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【連続小説2】棒振り
17時に現場が終わり、新宿駅の殺到にまみれながら、ホームで佇む。ぼうっとしながら、ふと隣を見ると、何か見覚えのある人がいた。ふと思い出した。
先週、出勤中の電車で、女性が急に声を上げた。「痴漢です!この人!」隣で手を掴まれた男性は驚き、「いやいや!」と焦りながら否定している。意外にも周りの人たちは男性を取り押さえたりすることなく、近くにいた若い男二人が、逃げられないように監視をしながら、女性と一緒に次の駅で降りて行った。100%犯人と決めることもなく、かといって知らないふりをすることもない、絶妙にバランスが取れた対応だった。何回も経験してんのか?という違和感さえあった。
そのときに取り押さえられていた男性が、隣の列に並んでいた。無実が認められたのだろう。
その前後に並ぶサラリーマンとまったく同じ表情でその場に立っているが、1週間前に痴漢の冤罪の羽目に遭うというとても迷惑な出来事を経験し、気が気じゃなかったはずだ。きっと嫁と子どももいるんだろう。
そんな被害を受けた人もいれば、その場を逃れた犯人も別にいるということだ。
まったく世の中は理不尽だ。そんなことを考えながら、最寄り駅で降り、家路へ着く。途中でスーパーへ寄った。
18時からはタイムセールスが始まることがあり、今日は運よくその時間に行くことができた。シールが貼られている商品を、なるべくがめつさが出ないように、遠くから除き見ている人が何人かいる。ある程度の人数が集まっているから、結構目立っているが、本人たちは「何となく見ているだけですよ」という体だ。そして、僕もその中の立派な一員だ。
めったに食うことができない刺身を買った。1400円の刺身セットが半額。それでも、だいぶ高価な晩酌になる。
ドアを開けると軋むようなボロアパート。この音を聞く度に、情けない気持ちになる。「お前はこんなところにしか住む資格がないんだよ」そう言われているように聞こえる。
机の上に散らばったものを端に押しやり、冷蔵庫から発泡酒を取って来て、刺身のパッケージをびりびり破いた。
疲れたと首を回していると、玄関の床に何やら郵送物が落ちている。手紙なんかめったに来ないから、不思議に思い、腰を上げて取りに行った。
高校?数年ぶりに見て思い出したが、俺が通っていた高校の名前が書いてある。
「同窓会のご案内」――実家から転送されてきたようだ。俺なんかが参加していいのだろうか。他には、誰が行くんだろう。
数年ぶりに思い出した。当時の友達に連絡してみることにした。