📖『ある男のゲキジョウ。』
ぶぅんぶぅんぶぅん…。
扇風機うるさいなぁ。
僕が聴覚過敏なの知ってるだろ。
僕は聴覚過敏で視覚過敏で触覚過敏なんだよ。
そのせいで外に出れないんだよっ。
だからうるさいお前と一緒にいるんだよ。
嫌になるよ、過敏過敏過敏過敏…。
その反対?
鈍麻って言うんだよ。
僕は味覚と嗅覚が鈍麻。まったく機能していない。
この世界はうるさすぎるし眩しすぎるし接触が多すぎるよ。
うるさいって分かるか?
そうだよお前の出す音もうるさいことの1つさ。
僕のうるさいは2つの意味を持つ。
1つは音としてのうるささ。音量や音の種類が多すぎてうるさい。
2つ目は視覚的な音としてのうるささ。僕は音が視えるんだ。
あとは、やっぱ3つだったな。肌感覚としてのうるささ。音には感触があるんだぜ。知らないだろ?知らない方が良いよ、不便なだけさ。
オマエハナゼソンナニオコッテイルンダ…?
やっと喋ったな。壊れたんだと思ってたよ。
怒ってる?そんなわけないだろう僕は善良で素敵な市民なんだぜ。
イヤ、オマエハオコッテイル…。
だから、そんなわけないだろっ。なぜ僕が怒るんだ。
何に対して怒るんだ、言ってみろオンボロ。
オマエハ、オマエジシン二タイシテオ…コッ……t…。
なんだ?遂に本当に壊れたか。オンボロだからな。
オンボロのくせに僕にいい加減な事を言うからそんなことになるんだ。
あぁ、僕は本当に独りぼっちになってしまった。
おい扇風機、起きろよ起きれるだろう!
毎年毎年一緒にいたのに。
いつかお前は言ったな。この世界には僕が想像もできないような数の人間がいるんだと。実際に僕のもとへ来る途中にそれを見てきたのだと。
そんなもんいないさ。現に僕は今独りぼっちだ。
機械であるお前を抜いてしまえば随分前から僕は一人ぼっちだ。
どんなにこのドアの先に僕以外の人間がいようと、僕の世界の住人は僕以外にいないんだ。
生きづらさというものを機械のお前は知らないだろう。
大勢の人間から一つでも差異を指摘されれば、もうそいつは社会から消えた人間として扱われるんだ。
その苦しみをお前は知らないだろう。
その惨めさをお前は知らないだろう。
知るはずがない。知らなくていいんだ。
怒り…?そんなもの忘れてしまった。
余りにも、僕には悪い刺激となるものが多すぎるから全てを避けていたんだ。そのせいで全てを忘れてしまった…。
ごめんよ…。
お前という存在まで僕は排除して忘れ去ろうとしていた。
外の世界と同じことをしようとしていた。
ギィッギィッ.....…ぶぅんぶぅんぶぅん…。