怪物に食べられてしまわないようにわたしは音楽/MUSICを抱いて眠る。/あいみょん 4th full Album「瞳へ落ちるよレコード」/Falling into your eyes Record/(2022.8.17.RELEASE)
「瞳へ落ちるよレコード」Falling into your eyes Recordのための物語/わたしと怪物と音楽/MUSIC
本当の事を言おうか。誰にも言ったことのない本当のこと。わたしには誰にも言えない誰とも分かち合えることのない/できない秘密があるんだ。わたし人じゃないんだ。人のふりはしているけれど。わたし、人になりそこねた、ひとでなしなんだ。悪い人、善い人、その前それ以前の、ひとでなしなんだ
だからここに書かれていることは、いかなる意味に於いても、言葉ではない誰かがその誰かが人である限り誰であろうとも誰にも読まれることのない/読むことのできないもの。人ではないものが書く〈言葉のようなもの〉。仮にその〈言葉のようなもの〉に意味が存在し、それがあらわすものが人に伝わるとしたら、その人もまた少しだけ人から人ではないものへと移ろっていることになる。〈言葉のようなもの〉のわたしと怪物と音楽/MUSICの物語。怪物に食べられてしまわないように、わたしは音楽/MUSICを抱いて眠る。
No.1:深い海の底の透明な暗闇の中で、動くことなくその瞳を閉じて横たわっているわたしの中のわたしではないもの
それはわたしの中の深い海の底のような透明な暗闇の中の遠い場所で動くことなくその瞳を閉じて横たわっている。それは周囲の風景に溶け込むようにして風景の作り出す影の中で気配を殺してじっとしている。まるで影そのものであるかのように。それをその場所から移動させることはできない。それはわたしの中に存在するものでありながらそれはわたしが操ることはできないものなのだ。それはわたしでありながらわたしではない。わたしの中にあるわたしではないもの。わたしの中の最も柔らかく最も壊れやすい時間と空間の中に存在するわたしではないもの。わたしが知る限りわたしにとって最も重要で大切な場所であるはずのそこに棲息するわたしではないもの。
No.2:そのことを誰かに教えることはできない。/わたしがわたしであることを生成し、その根拠となり、同時に、わたしがわたしであることを破壊するもの/
そのことを誰かに知らせることはできない。そのことを誰かに教えることはできない。それは誰とも分かち合うことができない。わたしがわたしであることを生成し、その根拠となり、同時に、わたしがわたしであることを破壊するもの。もしそれを誰かと分け合おうとすればそうすれば、わたしがわたしではなくなってしまうことになる。わたしの中のわたしではないものはわたしの中でしか生存させることができないからだ。それがわたしではないものであるにもかかわらず。わたしがわたしであるためにわたしではないものをわたしの中に存在させること。それがわたしには必要なんだ。その誰にも分からない誰にも理解できない秘密がわたしには必要なんだ。どうしても。
No.3:〈内部の中の外部〉//それがわたしの中にあるからこそわたしはわたしではないものたちの声を聴くことができる。〈内部の中の外部〉から奔流するものたちで、わたしの内側が満ち溢れる
そして、それがわたしの中にあるからこそわたしはわたしではないものたちの声を聴くことができる。それがわたしをわたしではないものたちへと連れてゆく。それがわたしの声をわたしではないものたちへと届ける。わたしの中のわたしではないものがわたしとわたしではないものをつなぐ。そのわたしの中のわたしではないもののことを指して、それを〈外部〉と呼んでいいのかもしれない。わたしの内側に存在する外側。わたしの内部の中の外部。〈内部の中の外部〉。内部の外の外部ではなく内部の内の外部。向こう側の向こう側ではなくこちら側の向こう側。わたしの中の地平線/水平線の彼方から湧き出るものたちによってわたしの内側が満ち溢れる。それが内部の中の外部からわたしの内部へ流れ込み奔流となる。わたしとわたしではないもたちが交信するために、〈内部の中の外部〉から宇宙の根源/精霊がほとばしる
