救世主は小さなビデオテープ

あれは小学生の頃だっただろうか。兄が初めてパソコンを手に入れた日、家族の中で決定的に「勝者」が決まったような気がした。いや今までも兄が王子なのだから勝者だったんだけど、何かもう抗うことも無駄じゃないかという気にさえなったのだ。

パソコンなんて、当時の僕にとっては未知の惑星のように遠くて手が届かない存在だ。(PC-8801/mkIIの頃の話)そのパソコンは当時おそらく最新式で、スペックなんて当時の僕は何一つ理解できないけれど、兄は我が物顔でそれを扱い、ゲームの世界へと華麗に旅立っていった。
そんな彼を母はよくドアのそばで微笑んでいて、幸せそうだったのを覚えている。

「いいなあ、兄さんは・・・」と呟いたものの、僕にも何か特別なものが与えらるはずもなく、結局お気に入りの映画が入っているビデオテープが唯一の「慰め」だった。
なぜ兄だけのPCが与えられたのか、母に聞いたこともあった。しかし母は明確な回答はしてくれず、「お兄ちゃんだから」というだけであった。今振り返っても意味不明な理由なのだが。。。

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