米田梨乃(RINO║本と言葉のキロク🐩)

小説やエッセイを書いています。 長編小説「ブルー・ブライニクルの回想録」 短篇小説「…

米田梨乃(RINO║本と言葉のキロク🐩)

小説やエッセイを書いています。 長編小説「ブルー・ブライニクルの回想録」 短篇小説「ノクターン」、「小さな村のバクのおはなし」 「あるとき月が目にした話によると」ほか エッセイ集「感覚」 エッセイ「赤毛のアンのように、そして読書休暇を」 ほか

マガジン

最近の記事

  • 固定された記事

エッセイ「徒然なる日々の瞬き」4.猫

 ひとつ前のアパートに住んでいたころの話。そこにはアパート専用の小さな駐車場があった。ペーパードライバーのわたしは、特に利用することなく引っ越す日を迎えるのだろうと漠然と思っていたのだけれど。とうとうそんなわたしにも、駐車場に立ち寄る理由ができてしまった。猫である。  ある日、ひょっこり現れたその猫は、わたしが見つけたその日から、アパートを離れるその日まで、ずっと駐車場にいた。わたしはその猫のことを勝手に“クルコちゃん”と呼ぶことにした。駐車場へやって“来る”から“クルコ”。

    • 短編小説「あるとき月が目にした話によると」第四夜

      第三夜↓ 第四夜  この日あらわれた月は、いつにも増して繊細に光を放っているようでした。そしていつもより慎重にわたしの部屋へ入ってきました。よく目を凝らして見ると、この晩の彼は、そこかしこに星々をともに連れてやってきたのです。 「どうしてもあなたを一目見てみたいというものですから」月はそう言って、自らの席を星々に譲りました。彼がすっかり雲に隠れてしまうと、そこには星々の小さな光だけが残りました。こんな路地裏にある薄暗い部屋に住むわたしを、なにを思って尋ねにきたものかと不思

      • エッセイ「徒然なる日々の瞬き」3.写真

         常に何かいいものはないか、と思って物を見ているわけではない。たまたまその瞬間に出会えた時にシャッターを切る。それが一番素敵な出会いだと信じている。  最近は手に入れたばかりのフィルムカメラを持ち歩いているが、それでもスマホで撮ってしまうことも、よくある。癖というのはそう簡単にはなくならない。思いがけない瞬間を、と思えば思うほど、最初に手に取るのはスマホになる。あれ、これでは“たまたま”の出会いではなくなっているのでは。  誰かが撮った写真を見るのも好きだが、やっぱり自分

        • エッセイ「徒然なる日々の瞬き」2.本屋さん

           つい、本屋「さん」と簡単な敬称をつけて呼びたくなってしまう。どうしても本屋「」と呼び捨てにはできない。どこか近くに本屋はないかと調べるときにも、「◯◯駅 本屋さん」なんて無意識検索してしまうくらいだから、重症だ。  敬称をつけること自体はまったく悪いことではない。相手を尊重していることの現れだから、それはもう、素晴らしいことだろう。けれど、それであるならば本屋だけに「さん」をつけるのはおかしいではないか。服屋にもケーキ屋にも花屋にも「さん」が必要ではないか…とぐるぐる考え

        • 固定された記事

        エッセイ「徒然なる日々の瞬き」4.猫

        マガジン

        • エッセイ「徒然なる日々の瞬き」
          4本
        • あるとき月が目にした話によると
          4本
        • エッセイ『感覚』
          8本
        • エッセイ
          8本
        • 短編小説
          13本
        • 長編小説「ブルー・ブライニクルの回想録」
          19本

        記事

          エッセイ「感覚」8.踏みしめる

           雨が降ると、どうしても外に出て行きたくなる。水玉のワンピースを着て、髪も綺麗に結う。雨の中傘もささずに両手を天に突き上げて、叫びながらくるくると回る。これがやりたい。どうしてもやりたい。  窓の外を眺めて、曇天がやってきたとき、今日こそはと強く心に誓うけれど、かれこれ二十五年、一度もやったことはない。当然だ。これをやって美しいと思えるのはあくまでも洋画の中だけ。現実世界でこんなことをやっていたら、ただの変人だ。  大学生の頃に買った、千円もしない黒いサンダルがある。大きめ

          エッセイ「感覚」8.踏みしめる

          短篇小説「あるとき月が目にした話によると」第三夜

          第二夜 第三夜 「あなたは本物のお金持ちを見たことがありますか」 月はわたしの部屋にやってくるなり、そう尋ねてきました。  本物の、という形容があると途端にむずかしくなる質問です。単なるお金持ちでは、街を歩いていればそれなりに見かけるものですからね。心が綺麗であれば本物になれるのか、それとも何かを奪うだけの根性があれば本物になれるのか。ですからわたしはこう答えるしかありませんでした。 「”お金持ち“はたくさん見ますよ、この辺り一体は、とくにね」 すると月はこんなお話を聞か

          短篇小説「あるとき月が目にした話によると」第三夜

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」1.月

           夜ベッドに横になると、カーテンの隙間から月が覗く。今夜はどんな光だろうと思いながら見ていると、それだけで数時間経っていることもある。そして気が付いたら眠りに落ちている。これが一番理想的な眠りのつき方。  雑音にまみれた一日を過ごした日は、どうしてもよく眠れなくなる。どんなに深い呼吸をしても、それはただのため息にしかならず、なんの効力も発揮しない。そんな夜、静かに隣に座っていてくれるのが、月。だからこそ彼には頭が上がらない。  ときどき、月の光に導かれるように夜道を散歩したく

