言葉の滴り①
はじめに
感銘を受けた文言、美しい表現たちを紹介するシリーズ「言葉の滴り」をはじめます。
美しい言葉は溢れていて
何から紹介しようか迷うけれど、
やはり最初はずっと私の癒しである和歌から取り上げる。
今日は式子内親王です。
山深み春とも知らぬ松の戸にたえだえかゝる 雪の玉水
𓂃𓈒𓏸私の住む奥山には春の気配は遠い。松の戸には雪が積もっているわ。だけどその雪から真珠のような水が滴り落ちて、春が近づいてきたことを知る。𓂃𓈒𓏸
この方は私の中ではっきりイメージがある。深く澄んだ湖のような心を持ち、誇り高い女人。心を抑えて生ききった理性の人。潔癖で人にも自分にも清潔を求め、浮世の汚れに苦しんだひと。
そんなイメージが彼女の和歌からは浮かぶ。
清らかに生きたこの人に、惹かれる。
特に彼女の叙景歌は美しい。自然を温かい視線で包むような、そっと心に染入る歌なんです。そして物語性がある。彼女の歌に喚起されて創作したくなるような。
梅が枝の花をばよそにあくがれて 風こそかをれ春の夕闇
𓂃𓈒𓏸梅は花を枝に残して、香りだけ彷徨い歩く。 香るのは風ばかり。そんな春の夕闇です。𓂃𓈒𓏸
ほかには、
玉の緒よたえなばたえね長らへば忍ることの弱りもぞする
も百人一首に採られた有名な歌ですね。
ちなみに、式子内親王は選者・定家の想い人であったという説が残っており、「定家葛」は式子内親王の死後、定家の恋心が蔓となって彼女の墓を覆ったという創作から名付けられたもの。この物語は能の演目(「定家」)にもなっています。
これだけ強く噂が残っているとはいえ秘密の恋は真実あったものか定かではありません。が、自分の父に師事する、和歌に長けて教養のある上に高潔な、年上の美しい女性は、停滞した和歌界に新たな流れを作ろうとするやる気に満ちた青年定家には眩い存在だったのは確かでしょう。
来ぬ人をまつほの浦の夕凪に 焼くや藻塩の身も焦がれつつ (定家,百人一首97番)
どうですか?
私は繊細な言葉に触れている時間が好きです。特に彼女のうたは口ずさみやすい音律なので、気に入った方は音読してみてくださいね。
いいなと思ったら応援しよう!
