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#電子書籍
「直感」文学 *風向きが変わる*
風向きが変わった。
そう思ったのは、ただそう思いたいと自分が勝手に考えていたからかもしれない。
「今年一年は、とても空虚に過ぎ去っていったわ。泡がはじけるみたいに」
僕がまだ子供だった時に言った、母の言葉が今でも忘れられない。もうずっと前の言葉だ。それなのに、頭の中に残るシミみたいに、いつまでもその場所を占拠していたのだった。
「ねえ、今年一年はどんな年だった?」
妻は僕にそう聞いた。
「そう
「直感」文学 *ただ、それだけ*
花を渡したかっただけ。雪の降るその日、暖かいネオンの下で僕は君を待っていた。
僕はただ、君に花を渡したかっただけなんだ。
だけど君は来なかった。だから花は死んだ。うな垂れた首が示すのは、悲しみよりも絶望に近い。
君は来なかった。あの日、待ち合わせをしたあの場所に。
ずっと一緒にいて欲しいとも言いたかった。だけどそれは傲慢過ぎる。だから、ただ花を渡したかっただけ。
だけど君は来なかった。
……
「直感」文学 *見えない鍵*
「ああ.......」
不意に漏れたのはそんな情けない言葉だけだった。
いや、最初から間違っていたのかもしれない。
そもそも僕は自分の会社のセキュリティのことなんてあまり知らなかった。それが原因だ。
セキュリティーカードを持っている。鍵だって持っている。
それなのに、僕は会社のエントランスから出ることが出来ずに、天井からは甲高いブザー音が鳴り響いている。
ドアは固く閉ざされ、僕になす術
「直感」文学 *十分な落ち着き*
雑多とした風景が目の前に広がっている。
ここは大して高いとも言えない3階。
ビル群がひしめき合い、それぞれが煌々と看板の明かりを灯していた。
待ち合わせまではまだ十分に時間があるから、僕は近くにあったこのカフェで時間を潰していた。
やりかけの原稿を仕上げてしまいたいたかったこともあったし、なにより落ち着く場所で一息つきたかった。
ここはそんな僕の気持ちをくみ取るように静かで、
「直感」文学 *ジャングルジム*
「ジャングルジム」って言葉は、なんだかその言葉自体にワクワクさせる要素があるのではないか。
そう思うのは一つ大人になった証拠なのかもしれないと、随分と久しぶりにジャングルジムを見て思うのは僕であって、
「わー!ジャングルジム懐かしいなー!」
と言ったのは彼女だった。
「これって何なんだろうな?ただ登るだけで何が楽しいんだろう……。まあ、僕も子供の時は散々遊んだけどさ」
「登るだ
「直感」文学 *眠れないその日の情事*
太陽はもうすぐ昇るはずだけど、外はまだ暗がりの中に潜んでいた。
結局、私は寝れないまま朝を迎えてしまうのだろうか。暗い部屋の中でいやらしく光る携帯の画面は5時を示していて、時間を知らせるその様が、なんだか私を妙に落ち着かせたりもした。
稀に眠れない日がある。原因は分からないし、眠れなければ次の日の仕事に多少は支障をきたす。寝てないのだから日中に眠くなるのは当たり前のことだ。
しかし、