          エッセイ「徒然なる日々の瞬き」1.月

          短編小説「あるとき月が目にした話によると」第二夜

          第一夜↓ 第二夜  突然の雷雨に耐えきれず、窓がガタガタと音を立てはじめました。道という道には大きな川ができ、人々が大急ぎで戸や窓を降ろした頃、月は呑気にわたしの部屋へやってきました。てっきり今晩は来ないだろうと思っていたのですが、どういうわけか、ひょっこり雲間から顔を覗かせたのです。不思議なこともあるものですね。それからすぐに彼は話をしてくれました。 「こんな日にまでここへ来たのにはちゃんとわけがあるのです。私だって勝手気ままに語り歩いてるわけではありませんからね。さ

          短編小説「あるとき月が目にした話によると」第二夜

          短編小説「聖者の歌」

           それは誰もが聞いたことのあるメロディーでした。けれど、それは誰もが聞いたことのない音で奏でられるのでした。  ある有名な指揮者が自身の生誕コンサートを終え、優雅で昂揚気分に包まれているとき、帰りの車で事故を起こし、呆気なく死にました。  事故の原因は、暗闇に飛び出して来た野良猫を避けようと、咄嗟にハンドルを切り、家のフェンスを突き破ったことでした。  翌朝、この事故は大きなニュースとして取り上げられました。運良く、重症で済んだマネージャーによると、指揮者は事故の直前、「突

          新しく、短篇小説「あるとき月が目にした話によると」というマガジンを作りました! 第一夜から順に連載していくので、読んでいただけると嬉しいです🌙

          新しく、短篇小説「あるとき月が目にした話によると」というマガジンを作りました! 第一夜から順に連載していくので、読んでいただけると嬉しいです🌙

          短篇小説「あるとき月が目にした話によると」第一夜

           毎晩、月はわたしの部屋を訪ねては、一遍一遍、お話を聞かせてくれました。それはたいへん有意義な時間でありましたから、わたしの心の中に留めておくだけではもったいないと思い、こうして筆を取った次第であります。どこまでが本当の話で、どこからが月の理想の話かはわかりませんが、それでも彼のお話を聞いていると、どこか見知らぬ地で暮らしているであろう人々と、深く交流を図れたようなそんな心持ちになったものです。 第一夜  ある夏の晩でありました。この日からわたしの晩には月がお供してくれる

          短篇小説「あるとき月が目にした話によると」第一夜

          性格大改革

           無性に心がむしゃくしゃしたり、どうにも納得がいかなくて虚しい言葉ばかりを頭がかけめぐるようなとき、決まってわたしは「性格大改革をしよう」と心に誓う。  はじめて性格大改革に巡り合ったのは、中学生のとき。クラスの雰囲気に巻き込まれ、なんとなくツンケンして尖っていた。いわゆる、思春期、反抗期。わたしの場合は親ではなく、その対象が学校の先生や自分の成績に向けられていた。  いまでもあまり変わっていないが、当時はとくに“良い成績を取る”ことにとてつもない喜びを覚えていたこともあ

          短篇小説「洗濯屋の少女」

           おそろしく雨の多い一日でした。空は一面厚い雲に覆われ、町にも暗くて重たい空気がのしかかっていました。そんななか、少女は窓から外を眺めておりました。 「ああ、わたしにもあんなふうにおどけ回るところがあったら良いのに」  少女は薄汚れた袖丈の足りないブラウスに、小さな前掛けをつけていました。髪は左右二つに結ってありましたが、決してきれいとは言い難いほど、艶がなく傷んでいました。そんな少女の目にはこの大きな雨粒が、たいへん楽しそうに映ったのです。それもそのはず、この少女は毎日毎日

          名前とプロフィールを変えました。 あらためて「米田梨乃(よねた りの)」です。 よろしくお願いいたします。 これからより一層、執筆活動に力を注ぐぞという決意を込めて🌷

          名前とプロフィールを変えました。 あらためて「米田梨乃(よねた りの)」です。 よろしくお願いいたします。 これからより一層、執筆活動に力を注ぐぞという決意を込めて🌷

          適当を身につけるには

           さあ今日も書くぞー、と意気込んでパソコンを立ち上げるものの、一向に筆が進まない。断片的な言葉の端々が頭の中を駆け巡るばかり。エッセイを書きたいのに、そもそもエッセイのテーマが思いつかない。当然テーマがなければ、書けるものも書けないというわけだ。  ときどき無性に何かを書きたい、という衝動に駆られ、突然パソコンをカタカタと打ち始めることがある。そういうときは迷うこともなく、最後まで一息に書けてしまうのだけれど、反対にこれから書くぞ、とその姿勢を正して向き合うときには、たいて

          短篇小説「小さな村のバクのおはなし」

          その女の子は大きなベッドの上で、小さい体をうんうんと震わせておりました。 「ああ、かわいそうなお嬢さん。ぼくが助けだして あげましょう」 そうして小さなバクは、長い鼻を女の子のおでこにそっと乗せました。 するとたちまち女の子はスーッと静かな寝息を立て始めました。 「よかった、よかった。ぐっすりお眠りなさい」 そう言うとバクは、窓から静かに外へと抜け出していきました。 この村では、バクは大変重宝されていました。なんと言っても、悪夢を食べてくれるというのですから。 けれど、最近

          短篇小説「小さな村のバクのおはなし」