米田梨乃

小説家、もの書き。 仕事依頼✉rino.ynt8128@gmail.com 長編小説「ブルー・ブライニクルの回想録」 短篇小説「ノクターン」、「洗濯屋の少女」 「あるとき月が目にした話によると」ほか エッセイ集「感覚」 エッセイ「赤毛のアンのように、そして読書休暇を」 ほか

米田梨乃

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  • あるとき月が目にした話によると

    短篇小説「あるとき月が目にした話によると」をまとめたマガジンです🌙

  • エッセイ『感覚』

    五感にまつわるエッセイ『感覚』を1から順にまとめています🪿

  • 短編小説

  • エッセイ「徒然なる日々の瞬き」

    これまでに撮影した写真を、ひとつひとつの記事に合わせて載せています📸

  • エッセイ

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短編小説「あるとき月が目にした話によると」第七夜

第六夜↓ 第七夜  その晩、わたしは夢をみていました。夢をみるということは、睡眠が浅いということらしいですが仮にそうだとしてもわたしは、眠りながら知りもしない土地で見知らぬ人や生き物とともに過ごすあの時間が、実はとても好きだったりします。  近頃は身の毛もよだつような恐ろしい夢というのはほとんど見なくなりました。それはとても落ち着いていて、緩やかで、穏やかな時間であります。目を覚ませばあっという間に忘れてしまうその夢ですが、どれほど心地の良い時間を過ごしていたのかというの

    • エッセイ「感覚」10.突き刺さる

       早朝に目が覚めると、カーテンの先には薄ら明るい空が広がっている。それを見つめていると、窓を開けて朝一番の新鮮な空気を吸いたい衝動に駆られる。その気持ちに身を委ねてガラリと窓を開け、大きく息を吸い込む。ああ、いま私はこの世界で“今日”の空気を一番最初に吸い込んだ人間に違いない───。  気づけば全身鳥肌、肺も痛い。優雅な朝なんてどこへやら。急いで窓を閉めて、家の中を暖める。着る毛布を羽織り、足にはもこもこソックスまで装着。そこまでしてやっと鳥肌は治まった。  夜も更け、さあ

      • 短編小説「毛むくじゃら」

         わたしの家には毛むくじゃらがおります。それはそれは大きくて、歯をにっと剥き出しにして笑うのです。機嫌の良いときはさらさらと風に身を任せて踊り、機嫌の悪いときはその歯を牙のように尖らせ、ごうごうと音を立ててわたしを怯えさせるのです。  真夜中というのはあまりに恐ろしく、謎めいたものでありました。というのも、このころはまだまともにオイル・ランプすら出回っていなかったのですから。そんな時代につねにわたしの人生に居座りつづけたこの毛むくじゃらは、ただひたすらにわたしを怖がらせました

        • エッセイ「徒然なる日々の瞬き」7.髪飾り

           シュシュ。それは毎日の気分を高めてくれる、最高のアイテム。毎朝、今日はどれを付けて行こうかと棚の中を見つめる。昨日はこれを付けたし、その前はこれだったかな…やっぱり二日連続で同じものはなんだか違うし。毎度こんなことを考えている。  私服の高校に通っていた私は、あたりまえに毎日違うシュシュを付けて登校していた。ちなみに髪型は重めのぱっつん前髪にハーフアップ。これを我が家では「お嬢さんしばり」と言う。なんとなく、ハーフアップってお嬢様がしてるイメージがあるから、という単純な理

        • 固定された記事

        短編小説「あるとき月が目にした話によると」第七夜

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        • あるとき月が目にした話によると
          7本
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        • 短編小説
          17本
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          19本

        記事

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」6.蜘蛛

           壁に何かの影を感じる。右から左へ、下から上へと何かが動き回っているような。ふと顔を上げると、そこにいるのは蜘蛛。ということがよくある。  私の部屋にはどこからともなく遊びに来る蜘蛛がいる。それもなかなかに頻度が高い。近くの公園には奇妙な虫たちが住んでいるという噂もあるので、滅多に窓を開けることもない。玄関を開けたってそこは共有スペースの室内階段に繋がっているだけだ。それなのに、彼らはひょこっとしょっちゅう顔を見せる。  とはいえ小さな蜘蛛なので、捕まえるのも簡単。やっつ

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」6.蜘蛛

          短編小説「あるとき月が目にした話によると」第六夜

          第五夜↓ 第六夜 「その少年には名前がないのです」 これまた興味深い、とわたしが窓を開けますと、月が続きを話してくれました。 「背丈の足りない彼は、足をぶらぶらと揺らしながら、腐りかけたベンチに腰掛けていました。そうして道行く人を眺めていますと、親切そうなおじ様やおば様が、声をかけてゆくのです。『ぼうや、一人でどうしたのかね?』 『こんなところで一人でいては、危ないよ』 『ところでぼうや、名前はなんというのかい?』 こんな具合にです。すると少年はこう答えます。 『名前?

