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小説投稿していく予定です。 もう時効

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  • 【長編小説】異邦人

  • 掌編

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【長編小説】異邦人 #1

第一章 ひったくり  この街の住人は煙草が嫌いで、歌と花が好きで、花柄の衣装も好きだった。  街は朝からクラクションが絶え間なく鳴り響いていた。スモッグで澱んだ空の隙間からまだらな太陽光が靄をぼんやり照らし、昼になると一変し肌を痛めつけるような光線に全身を打たれる。気温は冬でも二〇度を下回らず、夏は三〇度を超える。  女と出会ったのは、ちょうど雨季から乾季に変わる直前の、いつも通り暑い日だった。  山崩れのような月初の仕事を終えたあと、スコールがやむのを二〇分ほど待っ

    • 【長編小説】異邦人 #13

       旅行どうだった?  と彼女からメッセージがきた。  悪くなかったよ。と私は砂だらけの服をベランダにある洗濯機に入れながら返信した。  もうこんなマネタリーな関係やめないか。と途中まで打って消した。この関係をやめないかと打って送って、すぐに送信取消しをした。好きな人ができたんだと打ってまた消した。洗剤を入れて、煙草に火をつけて、洗濯機のダイヤルをミックスに合わせてスタートを押した。  少し仕事が忙しくなりそうだからたぶんなかなか会えなくなりそうなんだ。今までみたいにきみの

      • 【長編小説】異邦人 #12

         社員旅行  規模にもよるが社員旅行を合同でやるのは珍しくはなかった。十月半ばになり、今年はレンの働いている懇意の印刷会社と合同で中型バスを二台借りてビーチに行き十棟ほどのヴィラに各五人づつ泊まる二泊三日の日程だった。出発前部下に節度を守って楽しむようにお灸をすえたが、バス内はカラオケ大会になった。流行りの歌なのだろうがほとんどわからなかった。  彼辞めたんだって? と言ってバスのとなりの座席にレンがどさっと座り込んできた。まあまあ、お互い独り身同士ね。と断りを入れて。

        • 【長編小説】異邦人 #11

               *  彼女の膝を枕にして寝っ転がった。その天井の電灯を背にした彼女の顔が遠く感じた。ん? と屈み近づいたあたまから垂れる桃色の髪が、私の目の先で揺れ、皮膚を撫でた。  服の下から彼女のお腹を擦った。胸の下まで滑らして下腹部の上まで、弦を弾くように撫でた。  きみの子供は、元気?  うん。  あえて訊く必要はないと思っていた。ただそのつっかかりが心臓を撫でていた。  二人。  二人ね。  そう。  きみが毎週帰る理由ってそういうことだ。  そう。

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        【長編小説】異邦人 #1

        マガジン

        • 【長編小説】異邦人
          13本
        • 掌編
          1本

        記事

          【長編小説】異邦人 #10

          第三章 賭ける  表現の自由に関するセミナーを受け、増える誹謗中傷、裁判リスクに関する座談会にも出席した。お堅い集まりだと聞いていたのでネクタイを結んで行こうと思ったが、まさかネクタイの結び方を忘れてしまっていた。ボタンを締めるのが暑すぎて二年間つけていなかったのだ。時間が迫り、慌てて社内でネクタイの結び方を訊いてまわったが、誰もが知らないと言った。誰も結んだことがなかったのだ。  本社から表現のガイドラインが送られてきたが、この街の支部ではそんなものは役に立たない。表現

          【長編小説】異邦人 #10

          【長編小説】異邦人 #9

           スナックの風船顔の女の装いは派手になっていた。  桃色のチークが満月に添えられ、まるでおたふくだ。装飾品も金色を中心として固められ、どこかのブランドの財布を持っていた。縫い目の僅かな綻びから察するにウルトラコピー品だろう。だが、そもそもこの街のあらゆる物がはなから綻びている。はて、僅かな綻びが本物と偽物を分かつなら、本物に綻びができたときそれは偽物と評されるのだろうか。むしろ、あの顔面の綻びという、笑顔の表情……あれこそが機械と人を分かつ、本物の証左になりうるという矛盾…

          【長編小説】異邦人 #9

          【長編小説】異邦人 #8

           告白  彼女の原付のうしろにまたがり街を走った。  ——掴んでて。  ん?  腰!  風が身体の粗熱を冷まし、気持ちよかった。橋を渡ると川へと竹竿で糸を垂らしている老人が五、六人いる。私は彼女の腰から正面まで手をまわして寄りかかった。目を閉じて、背中の温度と振動を感じとる。風圧と轟音がそばで通り過ぎていった。大型トラックであろう。  ここの——、行ったことある? 彼女が声をあげた。  なんだって? 目を開けると、動物園を通り過ぎていた。  再度、大きな声で、

          【長編小説】異邦人 #8

          【長編小説】異邦人 #7

           代理行為  彼女はよく電話をする。彼女はとても早口で何を喋っているのかまったくわからない。彼女が電話をしているときいつも、私は友人が一人しかいない同窓会に出席したときを思い出す。  彼女は毎週金曜の夜から日曜の夜まで車で一時間ほどの実家に帰らなければならない。週末夜に父親が迎えにやってくる。      *  ロビーの正面扉のまえで子供が二人遊んでいる。母親はソファに座りながら子の名を呼ぶが、一人の子は黄色いおもちゃの車に乗りながら、正面扉のまえを往復する。かぶさるよ

