丹波のグリエゴ

1960年生まれ。性格 あかんたれ。長所であり短所 相手の立場を理解しようとしすぎるところ。 投稿のきっかけ ズバリ、コロナ時代にひきこもりはじめたこと。 好きなミュージシャン 友部正人、加川良、高田渡、沖ちづる 尊敬する人 狩俣倫太郎、高橋源一郎、谷川俊太郎

丹波のグリエゴ

1960年生まれ。性格 あかんたれ。長所であり短所 相手の立場を理解しようとしすぎるところ。 投稿のきっかけ ズバリ、コロナ時代にひきこもりはじめたこと。 好きなミュージシャン 友部正人、加川良、高田渡、沖ちづる 尊敬する人 狩俣倫太郎、高橋源一郎、谷川俊太郎

マガジン

  • 車いすからベッドへの旅

    毎日、天井を見つめている。ベッドで横になっていると、ぼくの六畳の部屋半分と、ヘルパーさんが仮眠する隣の四畳半三分の一ほどしか視界には入らない。 かぎりなく狭い世界の中で、なにを考え、なにに悩み、なにに微笑んできたのだろうか。 まわりの友人たちから「ホンマにやっさんの電動車いすで走る姿って、まちの風景の一部になってるなぁ」と評されるほど、アウトドア派だったぼく。 その変遷と内面をときには軽く、ときにはとことん重く、書き綴っていきたい。 心がひしゃげてしまいそうになるテーマもいくつかあり、これまでマガジンをわけて発表済みのものも入りまじって時系列が乱れたり、内容が似かよってしまったりすることをお許しいただきたい。

  • 木蓮の花開くころ

    ここでは、かっこよくない障害者のぼくの半生を語ります。そこで出逢った友人はかけがえのない財産です。

  • 食べることは生きること

    60年前、ぼくは6カ月健診で「5歳までしか生きられない」と、医師から宣告されました。家族は必死で栄養のあるものを食べさせ、宣告の十二倍も生き延びてしまいました。施設や養護学校を渡り歩き、大阪でのヘルパーとの生活にたどり着くことができたのです。食べることと生きる日々のつづれ織りを届けたいと思います。

  • 障害者の戦争体験

    ぼくが施設で暮らしていたころ、30歳ほど年上の障害者の方から実際にお聴きした話を基に、自分自身の気持ちに落としこんで書き上げました。 できるだけ多くの方に読んでいただきたくて、この投稿だけを独立させました。 障害者だけではなく、「兵隊の立場だったとしたら」も考えながら読んでいただけるとありがたいです。

  • 最近になって、夢を覚えていることが増えた。 有名人が出てきたり、知らない町を歩いていたり、障害を持たないぼくだったり、夢はいつも現実ではありえない展開が待ち受けている。 ここでは夢の分析は横へ置いておいて、辻褄の合わない記憶を丹念に掘り起こしてみたい。その日の様子も合わせて。

最近の記事

  • 固定された記事

船出

 Mさんが泣きはじめると、いくらオーディオのボリュームを上げてもなにも聴こえなかった。 その凄まじさで、床頭台から小物が落ちてきたことがあったかもしれなかった。  彼は五十代半ばを迎えるまで、ずっと自宅を出たことがなかったらしい。 そのあかしに、上下、前、奥、口の中には一本の歯も残っていなかった。  詳しく在宅時代の話を聞いたことはなかったけれど、ずっと暮らしを支えてきたおかあさんが介護できなくなり、施設での暮らしを選ばざるを得なかった。  Mさんは話せなかったので、「し

    • まっすぐに

       初めて彼女がわが家を訪れたとき、これまであまり経験したことのない感情に、ぼくの気持ちは紅潮してしまった。 ほかのスタッフさんといっしょに枕もとのカーテンをわけて入ってくると、とりたてて特別なアクションもなく、ベットのそばに立ち「はじめまして。Aといいます。よろしくお願いします」と頭をさげた。 低音でもしっかりした口調だった。  これだけ書くと、まったく平凡な介護の人に違いない。 ところが、ベットの上のぼくの体はよじれるほど硬直していた。  ほんとうは人見知りなのに、自力

