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兄と僕

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実話をもとに描いたショートストーリーです。クスって笑えてもらえたら嬉しいです☺️
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記事一覧

救世主は小さなビデオテープ

あれは小学生の頃だっただろうか。兄が初めてパソコンを手に入れた日、家族の中で決定的に「勝者」が決まったような気がした。いや今までも兄が王子なのだから勝者だったんだけど、何かもう抗うことも無駄じゃないかという気にさえなったのだ。

パソコンなんて、当時の僕にとっては未知の惑星のように遠くて手が届かない存在だ。(PC-8801/mkIIの頃の話)そのパソコンは当時おそらく最新式で、スペックなんて当時の

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小さな家来の反乱

「その写真を見るたびに自分の存在がわからなくなる」

我が家では、兄はまさに「王子」の待遇を受けていた。
何をしても褒められ、どんなわがままを言ってもは母優しく微笑んで
首を縦に振る。兄の言葉はまるで家族にとっては神託?絶対の掟のようだった。あるいは絶対的な父親とか。

6歳の王子である彼は、絶対的な権力を握っていた。
まあ、僕が兄と決別するまでずっとだけど・・・
それはまた別の話になるので、今は

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僕の味方は、どこにいる?

「僕は養子ではないかと思った1回目の出来事」

その日、兄にイジメられた僕は、泣きながら父の部屋に駆け込んだ。5歳の僕にとって、父は「最後の砦」ならぬ「最初で最後の砦」だ。

頼れるのは父しかいない!

父は僕の泣き顔を見るなり、少しだけ溜息をつきながらも、「何があった?」と聞いてくれた。そこで僕は意を決して、兄に虐められたと訴えた。父の表情が少し険しくなり、兄を呼び出して叱り始めたのだ。

父の

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自室という名の避難所

学校から帰ると、まるで敵の城から逃げ帰る騎士のように、全速力で自室に突入する。

ここは僕にとっての安全地帯、つまり「自室」という名の防衛拠点だ。
なにしろ家には母という「女帝」と、兄という「王子」がいる。
その母の怒りや兄王子の不機嫌さから逃れるための、言わば最後の砦。
そしてそれ以外は戦場のようなものである。

部屋のドアを閉めると、外の世界の騒音がかすかにフェードアウトし、静寂がやってくる。

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時々晴れ、のち雷雨 我が家の兄王子

「兄の機嫌は毎日が嵐の前の静けさから始って
最後は必ず大荒れなので、全てを薙ぎ倒していく。」

兄が帰宅するなり、なんと今日は僕に声をかけてくれた。

「えっ、本当に?」と思わず小さくガッツポーズ。

こんな珍しいことがあるなんて、これはいい日になりそうだと感じた。

兄の表情も上機嫌だったし、僕が余計なことを言わない限り、きっとこの平和は保たれるだろう

――僕はそんな期待を胸に、リビングでゲー

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王子の勝利、忠実な家来の誕生

我が家の日常は、まるで中世の宮廷劇のようだった。

中心に君臨するのは、我が家の「王子」
・・・そう、兄だ。

今日も彼は好きなゲームに全身全霊をかけ、堂々と王座への道を進む。 王子の道には「負け」という概念はなく常に「勝利」が待っている、 はずだった。

ある日、僕はその「王子」とゲームをすることになった。
兄はまるで選ばれた勇者のように自信満々でスタートボタンを押した。「今日は絶対に勝つ」

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永遠の「王子」としての兄と僕

「我が家の物語は、ひとえに“兄の機嫌”によって動いていた。」

今振り返れば、それがどれほど異様だったかが分かる。今の僕の視点から見る兄と母の関係は、まさに『家族劇場』と呼ぶにふさわしい。母は我が家の主演を兄に譲り渡し、脇役たる自分と私が支える…
ただし、兄のその“王子気分”が不動なのは、母の徹底したサポートによるものだ。そして僕は、小さい頃からずっとそのおこぼれ役として機能していた。今なら笑い飛

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王子の勝利と忠実なる家来

「我が家の日常は、まるで中世の宮廷劇場の舞台」

中心には、我が家の王子様、兄が君臨している。今日も彼は、好きなゲームに全身全霊を注ぎ込み、勝利という名の王座に向かって突き進んでいる・・・・・・と、本人は思っている。

ある日、兄とゲームをしていたのだが、彼はまるで選ばれた勇者のように自信満々でスタートボタンを押した。その顔には「今日は絶対に勝つ」といった無邪気な確信が表れていた。

だが、こ

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兄と母と僕、そしてちょっとした希望

小さい頃の僕にとって家族は、どこにでもある“家族”のはずだった。もちろんそれは、兄が絶対的に君臨する家だと気づくまでの話だ。
僕?僕はその端役を担うただの従者に過ぎなかったんだ。

家族で出かける度、僕の「控えめな意見」が無視されるのは、兄が生まれながらの「王子様」であるからに他ならない。いや、僕の意見がそもそも尊重される見込みなど、最初から存在しなかったのだろう。
というのも、我が家には不文律が

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