No.4:世界が誕生し、人が人となる。//わたしはわたしでありながらわたしではないものとなり、わたしはひとりでありながらひとりではなくなる
超越することのできない線/面が、内部の中で外部として折込まれ、内部の中の外部が向こう側をわたしの中に出現させる。わたしはわたしでありながらわたしではないものとなり、わたしはひとりでありながらひとりではなくなり、世界が誕生する。そして、それが人が人になるということを意味することになる。人が世界を組み立て世界が人を組み立てる。世界の誕生とは人の誕生であり、人の誕生とは世界の誕生のことである。わたしの中に世界が存在し世界の中にわたしが存在する。わたしがわたしでありあなたであること。あなたがあなたでありわたしであること。わたしがわたしであり彼/彼女/彼、彼女ではない者であること。そうして人は人になる。わたしのため/あなたのために。彼/彼女のために彼/彼女ではない者のために。人のために
No.5:誰の中にもある地平線/水平線の向こう側。あるいは、永遠に解くことのできない事柄
わたしがわたしでありわたしが人となり、世界が生まれ存在していること。その一見当然のことであり何ひとつ不思議ではないことのように見えてしまう事柄。でもそこには解き明かすことのできない不可解な永遠の謎がある。わたしの中の地平線/水平線とその向こう側。誰にでもそれは存在している。世界を構築し人と人をつなぎ人をして人たらしめる〈内部の中の外部〉である「わたしの中の地平線/水平線の向こう側」が。いろとかたちが違っていても誰もが胸の奥深くに地平線と水平線を持ち、彼方が存在しているはずだ。
地平/水平と空に区分するその線から光が昇り降り鳥がその線を超えて行く。地平線/水平線のありようがその人のありようを表しているとさえ言える。さらにそれが世界のありようも決めることになる。人が人である限り誰の中にも地平線/水平線は存在している。心臓の奥の地平線/水平線こそが人間の基本なのだ。人に刻まれているひとつの線、そして、その線を超えたものことが人と世界のかたちを作る。気付くことなく、忘れ去られているとしても。
No.6:わたし以外の全てがそのドアから流入する/わたしはわたしではないものになりわたしはひとでなしになってゆく。
〈内部の中の外部〉。それはわたしの中にわたしではないものを呼び寄せ存在させる通路/回路/ドア。わたしでないものたちがその通路/回路/ドアから流入/到来/飛来する。内部と外部をつなぎ合わせるそのドア。わたしの内側に満ち溢れる〈内部の中の外部〉から奔流するものたち。それらはわたしではないものであり、同時に、人ではないものでもある。否応なしに。それらはわたし以外の全てなのだ。わたしがわたしでありわたしが人であれば、外部とはそうしたものとなってしまう。それが外部であるということ。ドアを閉じ、それらの流入/到来/飛来を堰き止めることはわたしにはできない。
だからそのためにそうだからこそ、時に、人は人ではないものになることになる。わたしの中に流れ込むわたし以外のものたちがわたしの中に満ちわたしはわたし以外のものとなって行く。人ではないものへと変貌するわたし。わたしはわたしではないものになりわたしはひとでなしになってゆく。
No.7:どこにも行けない。どこにも。息を止めて慎重に細心に注意深くしていても侵入する夢魔的なるもの/ 避け難くわたしはひとでなしになる。
