他の勉強の息抜きに取り組んでいたので合否が心配だったけれ

          月報:2024年3月

          季報:『楽園へ*無垢なる望みのアブソリュート』、そして愛により青年へと羽化すること

          ※『あんさんぶるスターズ!!』の『楽園へ*無垢なる望みのアブソリュート』のストーリーの核心にふれています。  私が楽しく遊んでいるソーシャルゲーム『あんさんぶるスターズ!!』では、ユニット新曲クライマックスイベントを順次開催している。いくつものユニットの「最高潮」を描き、ついにEdenの番が訪れた。不穏な予告にかすかな緊張を抱きながらも、彼らの「最高潮」がどのように定義されるのかを楽しみにしていた。  物語のあらすじはこうだ。「ゲートキーパー」の呼び出しにより一路アメリカ

          季報:『楽園へ*無垢なる望みのアブソリュート』、そして愛により青年へと羽化すること

          季報:泊まれる演劇『Moonlit Academy』とあなたの月がそこにあること

          ※2024年1月19日〜3月17日開催 泊まれる演劇『Moonlit Academy』の物語の核心にふれています。  触れるだけでスプーンを曲げてみたかった。まるで散歩するように宙を浮いてみたかった。  斜に構えた子どもだったから、私に超能力が備わっていないことに気づくのはそう遅くもなかった。どれだけスプーンに手をかざしてもびくともしないし、私の足は地を踏みつづける。  それでも世の中には超能力をもつとしか思えない人々がいた。彼らはすばらしい絵を描き、スポーツの試合の場で

          季報:泊まれる演劇『Moonlit Academy』とあなたの月がそこにあること

          月報:2024年2月

           私の咳が止まるのと入れ替わるように春一番が吹き荒れた。猛々しいのにあたたかくて不思議な風だ、と毎年のように思う。  この月報のヘッダーは龍が如く8のワンシーン(©️SEGA)だけれど、このゲームが気になっているひとは必ず龍が如く7からプレイしてほしい。理由はきっと、このキャプチャのシーンにたどり着いたときにわかるはずだよ。 ■原稿のこと  久しぶりに筆を取り、ジュン茨の短篇を書いた。そのうちどこかに載ると思うので、楽しみに待ってくれるとうれしいな。冬に書いたから冬のはな

          月報:2024年2月

          季報:『軋轢♦︎内なるコンクエスト』、そして相互理解のこと

          ※あんさんぶるスターズ!!の『軋轢♦︎内なるコンクエスト』のストーリーの核心にふれています。  私が楽しく遊んでいるソーシャルゲーム『あんさんぶるスターズ!!』では、ユニット新曲クライマックスイベントというものを順次開催している。残すところあと数ユニットとなり、私がこよなく愛するユニット『Eden』の順番が訪れるのももはや秒読みの状態である。  せっかくなので、彼らのこれまでの物語を振り返っておこう。そう思い立ち、『あんさんぶるスターズ!』のストーリーから順次読み返していた

          季報:『軋轢♦︎内なるコンクエスト』、そして相互理解のこと

          月報:2024年1月

           年が明けてから本当にいろいろなことがあって、悲しみや無力感にぐったりして、すべてを覆い隠すように白く染まった街を見つめていた。今は感染症の後遺症の咳が止まらないのだけれど、咳をするたびに私は生きているのだと実感する。みんなでご自愛しようね。 ■最近のこと  荒野をゆくような気分で日々を過ごしていたので、クッキー缶を作った。丁寧さが求められる営みをこなすことで、安寧や平穏といったものを手繰り寄せることができる気がする。  クッキー缶とはいっても、ゼロから組みあげるようなも

          月報:2024年1月

          季報:文房具と美術のこと

           先日といえるほど最近のことでもなくなってしまったのだけれど、このようなメッセージをいただきました。ありがとう。  ■文房具のこと  文章を書くことを愛しているから、どうしても筆記具に心が惹きつけられてしまう。私は万年筆で日記をつけて、手紙を認め、思考とタスクを書き留める。  その際に愛用しているインクが、PILOTのiroshizuku【色彩雫】シリーズだ。万年筆用のインクとして販売されているシリーズであり、日本の美しい情景をモチーフにした20色以上が展開されている。ミ

          季報:文房具と美術のこと

          月報:2023年12月

           冬を乗り切るための営みは、なんだか儀式めいているような気がする。やわらかい毛布を膝に掛け、紅茶に温めた牛乳と蜂蜜を混ぜ、ぬいぐるみたちをそっと撫でる。街からは木々のざわめきが失われ、うっすらと雪が降り積もっている。静かな世界ではページを繰る音がよく響く。「寒さは豊かさだ」という言葉がとても好きです。 ■2023年のこと  年の瀬のどこか落ち着かないような、浮き足立っているような慌ただしさが好きだ。今年もいろいろなことがあったなと思い返していると、記憶の遠近が必ずしも現実

          月報:2023年12月

          月報:2023年11月

           寒いね。ひとつ雨が降るたびにぬくもりが洗い流されて、無駄が削ぎ落とされた冬が来る予感がする。なんだか風邪ばかり引いていた月でした。 ■「永遠の都ローマ展」のこと  某日、東京都美術館にて「永遠の都ローマ展」を観た。  ローマ美術といえば、その後の時代に大いなる影響を与えた存在という印象が強い。およそ2000年ほど前に生み出された美が脈々と受け継がれ、生き残り、あるいはその魂が様々な文化に組み込まれ、いま/ここに展示されているのだと思うと不思議な心地になる。  美術は人

          月報:2023年11月