兄と母と僕、そしてちょっとした希望

小さい頃の僕にとって家族は、どこにでもある“家族”のはずだった。もちろんそれは、兄が絶対的に君臨する家だと気づくまでの話だ。
僕?僕はその端役を担うただの従者に過ぎなかったんだ。

家族で出かける度、僕の「控えめな意見」が無視されるのは、兄が生まれながらの「王子様」であるからに他ならない。いや、僕の意見がそもそも尊重される見込みなど、最初から存在しなかったのだろう。
というのも、我が家には不文律があり、「王子」である兄が「帰りたい」と一度でも言おうものならその場の全員が帰宅の支度を整えるのが通常運転だった。5歳の僕がどんなに楽しい場所にいたとしても、兄の言葉がすべてを決めてしまう。8歳にして、この世の中心であるかのように振る舞うあの気品たるや、今となっては賞賛さえ送りたい。

ある日のショッピングモールでもそう。
兄はいつものように、無言で少し不機嫌そうに車の後部座席に座り、窓の外をじっと睨んでいた。別に特別の理由があるわけではなく、ただ彼は「自分の気分が一番」の人なのだ。

その日も僕がまだ文具屋さんで夢見るように眺めていたその時、、、

兄の神託が突然下されたのだ!

「帰りたい」

一瞬時が止まったように感じた。
母はその瞬間、目にも留まらぬ速さで振り返り、満面の笑みで「帰りましょう!」と言い放つ。完全に「ご機嫌取り」の手本のような反応で、「王子」の号令に忠実な家来のようだ。

恐る恐る僕が、「まだ他のお店も見たい」と控えめに言ったところで、母も兄もまるで意に介さない。いや、僕の声など、風の羽音よりも儚いのだ。振り向いた兄の無機質な視線が「まだ何か用?」と語りかける。はいはい。どうやら僕の意見など眼中にないらしい。

帰りの車の中で、ふと考えた。「もし僕が王子だったら、母も僕の意見を聞いてくれるだろうか?」だが、それはバカげた夢想でしかない。既に答えは見えていた。
僕が何を言おうと、母にとっての王子はただ一人──兄だけだ。
そして母は僕にこう言うのだ、「黙って従いなさい」と。

僕に許されているのは、「王子」の機嫌を損ねないように隅っこで黙って従うことだけだということを、毎回欠かさず、本当に欠かさず念を押してくるのだ。あらゆる方法で。

今では、あの頃の自分の必死な「主張」がむしろ滑稽にさえ思える。
いつか自分にも主役が回ってくるかもと密かに信じていたあの頃の僕。その姿を思い出し、滑稽を通り越して、苦々しい笑みが溢れてくるのである。


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