【3500字無料】 カテゴリー・ミステイク (ビジネス×哲学 試論 #1)
*注意:この内容はすでに販売されている、「哲学者には世界がこう見えている! ビジネスで使える究極の哲学ツール【1】次元のちがい」の動画内容を一部変更したものです。
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次回以降はこちら!
はじめに
今回紹介するのは、「次元の違い」についてです。次元の違いについて全4回で紹介していきます。
第1回となる、この記事では、「カテゴリー・ミステイク」という考え方について紹介します。
前もって3つのポイントを先取りしておきます。
カテゴリーとは何か?
そもそも「カテゴリー」とは何でしょうか。
「カテゴリー」というのは、古代から現代まで続く哲学の問題です。
古い時代では、アリストテレスのカテゴリーが有名です。
ちなみにアリストテレスは紀元前の哲学者です。そんなに大昔からある発想なんですね。
アリストテレスは、色々なものが10個のカテゴリーに分かれると考えました。
例えば、「りんご」は実体に、「赤い」は性質に、「逆さになっている」は状態に、というようにどれかに当てはまる。
そして、重要なことは、「違うカテゴリー同士はタイプが違うものである」ということです。
ちなみに、このアリストテレスのカテゴリー論からスタートして、それ以降、様々な哲学者が、「自分の思うカテゴリーはこれだ!!」という分類表を作ります。
この分類表1つ1つを見ていくこともとても面白いんですが、ここで言いたいことは何かというと、
まず、①「哲学の中で「カテゴリー」に分けるという考え方がある」ということ。
次に、②「違う「カテゴリー」同士は別のタイプのものだ」ということです。
例えば「りんご」「トマト」が属するカテゴリーと、「赤い」「丸い」が属するカテゴリーは違います。
このことを「次元が違う」と呼んでもいいでしょう。
最後に、③「違うカテゴリーどうしは混ぜてはいけない」ということ。
「『りんご』と『トマト』どちらが美味しい?」ならわかるけれど、「『りんご』と『丸い』どちらが美味しい?」というのは変。
別のカテゴリーは「次元が違う」ので、並べて比べられないわけです。
カテゴリーを間違えてしまうと、話がおかしなことになってしまいます。
今回は、この「カテゴリーを間違える」ことをうまく説明するものとして、「カテゴリー・ミステイク」という考え方について説明します。
カテゴリー・ミステイクとは何か?
「カテゴリー・ミステイク」という概念は、イギリスの哲学者ギルバート・ライル(1900〜1976)が広めた言葉です。
「カテゴリー・ミステイクとは何か?」ということを理解するには、ライル自身が出している具体例がわかりやすいと思います。
それはこんな例です……。
①オックスフォード大学の例
あなたは英国人です。
ある日、1人の外国人が、オックスフォード大学を訪れました。
現地に住むあなたが、外国人に大学内を案内します。
「あれが図書館です。あれが研究棟です。あれが事務所です……」
ひと通り、案内が終わりましたが、外国から来たその人は、釈然としない顔をして、あなたにこんなこと尋ねてきました。
「それで、結局、オックスフォード大学はどこにあるんです?」
ポイントはわかりますね。
つまり、この外国人は、「図書館」や「研究棟」が紹介されるのと同じ仕方で、「オックスフォード大学」も紹介してもらえるものだと思い込んでいるのです。
しかし、もちろん、その建物の全体がオックスフォード大学なのであって、オックスフォード大学が「図書館」や「研究棟」と並んで(例えば、1つの建物として)あるわけではありませんね。
これがカテゴリー・ミステイクの例です。
この例に即して言えば、「オックスフォード大学」は、「図書館」や「研究棟」とは異なるカテゴリーに属するにも関わらず、同じカテゴリーであると勘違いしてしまった。
これがカテゴリーの錯誤、「カテゴリー・ミステイク」だ、というわけです。
②チーム・スピリットの例
ライルは、「クリケット」というスポーツの例も挙げています。
(ここでは細かいルールを知らなくても問題ありません。野球のようなスポーツをイメージしながら読んでください。)
あなたはクリケットに詳しい人で、クリケット初心者に、ルールを説明しています。
「この人はボウラー、この人はバッツマン、この人はウィケットキーパーという担当です」
クリケットの用語では、投げる人を「ボウラー」、打つ人を「バッツマン」、獲る人を「ウィケットキーパー」と呼ぶのです。
クリケット初心者は、こうした用語をひと通り理解したあと、こう尋ねました。
「なるほど。で、チーム・スピリットを担当するのはだれ?」
このエピソードも、ポイントはわかりますね。
このクリケット初心者は、「ボウラー」や「ウィケットキーパー」のような役割と並んで、「チーム・スピリット」という役割があると思い込んでいるのです。
もちろん、チーム・スピリット(チーム精神)というのは、チーム全体で発揮される団結心のようなものであって、「この人がチーム・スピリットを担当しています」と答えられるようなものではありません。
これも先ほどの「大学」の例と同じように、カテゴリー・ミステイクの例と考えられます。「チーム・スピリット」は、「ボウラー」や「ウィケットキーパー」とは異なるカテゴリーに属するにも関わらず、同じカテゴリーであると勘違いしてしまった。
これがカテゴリー・ミステイクです。
「次元のちがい」で言うと?
