代島ヤス

【小説・定期更新中】17歳でうつ病、ひきこもりを経験。高校を中退したのち、高卒認定試験で大学に進学。卒業後、ある業界に飛び込むも挫折し、書籍編集員として就職。その後フリーライターに。バツイチ。ADHD / HSP。

代島ヤス

【小説・定期更新中】17歳でうつ病、ひきこもりを経験。高校を中退したのち、高卒認定試験で大学に進学。卒業後、ある業界に飛び込むも挫折し、書籍編集員として就職。その後フリーライターに。バツイチ。ADHD / HSP。

最近の記事

【エッセイ/自伝】あのパラレルワールドを取り戻したい

高校生の頃までは人生が良い感じだった。それなりに勉強をし、スポーツにも打ち込み、友人関係も良好。あんなに急に崩れるとは思わなかった。 学校帰りに交通事故にあった。人生ってちょっとしたきっかけで、それまで積み上げてきたものが音を立てたように崩れるんだって実感した。事故に遭ったって、治ったあとに学校生活に復帰すればいいのだが、僕にはそれができなかった。それまでなまじ人生がうまくいっていた分、入院期間で勉強に遅れをとってしまったこと、ケガの影響で運動部には復帰できなそうなこと、さ

    • 【連続小説4】ツネダくんの休日

      今日は日曜日。ツネダくんはいつも通り、実家の犬の鳴き声を録音したアラームで身を覚まし、朝のルーチンを始める。 昨日は会社でとても怒られてしまった。嫌なことがあったときにやるルーチンがある。 パソコンで公開中のミステリー映画を検索する。 最もストーリーが読めなそうな映画を探すのだ。 ――よし、これだ。 昨日ツネダくんは中学時代からの親友・ヒサノに連絡し、一日空けてもらってある。 ツネダくんとヒサノは映画館で落ちあい、先ほどツネダくんが検索した映画を見た。 映画が終わり、

      • 【連続小説4】棒振り

        事務所の入り口は、待合室のような小部屋になっていた。 「ちょっと待っててね」と女は言い、奥に入っていく。 しばらくすると、バインダーを持って出てきた。 「これ、さっき話したアンケート。記入してもらえるかな」 「うん、わかりました」と僕は頷き、女は隣に座る。 内容に目をやると、さまざまな個人情報が問われていることに驚いた。 承諾してしまったものの、正直、書くことに抵抗がある。 俺のペンが止まっていると、 「どうしたの?そのまま書くだけだよ」と空かさずに女が突っ込んでくる。

        • 【連続小説3】棒振り

          高校の頃に仲が良かったやつっていたっけなーー クラスでも部活でも、何となく話をする程度の友達はいたが、今でも定期的に連絡を取っているような人はいない。記憶を辿っていくと、高校を出たあとに、おそらく何回か二人で飲んだことがあるのを思い出した。高校の頃海外のロックが好きだった俺は、ふとしたことから忠志と音楽の話をするようになり、二人でカラオケやゲーセンに行ったこともあった。 卒業後はしばらく会っていなかったが、二人とも好きなアーティストとして話していたバンドがアルバムを発表した

          【連続小説2】棒振り

          17時に現場が終わり、新宿駅の殺到にまみれながら、ホームで佇む。ぼうっとしながら、ふと隣を見ると、何か見覚えのある人がいた。ふと思い出した。 先週、出勤中の電車で、女性が急に声を上げた。「痴漢です!この人!」隣で手を掴まれた男性は驚き、「いやいや!」と焦りながら否定している。意外にも周りの人たちは男性を取り押さえたりすることなく、近くにいた若い男二人が、逃げられないように監視をしながら、女性と一緒に次の駅で降りて行った。100%犯人と決めることもなく、かといって知らないふり

          【連続小説2】棒振り

          【連続小説1】棒振り

          目覚まし時計の音は、なぜこんなにも不快なのだろうか。一番嫌な音域が、一番嫌な振動数で鳴り響いている。全く頭が働いていない状態で、手を伸ばし、消す。 和室の中央に無造作に敷いた薄く固い布団。その周りには、先週号のマンガ雑誌、昨日飲んだチューハイの空き缶、これから使う仕事のバック。統一感のない物が乱雑に散らばっている。 人が来ることなんて考えていない。東京郊外のボロアパートを、自分が生きるために必要なスペースとだけとらえると、こうなる。 無気力なまま身支度を済ませ、靴に足を

          【連続小説1】棒振り

          【連続小説3】ツネダくんは、気にする

          ツネダくんの職場は、社員数30名の出版社だ。都内ではあるが都心とは言えないエリアにある、少人数の会社なので、独特な風習がある。 営業部と編集部のオフィスは分かれており、出社するとまずは営業部に挨拶に行く。 1階に薬局が入っている雑居ビルを上がり、2階の突き当りが営業部のオフィスだ。防火扉くらい重く感じる扉を開け、「おはようございます。」 ツネダくんは、まずここで中の大くらいの声量で挨拶をする。朝早めに来て作業をしている社員もいるので、びっくりさせないように、かつ、誰か来たとい

          【連続小説3】ツネダくんは、気にする

          【連続小説2】ツネダくんは、気にする

          ツネダくんは階段をそそくさと駆け下り、勢いよく傘を差す。ざあざあと傘が雨に打たれる音自体は好きなのだが、足元を見ると水たまりばかり、少し風が吹けば服は濡れる。現実はちっとも優雅ではない。 歩いてすぐの所にあるバス停に付く。ふうと一息吐いて、引っ越して来たばかりの根城を見上げる。うん、やっぱり良い。毎日帰ってくる場所だから、見た目も大切だ。 ――3カ月ほど前、不動産屋にて。 「昨日メールをお送りしたツネダと申します」 若手の女性担当者はハッとし、 「ご来店ありがとうございま

