月報:2024年9月
秋分の日を過ぎたころからぐっと涼しくなり、さみしい風が吹く季節が来た。夏のかけらと冬の予兆の両方が入り混じっていて、不思議と心地よい。ずっとこの淡さが続いてくれたらいいのになあ。
■最近のこと
しまむらひかりさんのデザインのクッキー缶があまりにかわいらしく、幸せな気持ちに浸っていた。ぽってりとしたいぬの愛らしさよ……。
アイシングクッキーの理屈はわかるけれど、その技術のすさまじさがいつも信じられない。右上のクッキーがアンリ・マティスめいた雰囲気を醸し出しているのがすごいな。こんなにかわいいのにしっかり美味しかったので、うれしい。
このところ、利き手から腱鞘炎の気配を感じている。まだ受診するほどの痛みではないのだけれど、「これ以上酷使するとひどく痛みますよ~」と警告するように、うっすらとした違和感が続いている。困った。手書きをやめるわけにもいかない事情があり、日々右腕をなだめながら過ごしている。
そうなると、ひとつのボタンを押すだけで基本的には事足りるアドベンチャーゲームのありがたさが身に染みる。
ここしばらくは『シャレードマニアクス』をプレイしていて、まだ感想を書けるほどは進んでいないのだけれど、射落ミズキさんにすっかりメロメロになってしまっている。乙女ゲームながらミステリ・サスペンス要素を色濃く有しているところに惹かれたはずなのに、まっとうに恋愛要素を楽しんでしまうとは思ってもみなかった。
クレバーで、立ち回りがスマートで、洒脱な言い回しを好み、あらゆる場面においてそつがないひとを好きにならずにはいられない。思えば『ジャックジャンヌ』でもフミさんがいちばん好きなのだから、自明だ……。
■「CLAMP展」のこと
某日、国立新美術館にて「CLAMP展」を観た。
国立新美術館に訪れたのはおよそ1年ぶりだった。前回の「テート美術館展」のときとは打って変わって曇天だったけれど、白と黒の美しい世界を見に行くには似つかわしい日だなと思った。
本展は創作集団・CLAMPの画業35周年を記念した個展として開かれている。この規模の個展を開くことができる、それだけでCLAMPという存在のすごさをひしひしと感じてしまう。
私はおそらくCLAMPの全盛期からは少し下の世代で、きちんと読んだことがある作品はわずかしかない。それでも原画をこの目で見たいと強く思わせるほどのカリスマ性があるのがCLAMPだと思う。
展示は7つのエリアに分かれており、それぞれのテーマに沿った原画が整然と並べられている。
最初のエリアは「COLOR」がテーマで、その名のとおりカラー原画が展示されている。その点数の多さにも圧倒されたけれど、たとえ30年前の作品であってもその筆致のみずみずしさがそのまま閉じ込められていることに驚いた。流れるような線が、はっとするような色が、紙のうえで生きている。『ちょびっツ』3巻表紙のイラストの深い青があざやかで、とりわけ印象的だった。
展示室の奥へと進むにつれて、旅をしているような心地になった。CLAMPは35年間のあゆみのなかで、時代の変化にあわせてアップデートを繰り返してきたことがよくわかる。その作品が生きた時代そのものをアイコニックにとらえて、イラストや漫画のかたちで保存しているような気さえした。
そうしてCLAMPの軌跡をなぞった果てに、本展のために描きおろされたイラストが配されているところもよかった。いま・この瞬間がいちばん新しいという、ごく当たり前の感動を改めて突きつけられた気持ちになる。
『カードキャプターさくら』の原画をたくさん見られたのがうれしかったな。大道寺知世ちゃんの慈愛と高潔さがとても好きなので、彼女をかたちづくる線のやわらかさをこの目で確かめられてよかった。カラー原画も華やかで、とてもきれいだった。振り返るほどに、ほんとうに贅沢な時間だったなと思う。
■遊んだゲームのこと
先日、『TOEM』をクリアした。あまりにもかわいすぎる!
ずっとこの世界で遊んでいたい、そう思わせるすばらしいゲームだった。
物語は主人公のおばあちゃんの家から始まる。おばあちゃんから「トーエム現象を体験すること」という不思議な宿題を出されて、主人公はひとつのカメラを託される。そうしてバスに乗り込み、いくつもの街を訪れては写真を撮っていく。
とにかくすべてがかわいい。どの街にもいろいろな生きものが息づいていて、彼らなりの生活を送っている。私たちに馴染みのある生きものもいれば、この世界にしかいないであろう謎の生きものもいる。
その代表格が「タト」なのだけれど、鳥のような……なんともいえない姿がとてもかわいい。スキーをしているタトを見たときにはあまりのユーモラスさに笑ってしまった。
このゲームの本質は「住人たちの依頼に基づき写真を撮ること」なのだけれど、このシンプルなゲーム性がとにかく心地よい。操作に慣れるまで少しかかるけれど、慣れてからはストレスなく没頭できる。先述のとおり世界のすべてがかわいいので、とにかく撮り甲斐がある。撮ることで被写体の正体がわかるところも楽しかった。いぬやねこの皆さんにはそれぞれ名前がついている。いとおしすぎる。
スクリーンショットからもわかるとおり、『TOEM』の世界はモノクロだ。それなのに不思議と色あざやかな体験をすることができてしまう。あの場所はきれいだったな、あの生きものはかわいかったな、と回顧するとき、なぜかその画面が色づいて感じられるのだ。
それでいて、モノクロであることに演出的な意図がきちんと用意されているところもすばらしい。その意図を理解したとき、コントローラを握りながら呆然と見とれてしまった。
旅の終わりがはじまりの場所──おばあちゃんの家であるところもよかった。最初から最後までやさしさと温もりに満ちていて、クリアしてからも多幸感がずっと続いている。追加エリアのバスト―もしっかり満喫したよ。ビトリングタトがとにかくかわいかったな……。
それでは、またね。おやすみなさい。