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短編 第二集

37
日常の隙間に入り込む、切なくも儚い存在
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#短編

本日は晴天なり #シロクマ文芸部

 「秋」と「本日は晴天なり」、どちらを選びますかと男は言った。  その男に会ったのは去年…

吉穂みらい
4週間前
70

童謡少女 #シロクマ文芸部

 夕焼けは晴れ朝焼けは雨。  これ、ことわざなんだってと、万葉は言った。  へえ。じゃあ明…

吉穂みらい
1か月前
79

遠ざかる星

 電話の声は、確かに遠ざかっているのだ。  毎日話していたら気が付かないくらいの速度で。 …

吉穂みらい
2か月前
72

Luna☽ #シロクマ文芸部

 「月」の色恋沙汰は、もう聞きたくない。  そう思って決意した。  「月」の、癖もなくす…

吉穂みらい
2か月前
63

のうぜんかつら #シロクマ文芸部

 懐かしい痛みだわずっと前に忘れていた  頭の中で松田聖子の声で再生された『SWEET MEMORI…

吉穂みらい
2か月前
95

ラムネのオトヤ #シロクマ文芸部

 ラムネの音弥、知っとるか、とオッサンは言った。  オッサンというのは、別にぼくの叔父さ…

吉穂みらい
5か月前
42

紫陽花をんな無限ループ #シロクマ文芸部

 紫陽花女がいる、という噂が、どこからともなく広がった。  昭和の口裂け女のことは、子供のころ見たオカルト系のバラエティでだいたい知っているが、紫陽花女なんて初めて聞いた。  紫陽花女は6月の雨の日、一眼レフのデジタルカメラを携えて現れるという。割とカジュアルな格好で、バックパックを背負っていて、足元はスニーカーで、軽快な足取りで寺社の階段を昇り降りしては、紫陽花の写真を何枚も何枚も撮るのだという。   それだけなら別に害がないではないかという人があるが、もちろん噂が立つほど

RAIN #シロクマ文芸部

 『雨』を聴くためにその店を訪れた。  21時からしか開かない店。お酒と音楽だけを提供する…

吉穂みらい
5か月前
65

タケナワモールワラシ【ピリカ文庫】

 北川屋グループ「タケナワモールKITAGAWAYA」は今年、オープンして20周年を迎える。   山…

吉穂みらい
6か月前
92

金魚鉢宮 #シロクマ文芸部

 金魚鉢宮、次はきんぎょはちぐう、というアナウンスが車内に響いた。 「キンギョハチグウな…

吉穂みらい
6か月前
72

アディクト #シロクマ文芸部

 白い靴が、足首だけを連れて目の前を歩いて行った。靴底に特徴のある真っ白なスポーツタイプ…

吉穂みらい
6か月前
43

秘密 #シロクマ文芸部

 風薫、るり、と呼ぶ声がした。  ふたりが振り向いた時、そこにはただ、木があるだけだった…

吉穂みらい
6か月前
44

昭和99年の柏餅 #シロクマ文芸部

 子供の日って、大人の日じゃないのかね。  子供のいる大人が、自分の子供の成長を喜んだり…

吉穂みらい
7か月前
47

夢幻能 #シロクマ文芸部

 『春の夢幻能』という掲示物が目に留まる。夢幻能、と言う言葉と、面をつけた女性とおぼしき人物が烏帽子を被っているのが気になり、ポスターの前でしばし佇みそれを見つめた。  演目は『井筒』。能には詳しくないが、この演目は知っている。伊勢物語の「筒井筒」を元にして在原業平と幼馴染の妻を描いたものだ。  桜に押し寄せる人波に抗うように歩き、たまたま見かけた人気のない郷土博物館にふらりと入って、郷土の資料や展示物をぶらぶらと見て回った後の、帰り道だった。この辺りは子供の頃住んでいた土