短編小説「毛むくじゃら」
わたしの家には毛むくじゃらがおります。それはそれは大きくて、歯をにっと剥き出しにして笑うのです。機嫌の良いときはさらさらと風に身を任せて踊り、機嫌の悪いときはその歯を牙のように尖らせ、ごうごうと音を立ててわたしを怯えさせるのです。
真夜中というのはあまりに恐ろしく、謎めいたものでありました。というのも、このころはまだまともにオイル・ランプすら出回っていなかったのですから。そんな時代につねにわたしの人生に居座りつづけたこの毛むくじゃらは、ただひたすらにわたしを怖がらせました