          【長編小説】異邦人 #7

          【長編小説】異邦人 #6

           この街には意味のない職業が多数存在する。まず警備員だ。店の敷地面積が一定以上の場合、最低一人は雇わなくてはならない。ただ、彼らは警備などなにもせず、ある者はハンモックで寝、ある者はスマホを一日中いじっているだけだ。  また窓ガラスを汚すという珍妙なイベントがある。ビルの住居人が窓にペイント弾を投げつけ、汚し、それを清掃員が掃除する。清掃組合が日々の仕事にありつけることを感謝するために催す行事である。私も一度参加したことがあり、綺麗なものを汚すという気が引けるものなのだが、

          【長編小説】異邦人 #6

          【長編小説】異邦人 #5

          第二章 付き合う  彼女と再開したのはこの街で一番高いループトップバーだった。全長約二一◯メートルのビルの天辺がすぐそこに見える。  爆音で流れていたEDMは同僚に言わせると、十数年前の古臭い曲だというが、私にはまったくわからなかった。この街でよく流れるアップテンポな曲である。ジグザグに配置されたテーブルを囲む人々を縫うように避けながら黒服に案内されたテーブルについた。どこかから大麻の臭いが漂っていた。風が強く、グラスの水面が揺れていた。  会社の飲み会の三次会で来てい

          【長編小説】異邦人 #5

          【長編小説】異邦人 #4

           それから二週間に一度ほど同僚の原付に乗せられ、十四区のバーに顔を出すようになった。また来てくれたの? 嬉しい。と彼女は毎回喜んだ素振りを見せる。彼女の家はバーから近く、チーママが彼女の従姉妹だった。チーママはとても若く見えた。  二九歳なの。と彼女は教えた。  わたし、何歳に見える?  二四かな。  二八。  見えないね。  二個下だった。たしかに婦人のような気立さが垣間見られたが、そう見える顔立ちでも身なりではなかった。肌には張りがあり、装いは店の制服なのだが、

          【長編小説】異邦人 #4

          【長編小説】異邦人 #3

           電気も点いていない薄暗いカフェが道路片側に無数に点在している。戸は常に空いており、何よりカフェの前で二、三人の女がいる。女たちは、退屈そうに木製のリクライニングチェアに腰掛けていたり、パイプ椅子に座っていたり、壁に寄りかかっていて、我々が目の前を通っても、つまらなそうに一瞥し、入る? と目で訴えてくるだけだ。傍らにはボス猿のような老女が佇んでおり、実際カフェのボスで女たちの取りまとめ役なのだろう。どのバーも同じような構成と人員配置をしていた。我々はこのような場所に行くことを

          【長編小説】異邦人 #3

          【長編小説】異邦人 #2

           職場の斜向かいには小児病院があり定期的にイベントをやり、カラオケ大会が繰り広げられる。  騒音規制などなく壁も薄いこの街では、オフィスのなかにいてもさながらクラブのような爆音に壁が揺れることもあった。  音に耐えれず仕事を休止し、私は同僚と共に目と鼻の先の病院へと足を運んでみた。日中の陽射しは顔を上げるのも躊躇させた。赤く日焼けしたタンクトップすがたの白人が観光で練り歩いているが、何がおもしろいのか袖無しはゲイだと住人に笑われるためおめおめ着るわけにもいかない。  病

          【長編小説】異邦人 #2

          【中編小説】死願者 #6【完結】

          第六話 最期の講義  女が早々に退院したとあって、それからは女の家に足しげく通うようになった。休日はかならずといっていいほど通った。管理人に、「あんたなら安心して任せられるわ」とお墨付きももらった。女の感情の起伏は前以上にはげしくなっているようだった。女の手首の傷跡は消えたりはしなかった。戒めの傷はその手首に刻まれ、女はときたまそれを呆けてながめたり、にやついたりしては、嬉々として男に見せびらかしてくるときもあった。男も代わりに親指の腹を見せてやった。しかしすぐに治癒し、痕

          【中編小説】死願者 #6【完結】

          【中編小説】死願者 #5

          第五話 未遂  学校というものは、利便性だけではなく、「無駄」を意識されて設計されているらしい。その「無駄」こそ、生徒の逃げ場にもなり、いわゆる設計者の、学校の、やさしさでもある。無駄とまではいえないが、たとえば保健室もその一種である。時間が停止してしまったような異様な空間。時間も音も臭いも、学校のそれとは隔絶されたあの保健室。無駄な保険医の微笑み(頬笑みというものも、意思伝達においては社会的で合目的的ではあるが、人間以外が行わないことからも動物学的には無駄であるともいえる

          【中編小説】死願者 #5

          【中編小説】死願者 #4

          第四話 予感  電話がかかってきたのは昼休みも終わるころだった。留守番電話にふきこんだ、『やあ、どうしているのかなって思って。いや、すこし心配になっちゃってね。大丈夫ならいいんだ、でも一応心配だから、もし時間あったら……』というメッセージを聞いたらしく、『仕事終わりに寄ってくださらない』と女が返事をしてきたのだ。  はじめて明かりのもとで女の化粧姿を見た。なんの意図があって、化粧をしてきたのか、薄い口紅がひかれている。はなしによると、「べつに用事があったとかじゃないの、ほ

          【中編小説】死願者 #4