          【連続小説2】ツネダくんは、気にする

          【連続小説1】ツネダくんは、気にする

          わおーん、わおーんーー 独特なアラーム音と共に、ツネダくんの一日が始まる。実家の豆しば犬(ワンタロウ・8歳)の鳴き声を録音し、音声編集ソフトでリピートした自作音源を目覚ましに設定している。もちろん、スマホの待ち受け画面もワンタロウの最高のキメ顔の写真。 頭が働いていないまま、テーブルの上に用意しておいたコーデュロイのパンツと白Tシャツを雑に掴み、ベッドの上に持ってくる。ちなみに、Tシャツは毎回洗濯するが、パンツは週1でしか洗濯しない。だから、テーブルの上に置くときには、まず

          【連続小説1】ツネダくんは、気にする

          【連続小説26(完)】愛せども

          3カ月前のこと―― 家に返ってくると、シュンの部屋のドアは開けっ放しになっていて、今までそんなことはなかったから、遠くから恐る恐る近寄り、部屋の中を覗いてみた。 部屋の中は空っぽだった。シュンがどこかに引っ越してくれたのか。これで彼女とその男友達と同棲するという状況から抜け出すことができたと、安堵した。 自分がまだ気付いていない何かを掘り起こしてしまうことを恐れて、リサには何も訊かなかった。リサからも何の説明もなかった。 相変わらずリサからの束縛は続いていたが、それも含

          【連続小説26(完)】愛せども

          【連続小説25】愛せども

          僕は状況をナカダさんに話した。ナカダさんは大きく息を吸い込んで、 「ひとまず帰ったほうがいいな」と言い、僕の目をじっと見つめる。 「俺と飲むのなんていつだってできる。なにが起きてるのか把握しておいたほうがいい」 「申し訳ないッス」と僕は財布に手を伸ばし、お札を出そうとするが、5千円札しか入っていなかった。それをナカダさんに言うと、「いいよ、今日は」とのことで、お礼を言って店を出た。 リサはどうして僕のLINEを勝手に通話状態にできたのだろうか。いくら考えても理解できない。頭

          【連続小説25】愛せども

          【連続小説24】愛せども

          「最近はなにしてるんだ」 ナカダさんのその一言を機に僕は今の置かれている状況、なぜそうなってしまったかを、あったことをそのまますべて話した。ナカダさんは深く頷いたり、空を見つめたり、なにも意見することなく、すべて聞いてくれた。それは僕がまさに求めていたことだったようだ。これが欲しかったんだ。救われた気持ちになった。 「これ、人に話したことある?」 「いや、ないです。相談したかったんですけど、正直誰もいなくて」 ナカダさんは床を見つめてにやっと口角を上げて言う。 「俺がそう思

          【連続小説24】愛せども

          【ショートショート】甲子園に行きた過ぎて友達失ったやつ

          あれだけ毎日一緒にいたのに、2年振りに集まるとなると緊張するものだ。僕は高校生の頃、野球に熱中しており、部活の仲間とは毎日一緒に練習し、テスト前には教室に残って勉強し、休みの日には隣町に自転車で繰り出し、ゲームセンターやカラオケで遊んだ。 地方予選は2回戦敗退。悔しかったが、練習試合のときから自分たちはそんなに強くはないと思っていたし、まあこんなもんか、程度の感覚だった。数人だけ泣いているメンバーがいて、逆に目立っていた。その中の一人がアキラだ。彼は一段と強い熱量を持ってお

          【ショートショート】甲子園に行きた過ぎて友達失ったやつ

          【連続小説23】愛せども

          ここではないどこかに行きたい。リサとシュン以外の誰かと話したい。僕はその思いで、LINEの友達をスクロールしていた。誰かと話したいと思っているくせに、いざアカウントの名前を見ても、特に話したいと思う相手は見あたらない。本当の友達は、この中にいるのだろうか。LINEの「友達」という文字が、何も意味していない単語に見えた。 ふと手が止まる。「ナカダさん」…。以前、建設現場の日雇いのアルバイトをしたときに、何回か一緒になって何となくLINEを交換した人だった。現場が被ることが多か

          【連続小説23】愛せども

          【連続小説22】愛せども

          リサとシュンとの三人での生活が始まってから、僕は精神的にかなり追い詰められた状態になり、飲酒の量が増えてきた。 昼間はテレアポのアルバイトに行き、上司に怒鳴られながらどうにかこなすと、プライバシーがない家に帰る前に居酒屋に寄るようになった。 旨いつまみを肴に飲むビールは最高そのものだったが、なぜこんなことをしているのか、自分の稼ぎでこんな贅沢をしていいのかを考えるうちに、不安な気持ちになった。 居酒屋を切り上げても家に変える気にはならず、コンビニで缶チューハイを買い、遠回りを

          【連続小説22】愛せども

          【ショートショート】失わなければ得られたもの

          学生時代から付き合っていた彼女と別れてから、一週間が経った。浮気が判明したきっかけは、彼女がスマホをテーブルにおいて席を外しているとき、たまたまLINEのポップアップが僕の目に入ってしまったというよくありがちなもの。そのまま勝手にLINEを開いてメッセージのやり取りを確認したい衝動に駆られたが、それはこらえ、彼女が戻ってくるのを待った。6年間付き合ってきてお互いの信頼関係は出来上がっていると思っていただけに、とてもショックだった。 「さっき、スマホ、見えちゃったんだけどさ。

          【ショートショート】失わなければ得られたもの