これらのカテゴリー・ミステイクの例は、「次元のちがい」という表現を使うと、次のように言い換えることができます。
オックスフォード大学の例:
「大学」は、「図書館」「研究棟」とは次元がちがうのに、同じ次元だと勘違いしてしまった。
クリケットの例:
「チーム・スピリット」は、「ボウラー」「ウィケットキーパー」とは次元がちがうのに、同じ次元だと勘違いしてしまった。
総じて、「カテゴリー・ミステイク」は、「異なる次元にある2つ以上のものを、同じ次元にあると勘違いしてしまうこと」だと言えます。
【コーヒーブレイク】「カテゴリー・ミステイク」豆知識
少し小休憩として、豆知識を挟みましょう。
カテゴリー・ミステイクは『心の概念』(ギルバート・ライル(著)、坂本百大・井上治子・服部裕幸(訳)、みすず書房、1987)という本で提唱されたもので、現代では心の哲学という分野につながります。
心の哲学というのは、意識、痛み、恐怖など、「心の中」の問題を哲学的に扱う分野です。
「心」を扱う学問と言えば「心理学」が思い浮かぶと思いますが、この「心の哲学」は、心理学とはまた別の観点からアプローチする学問です。
ライルは、このような哲学的議論の文脈の中で、「心がモノみたいにあると考えるのはカテゴリー・ミステイクだよ!」と主張するために、「カテゴリー・ミステイク」という発想について本に書いたのです。
「心がモノみたいにあると考えるのはカテゴリー・ミステイク」……つまり、「みんな心がモノみたいにあると考えて、機械仕掛けの体に幽霊が乗っているみたいなイメージになってしまうけれど、そうではないのだ!」と。
ちなみにそのときにライルは、「ゴースト・イン・ザ・マシーン」=「機械の中の幽霊」という言葉で、人々のカテゴリー・ミステイクを皮肉ります。
この「ゴースト・イン・ザ・マシーン」という表現もインパクトがあるので、そこだけ使われたりして、そのあと非常に有名になりました。
日本に『攻殻機動隊』という有名な漫画がありますが(1995年に国内でアニメ化、2017年にアメリカで実写映画化もされました)、この漫画作品の英語版タイトルが、なんと「ゴースト・イン・ザ・シェル」なんですね。
この「ゴースト・イン・ザ・シェル」は、ギルバート・ライルの「ゴースト・イン・ザ・マシーン」が元ネタになっていると言われています。
ライルは、「心がモノみたいにあると考えるのはカテゴリー・ミステイクだよ」と主張したわけですが、このような主張をするにあたって、「カテゴリー・ミステイク」という表現は非常に便利な道具でした。
そういうわけで、今では多くの人が「カテゴリー・ミステイク」を自由に使うようになったのです。
意思決定は、能力ではない!?
ここからは応用編です。
「カテゴリー・ミステイク」の発想を、実際に使ってみましょう。
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