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カンフル剤を打つのは文科省なのか?ようやくはじまった特別部会の議論。しかし、会議の方向性そのものを疑う発言も。

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本シリーズでは、主幹研究員の奥村直生が文部科学省中央教育審議会の大学分科会で現在審議進行中の「高等教育の在り方に関する特別部会」を追いかけます。
この特別部会で挙がる数々のテーマや議論の方向性は、日本の高等教育の未来に多大な影響を及ぼすものであり、大学をとりまく全ての関係者にぜひ注目していただきたいのです。
特別部会の核心に迫っていきたいと思いますので、皆さまどうぞシリーズの最後までお付き合いください。

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――特別部会の方向性を考えさせられた、あるやり取り

切羽詰まった状況に直面して、ようやくはじまった「高等教育の在り方に関する特別部会」。

果たして、私立大学にとって、遅きに失した、とならないようなスピーディな方針が打ち出されるのでしょうか。

▽この特別部会発足の経緯と検討事項については前回ご紹介した通りです。

特別部会は 8 月に、ようやく「中間まとめ」を発表することになりますが、これまでの議論のなかで、この特別部会の本当の方向性がどういうものであるのかを考えさせるやり取りがありましたのでご紹介します。

(やり取りは議論の中の一部抜粋ですので、ぜひ全体像も各自でご覧いただければと思います)

【大森副部会長】(前略)…感覚としては、あした、潰れていく大学がもう出ている中で、短期的にカンフル剤を打つのか、打たないのかという議論というか、判断をしてほしいなという、そんな気がしています。ここでする話なのか分からないけど、何かすごく高邁なことを議論して、何年かかかっているうちに、それこそ大学がなくなっていくのだろうと思っているので、議論がまとまるまでの間、カンフルを打ち続けるということは必要かもしれないと。結論が出るまでですね。ということも感じています。

【永田部会長】それは多分、誰も否定していなくて、それは今の文科省、行政としてやるべきことです。我々が今、話しているのは、その先の国のための姿を考えています。ですから、あしたのことを話すのであれば、誰もここにいなくていいということだと私は思います。そのようなことではなくて、ここで話すのは、何十年か先の日本の姿を今、描かなければいけないということで、あしたのことは行政がやるべきだと思います。我々は行政ではないので、やってもしようがないと思います。

令和6年 4月26日に行われた第5回の会合
高等教育の在り方に関する特別部会(第5回)議事録より

私は、このやりとりを聴いて、“おい、ちょっと待てよ!”と思わず言ってしまいました。

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――地方私立大として、覚悟をもっての発言?

まず、この特別部会のメンバーの構成員は誰か、確認しておきましょう。
以下の 14 名の委員で構成されています。

ご覧になってお分かりの通り、地方の私立大学関係者は、共愛学園前橋国際大学・短期大学部学長の大森昭生委員お一人ということです。埼玉短期大学の学長をされている委員の方もいらっしゃいますが、大森委員は首都圏外の地方の私立大学の代表といってもよいお立場なのです。

しかも、大森委員はこの特別部会の副部会長という要職でもあります。特別部会の趣旨には、危機にある私立大学をどうするか、という大きなテーマがある、という証しなのでしょう。

ところが、このやり取りをみると、大きな疑問が湧いてくるのです。

大森氏は、私立大学の立場としては、なかなか核心の話が俎上に上らないため、我慢できずに思わず、こうした発言をされたと推測いたします。
特別部会発足から繰り返されている高尚な議論も大切かもしれないが、バタバタ潰れ始めている私立大学の状況を踏まえ、取り急ぎ何らかの救済措置をしてほしい、という要望をとうとう出したのです。
相当な覚悟をもって発言されたのではないでしょうか。

しかしながら、筑波大学長で国立大学協会の会長もされている永田部会長は、それは行政=文科省がやることであって、われわれのやることではない、と一刀両断したのです。

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 ――ボールは、突然、文科省に

あれ?と思うのは私だけではないはずです。
そもそもそれを考えるのがこの会議ではなかったの?

百歩譲って、永田部会長のおっしゃるように「何十年か先の日本の姿」を考えるにしても、結論が出るまでのあいだに、それこそ大森委員が懸念されているように「何年かかかっているうちに、それこそ大学がなくなっていく」という事態になれば、この特別部会は何のために議論をしているのか会議の存在意義はどこにあるのか・・・

この特別部会のあり方や方向性への意識が、メンバー内でも分断されているように思えてなりません。

立ち戻ると、中教審には大学分科会という常設の分科会があるわけで、何十年か先のグランドデザインこそ、そこでこれまでもずっと会議をしてきている(筈な)のです。
なぜいまになって特別部会を設置して、緊急で話し合いをしなければいけなくなったのか・・・

では、文科省は「カンフル」を打つのでしょうか?あるいは、打つことができるのでしょうか?

永田部会長は、それは文科省の役目であるとおっしゃっているわけですから、文科省は可及的速やかにカンフル剤を考え、即実行したとしてもおかしくないはずですが、いまのところその気配は見えません。
もしかしたら、文科省の方々こそ、そんな話、聞いていないよ、と慌てているのかもしれませんね。
というよりも、それこそ、特別部会の高名な有識者の方々にどういう方針でカンフル剤を打てばいのか、サジェスチョンしていただきたいのに、と思っていらしたのかもしれません。

まるで、責任のなすり合い?のようにも感じますが、いかがでしょうか。

繰り返しになりますが、53 %の私立大学が定員割れを起こしたのは、今年ではなく去年のデータです。今年は、どう見ても、改善することは有り得ないでしょう。加速度的に悪化の坂道を転がり始めているのは火を見るより明らかです。
まさに“待ったなし”の状況でのやりとりであることを、改めて確認しておきましょう。

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――さらに、驚くべき発言も・・・

特別部会のやりとりで見られる、明らかに見当違いと思われる方向性や、スピード感の決定的な欠如は、つい先日( 7 月 19 日)に開かれたばかりの大学分科会と特別部会の合同会議でも出席委員から指摘されていました
この件は、いずれまたご紹介できればと思います。
 
というよりも、さらに聞き捨てならない文言も飛び出しています。
しかも、たびたび。

それは、「大学を助けるか助けないかという議論ではない」、というものです。
つまり、特別部会では、大学を助けるための議論をしていない、ということです。 

これも、“おい、ちょっと待てよ!“と言いたくなりますが、
この件と「規模の適正化」については、次回に触れたいと思います。

果たして、特別部会メンバーの意識の分断は解消されるのでしょうか…?



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