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【連続小説24】愛せども

「最近はなにしてるんだ」
ナカダさんのその一言を機に僕は今の置かれている状況、なぜそうなってしまったかを、あったことをそのまますべて話した。ナカダさんは深く頷いたり、空を見つめたり、なにも意見することなく、すべて聞いてくれた。それは僕がまさに求めていたことだったようだ。これが欲しかったんだ。救われた気持ちになった。

「これ、人に話したことある?」
「いや、ないです。相談したかったんですけど、正直誰もいなくて」
ナカダさんは床を見つめてにやっと口角を上げて言う。
「俺がそう思ってるとかじゃなくて、誰に相談しても、別れたほうがいいって言われると思うよ」
やっぱりそうかとその発言に落胆する。別れたほうがいいと言われるのは、相談せずとも容易に想像できた。ん、でもちょっと待て、俺はそう思ってないって言ってたか。

「ナカダさんは、どう思いました?」
ナカダさんは僕の背後に貼られているお品書きのどれか一つをぐっと睨み、深く考え込む。1分ほど経っただろうか。
「あ、ニラたま炒めで」
と、通りがかった店員に注文した。僕は思わず吹き出す。
「質問、覚えてます?」
「なんだっけ、ああ、苦難の乗り越え方か」
テーマが変わっているが、そのまま聞いてみることにした。

「本当にきついときは、その場をしのぐことだけ考えればいいんだ。それが正しいかどうかとか、余計なことは考えずに、ただ深く自分の中に潜り込む。自分以外のことは何も考えないようにする。その状態で、あ、第三カメラってのがあってな。例えば彼女と喧嘩してるとき、自分と彼女を撮影している第三カメラから眺めるようにするんだ。これはある意味、自分のことを考えるための術とも言える。冷静に自分のことを見つめるために、第三カメラから眺める。そうすると、怒りや悲しみがふっと自分から遠のいていって。画質がの粗い白黒の防犯カメラから状況を監視している気分になる。楽になれるんだ、それで。そして、落ち着いた判断ができるようになる」
「なかなか難しそうですけど、そんなことできます?」
「俺も一時期しんどい時期があってな。身に付けたくて身に付いたわけじゃないんだが、生存するための防衛手段のようなもんだ」
そうなんすかあと頷き、うらやましくなる。僕にそんなものの見方ができるのだろうか。

話が落ち着き、ふとスマホを開いて驚愕した。
画面は通話中の表示になっており、通話相手にリサが表示されている。
通話時間は1時間40分。ちょうど店に入ったくらいの時間から通話していることになる。
すべて、聞かれていた。状況が理解できず、頭が真っ白になった。
ビールのグラスに浮いた水滴が、つるりと机に落ちた。

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