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「秋」と「本日は晴天なり」、どちらを選びますかと男は言った。 その男に会ったのは去年…
夕焼けは晴れ朝焼けは雨。 これ、ことわざなんだってと、万葉は言った。 へえ。じゃあ明…
電話の声は、確かに遠ざかっているのだ。 毎日話していたら気が付かないくらいの速度で。 …
「月」の色恋沙汰は、もう聞きたくない。 そう思って決意した。 「月」の、癖もなくす…
懐かしい痛みだわずっと前に忘れていた 頭の中で松田聖子の声で再生された『SWEET MEMORI…
ラムネの音弥、知っとるか、とオッサンは言った。 オッサンというのは、別にぼくの叔父さ…
紫陽花女がいる、という噂が、どこからともなく広がった。 昭和の口裂け女のことは、子供のころ見たオカルト系のバラエティでだいたい知っているが、紫陽花女なんて初めて聞いた。 紫陽花女は6月の雨の日、一眼レフのデジタルカメラを携えて現れるという。割とカジュアルな格好で、バックパックを背負っていて、足元はスニーカーで、軽快な足取りで寺社の階段を昇り降りしては、紫陽花の写真を何枚も何枚も撮るのだという。 それだけなら別に害がないではないかという人があるが、もちろん噂が立つほど
『雨』を聴くためにその店を訪れた。 21時からしか開かない店。お酒と音楽だけを提供する…
北川屋グループ「タケナワモールKITAGAWAYA」は今年、オープンして20周年を迎える。 山…
金魚鉢宮、次はきんぎょはちぐう、というアナウンスが車内に響いた。 「キンギョハチグウな…
白い靴が、足首だけを連れて目の前を歩いて行った。靴底に特徴のある真っ白なスポーツタイプ…
風薫、るり、と呼ぶ声がした。 ふたりが振り向いた時、そこにはただ、木があるだけだった…
子供の日って、大人の日じゃないのかね。 子供のいる大人が、自分の子供の成長を喜んだり…
『春の夢幻能』という掲示物が目に留まる。夢幻能、と言う言葉と、面をつけた女性とおぼしき人物が烏帽子を被っているのが気になり、ポスターの前でしばし佇みそれを見つめた。 演目は『井筒』。能には詳しくないが、この演目は知っている。伊勢物語の「筒井筒」を元にして在原業平と幼馴染の妻を描いたものだ。 桜に押し寄せる人波に抗うように歩き、たまたま見かけた人気のない郷土博物館にふらりと入って、郷土の資料や展示物をぶらぶらと見て回った後の、帰り道だった。この辺りは子供の頃住んでいた土