どこにも行けない。どこにも。そのドアがその通路が、そこにある限りわたしはどこにも行けない。それと伴にわたしはここにいるしかないんだと思った。それがそこにある限り。それがわたしの内部に存在する限り。閉ざすことのできないドアから侵入し紛れ込む〈夢魔的なるもの〉。息を止めて慎重に細心に注意深くしていてもそれを完全に防ぐことはできない。喚くように否定したところでそれがわたしの一部であることにかわりはない。何を犠牲にすればいいのだろう。わたしの大切なものすべてを渡してしまった。わたしには何も残ってはいない。わたし以外は。わたしがひとでなしであることのその避け難さ。そのことと伴にわたしの生のかたちがかたち作られている
No.8:真夜中にそれは怪物となってわたしを食べようとして襲来する。
真夜中にそれはやって来る。そいつは怪物となってわたしを襲来する。深夜のその奥の深い夜に。わたしが眠りみんなが眠り誰もかれもが眠り何もかもが眠っている静謐の時間の中で、目では見ることのできない柔らかな不定形の巨大な体を地面に擦り付け引き摺りながら、夜の闇の中を夜の闇の塊りのようにしてそいつはわたしところに辿り着く。雨の日の郵便配達人のように
そいつはわたしを食べようとしてわたしの前に姿を顕わす。そいつの目的はわたしを食べてしまうことなんだ。わたしの全てを。わたしの何もかもを。
無数のドアを通過するように厳重に掛けられたドアの鍵を開けることなく現れる。鍵なんて無意味なことなんだ。何故ならそいつはわたしの内側から飛来するのだから。そいつはやって来る。わたしを食べるために。いつもはそれはわたしの中で静かに眠っている/眠ったふりをしている。それは死んだふりさえしてわたしの中でじっとしている。わたしはそれが生きていることを知っている。それがわたしを騙そうとしてそうしていることなどわたしが知らないわけがない。それはわたしそのものなんだから。真夜中にわたしを食べようとして怪物になってわたしを襲うそいつはわたし自身のことだ。
No.9:わたしという怪物がわたしに飢えわたしを食べてしまおうとすること/いやいややめてやめておねがいだから
飢えて飢えて、激しく、耐え難く喉が渇き腹を空かせ、食べたくて食べたくて開かれるその口から腐敗した泥のような涎が溢れ出し、その鋭い歯で噛み砕き滴り落ちるわたしの血を全身に浴び、体を引き裂かれるわたしの深い悲しみと絶望と苦痛の叫び声に欲情しわたしを流し込むようにまるごと飲み込む。わたしの血と涙と体液と肉と内臓と骨の破片と絶望と苦痛と悲鳴を求め欲望する怪物。それがひとでなしのわたしのほんとうの姿だ。わたしという怪物がわたしに飢えわたしを食べてしまおうとすること。わたしはわたしを食べるおぞましき怪物。凄惨して醜悪なるそれ、いやいや、やめてやめて。
No.10:その襲来の仮の意味/誰にも分からない、分かってもらえない、その欠片さえも一片さえも
その襲来に一度でも遭遇したことのない者、その襲来に一度でも傷付いたことのない者、その襲来から一度でも自分の身体を守ったことのない者は、ひとでなしであるわたしがここに書いている〈言葉のようなもの〉に与えようとしている仮の意味が何か永遠に分かることはないだろう。その一片さえも
No.11:わたしは透明になって怪物の襲来の時間が通過するのを待つ。/わたしの中のわたしではないもの、その怪物性
怪物の襲来から身を守るためにわたしは透明になる。一時的に。そいつは透明になったわたしの体のすみずみをまさぐるようにその触手を伸ばす。その触手はいとも簡単にわたしの体の皮膚を通過してわたしの内臓をまさぐる。心臓も肺も腸も脊椎も神経も血管も脳髄も全部をそれはまさぐる。舐め回すようにその襞の奥深くまでそいつはまさぐる。その手は濡れていて生暖かく柔らかだ。慎重に優しく愛おしいものを撫でるようにそいつはわたしにふれる。わたしの全部を自分のものとして自分の欲望のためのものとしてわたしにふれる。忌まわしさに軋む全身の骨。わたしにそれを止めることはできない。それはわたしが姿を現し逃げ出すところを捕まえて食い千切りたいたいのだ。それはわたしの血と悲鳴が欲しいんだ。わたしにできることはそいつの唾液と体液にまみれながらそれが終わるのを待つことだけだ。わたしはその時間が通過するのを待つ。わたしの中の怪物。わたしでありながらわたしではなく、わたしの中心に位置しわたしがわたしとして成り立つ根源でありながらわたしの手が届かない存在として、わたしの向こう側でわたしではないものとしてわたしに君臨する怪物。わたしの中のわたしではないもの。