          短編小説「あるとき月が目にした話によると」第六夜

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」5.美術館

           作家の異様な空気感を体にまとうことのできる唯一の不思議な空間が美術館である。人の人生を覗き込み、そこに勝手に自分を投影し嬉しくなったり苦しくなったりする。それがなぜか病みつきになってしまう。  時々絵の中に無意識のうちに取り込まれ、そこから抜け出せなくなるのではないかと感じる作品に出会うことがある。地に足を着けていないと、自分をしっかり保っておかないと、その絵に自分を殺されそうになる。そういう時は、蓋をしている心を相手に見せることで相手は警戒心を解き、私をも解放してくれる

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」5.美術館

          短編小説「婦人とワンピース」

           シャルブーヌ通りには、それはそれはたいへん人気のある服屋がありました。ガラスのショーウィンドウには水玉模様のワンピースが飾られており、あまりの可愛らしさにうっとりしてしまうほど。  そんなショーウィンドウを、毎日アパートの窓から眺めている者がおりました。そのアパートは服屋の斜向かいにあり、ショーウィンドウがよく見える位置にあったのです。 「いつか私もあんな素敵な服に身を包んでみたいわ」 毎日ショーウィンドウを眺めていたのは、エレナという少女でした。  エレナはこのアパートに

          短編小説「婦人とワンピース」

          短編小説「約束の紙飛行機」に関して。 いつも読んでいただき、ありがとうございます🌷 これからもよろしくお願いいたします。 「約束の紙飛行機」はこちらから↓ https://note.com/rino_1999/n/n0a40915711dc

          短編小説「約束の紙飛行機」に関して。 いつも読んでいただき、ありがとうございます🌷 これからもよろしくお願いいたします。 「約束の紙飛行機」はこちらから↓ https://note.com/rino_1999/n/n0a40915711dc

          短編小説「約束の紙飛行機」

           静寂と夕焼けの光に包まれた放課後の教室で、僕は黙々と紙飛行機を折っていた。 「またやってるの?」 そこには同じクラスの夏美が立っていた。気だるそうにこちらを見ている。 「うん。これが落ち着くんだよね」僕は出来上がった紙飛行機を彼女に渡した。 「紙飛行機って意外と奥が深いんだ。ほら、折り方一つで飛び方も変わるし」 夏美は紙飛行機に目をやり、静かに放った。それは一瞬宙を舞い、そして、力無く落ちた。 「イマイチね」肩をすくめてそう言った彼女は、僕の机に近づき作りかけの紙飛行機を眺

          短編小説「約束の紙飛行機」

          短編小説「水と猫と同居人」

           この日わたしは、同居人の帰りを待ちわびていた。どうしても同居人でなければ成し遂げられない事象があったのだ。  わたしは机の上に無造作に投げ出された腕時計に目をやった。時刻は午後五時を回ろうとしていた。同居人が帰宅するまで、まだあと三十分ある。この間、どうやってこの渇きを耐えしのげというのだろうか。  同居人との暮らしは、二年前の秋に始まった。特別な感情など何もない。遊び疲れて終電を逃した若者が、駅の改札前で茹だっているところを偶然見かけただけだ。わたしはゆっくりとその若者に

          短編小説「水と猫と同居人」

          エッセイ「感覚」9.流し込む

           デザートを召し上がりましょう、カフェ巡りなんていかがかしら。アフタヌーンティーなんかも良いわね……。  残念ながら私はこんな会話には苦笑いを返すことができない。実際にこんな話し方をするかどうかはさておき、内容が気に入らないとか、虫唾が走るとか、そういうことではない。私は甘味が苦手なのだ。哀しいことに、そのほとんどは食べられない。  これまで、それなりに満足のいく学生時代を過ごしてきた。ありがたいことに私は学校が好きだったし、新しいことを覚えることも楽しいと思える環境にいた

          エッセイ「感覚」9.流し込む

          短編小説「あるとき月が目にした話によると」第五夜

          第四夜 第五夜 「あなたは、それぞれマネーとタイムと名乗る者が現れたら、どちらと友人になりたいですか」  月というものは、いつだって難題を運んでくるものです。 「どちらも、という答えはよくないですよ。この手の問いには、どちらか一方だけを答えるのが鉄則です」 諭されることを知りながら、あえてわたしはこう尋ねました。 「月よ、あなたはどちらを選ぶのですか」瞬きをせずに見つめていると、月も同じくぴたりと体の輝きを止めました。 「では、ひとりの少女のお話をしましょう。この少女は

          短編小説「あるとき月が目にした話によると」第五夜

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」4.猫

           ひとつ前のアパートに住んでいたころの話。そこにはアパート専用の小さな駐車場があった。ペーパードライバーのわたしは、特に利用することなく引っ越す日を迎えるのだろうと漠然と思っていたのだけれど。とうとうそんなわたしにも、駐車場に立ち寄る理由ができてしまった。猫である。  ある日、ひょっこり現れたその猫は、わたしが見つけたその日から、アパートを離れるその日まで、ずっと駐車場にいた。わたしはその猫のことを勝手に“クルコちゃん”と呼ぶことにした。駐車場へやって“来る”から“クルコ”。

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」4.猫

          短編小説「あるとき月が目にした話によると」第四夜

          第三夜↓ 第四夜  この日あらわれた月は、いつにも増して繊細に光を放っているようでした。そしていつもより慎重にわたしの部屋へ入ってきました。よく目を凝らして見ると、この晩の彼は、そこかしこに星々をともに連れてやってきたのです。 「どうしてもあなたを一目見てみたいというものですから」月はそう言って、自らの席を星々に譲りました。彼がすっかり雲に隠れてしまうと、そこには星々の小さな光だけが残りました。こんな路地裏にある薄暗い部屋に住むわたしを、なにを思って尋ねにきたものかと不思

          短編小説「あるとき月が目にした話によると」第四夜

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」3.写真

           常に何かいいものはないか、と思って物を見ているわけではない。たまたまその瞬間に出会えた時にシャッターを切る。それが一番素敵な出会いだと信じている。  最近は手に入れたばかりのフィルムカメラを持ち歩いているが、それでもスマホで撮ってしまうことも、よくある。癖というのはそう簡単にはなくならない。思いがけない瞬間を、と思えば思うほど、最初に手に取るのはスマホになる。あれ、これでは“たまたま”の出会いではなくなっているのでは。  誰かが撮った写真を見るのも好きだが、やっぱり自分

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」3.写真