「直感」文学 *僕と彼女の距離*
「なあ、秘密を演じるのって、疲れない?」
僕はただ純粋にそのように聞いた。
彼女があまりにも自分を隠そうとするから、ただ純粋にそういった疑問を持ったに過ぎなかった。
いや、そんなものはただの言い訳なのかもしれない。
本当は、
僕はもっと彼女のことを知りたかったのだと思う。
もっと自分の心の底から、彼女の心の底まで届くような、
そんな真っ直ぐで、一直線の”繋がり”を僕は持ちたかったのだと思う。
「秘密?いや、そんなもの演じてなんて……」
彼女は少し落ち着きをなくしたような仕草でそう言った。
「いや、ごめん。別にいいんだ。ただちょっと、そういうの疲れないのかなって思っただけだから」
僕がそう言うと、彼女は俯いて、何かを考えているような様を見せる。
「私……」
俯いたままの彼女から、微かな声が溢れる。
「え?なに?」
微かな声は、僕に微かにしか届かずにいた。だから僕はそう聞き返す。
「いや、私……。そうでない、……だから、その、あなたの言う秘密を演じるって言うの。それ以外に私は分からないから。その、つまり、”秘密を演じない”私って私には分からない」
僕と彼女の距離はまだまだ遠いのだった。
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