No.12:怪物に食べてしまわれないようにわたしは音楽/MUSICを抱いて眠る。/音楽MUSICのひかり/わたしを離さないで、音楽/MUSIC
だからだからだから、音楽/MUSICが必要なんだ。真夜中の時間に。
怪物に食べられてしまわないようにわたしは音楽/MUSICを抱いて眠る。
音楽/MUSICのひかりがわたしの体を包み込んでくれる。そのひかりがわたしを守護し、怪物に食べられることなく今日もわたしは夜をすごすことができるんだ。護符/タリスマンとしての守護者としての、音楽/MUSICのひかり
わたしを包んで、そして、守って、音楽/MUSIC。 わたしを離さないで、音楽/MUSIC。
あいみょん 4th full Album「瞳へ落ちるよレコード」/Falling into your eyes Record/(2022.8.17.RELEASE)ラブ・ソングがぎっしりと詰め込まれた最新アルバム。繊細にして手の込んだ素晴らしいアートワーク。「AIMYON弾き語りTOUR 2021 傷と悪魔と恋をした🤍 in 武道館」のKIZUKOI TOUR PHOTO BOOKのショットの素敵さに溜め息が洩れる。かわいいくらい小さな写真集でも最高の!があつめられている。あいみょんの!のこころ/表情がそこに。
ラブ・ソングのその痛みと輝き。ラブ・ソング/愛の歌、それこそがわたしがわたしでありわたしが人であることの証明でありそれを手放さないことの誓いなんだ。恥ずかしすぎて言葉にできないほど言うまでもなくそんなことあたりまえのことだ。わたしのこの長い長いジグザグした言葉のようなものの〈わたしと怪物と音楽/MUSICの物語〉は「瞳へ落ちるよレコード」が何度もリフレインする時間の中で書かれた。わたしがわたしであり、あなたがいてわたしがあなたを愛することの物語。ありがとう、あいみょん、ありがとう
あとがき/余白のために余白にかえて、あるいは、恥辱/論理と非論理で編み上げた透明な罠/怪物の愛の歌が聴こえるか?
これは散文でもなければ韻文でもない。記録/痕跡でもなければ記憶/傷痕でもない。ここには光もなければ音もない。沈黙と影さえもない。風景/光景/音響がかたちつくられることはない。これを告白などと思う者がいたとしたらその者は救い難い愚か者でしかない。叫びのように聴こえるかもしれないが叫びではない。そこに叫びの残響のようなものが紛れ込んでいるのかもしれないが誰かの叫びとして受け止めてはいけない。そんなことをしてしまうと忽ち致命的な誤りに取り込まれてしまうことになる。無論、一切の反語的なるものは排除されているとあらかじめ申し上げておこう。図と地は反転しない。そして、余白にあるものを読み取ろうとしてもそこには何もない。
これは恥辱なのか
あがなわなければならない恥辱なのか
救済を求めているのではない。誰も救済など求めてはいない。泣いている子供がそこにいるからといって油断してはならない。誘惑と錯誤と物語/虚構で編み上げられた迷路の形をした不可視の荊の罠がそこに仕組まれている。踏み込めば深く長くしなやかな荊の棘があなたを貫き切り裂くことになるだろう。これはあなたを誘う論理と非論理で編み上げた透明な罠なんだ。〈夢魔的なるもの〉たちの狡猾で残虐な罠、そして、それはわたしが仕掛けたものなのだ。ひとでなしのわたしがあなたを嵌め込むために用意した罠なんだ。
怪物/わたしの愛の歌があなたに聴こえるか?
そのメロディとビートであなたを傷つけるその愛の歌/声が聴こえるか?
声にならない声で
歌にできない歌を
夢にできない夢も
愛にならない愛も
よく眠る前に唱えた
「瞳へ落ちるよレコード」あいみょん、収録の歌「インタビュー」より引用