      • 社会

        もっとゆるしあいながら じっくりみみをすましながら えらそうにならないで ことばはとがらせず てあしをよくのばし ささくれはていねいにといでから そっとてわたす いつからにじとであっていないだろう そばにいてくれるだけでおちつくと いってもらえるひとになりたかった たったひとりだけにでも

        • 春を待つ手紙

           政治に携わる人の演説を聴いて、投票したい気持ちに駆られたことがあまりない。 思想をこえて、大勢を前にした話に「人柄のよさ」を感じたこともあまりない。 ほかの陣営よりも一票でも多く積み重ねたいわけで、どうしても断言が目立ってしまう。  自分だけが正しいように言いきられると、ヘソをまげたくなるのはぼくだけだろうか。  たいがいは明言すれば主張が理解されやすいし、強いリーダーシップに委ねるほうが個人の責任を負わなくてもすむから、ためらわずにソッポを向くこともできる。また、深く考

        マガジン

        • 車いすからベッドへの旅
          152本
        • 木蓮の花開くころ
          44本
        • 食べることは生きること
          49本
        • 障害者の戦争体験
          1本
        • 8本
        • ザ、ハクション(空想の交差点)
          1本

        記事

          自分

           昨夜、とっくに結果はわかっていても、まだ観ていなかったお正月の大学ラグビーのビデオを眠りの友にすることにして、泊まりのサポーターさんにセッティングしてもらった。  普段の眠りの友はBOSEから流れる唄だけれど、土曜日のサポーターさんは「このスピーカーには合わない曲ばかりですねぇ」などとツッコミを入れてくるので、いつもは笑っていなせても、昨日は面倒くさい気分だった。  オシッコが行きたくなって目が覚めて、時計を見たら四時十五分だった。 大接戦になるはずの試合の後半を楽しむこ

          予告

           ぼくの初チャレンジの「長編になってしまった小説『恋人つなぎ』」ですが、投稿予定の一月中旬から大幅に遅れて、前回の投稿「時間の奥行き」で告知していた「一月中」も困難になってしまいました。  遅れる理由については、「時間の奥行き」で記しているので省略します。  つくづく、ぼくはへそ曲がりのようです。 五年~十年前に、まわりの人たちに断言しつづけていたことがありました。 「ぼくの好きなミュージシャンの人たちの多くはメディアに取り上げられることが少ないけれど、マイナーが好きなわけ

          時間の奥行き

           何日ぶりだろうか。 毎日のように投稿をつづけていたのに、サポーター(ヘルパー)さんに入力してもらいながらの口頭での文章づくりは、ほんとうに久しぶりになる。  書くことをやめていたわけではない。 自分で入力できるようにワンキースイッチを購入して、この年末までサポーターさんと取り組んできた初チャレンジの長編小説がフリーハンドで書き進めているためにどんどん膨れあがって、なんとか今月中には終止符を打つべく、完全にそちらへシフトしてしまったからだ。  ワンキースイッチのための周辺

          アルコール物語

           ブーが残念がって、ぼくのアタマをポンと叩いた。 「せっかく、ぼくはやっさんがいちばんになると信じて、一票入れたんやがな。何してるんやぁ、ホンマに」 思わずブーがぼやいたのは、共通の友だちの披露宴の余興のときだった。  らせん状になったストローを使ってのビールの早や飲み競争で、トップになった出場者と投票した人に商品が出ることになっていた。  そのころ、披露宴の主人公の彼とブーは、同じ養護学校で働いていて、一方、ぼくは卒業生としていろいろな集まりの送迎をしてもらっていた。  こ

          アルコール物語

          しかたがない

           なんとネガティブなタイトルだろう。 我ながら、書き進めたくなくなりそうになった。 おたがいに、マイノリティーの背景があって、中身は異なっていても通じあっていたサポーター(ヘルパー)が、年内で大阪を離れていく。  家庭の事情だから、しかたがない。  いつか書いたように、そばで入力している人の雰囲気によって、モチベーションが上がったり、やる気を削がれてしまったり、その存在は意外と大きい。  いろいろとツッコミを入れながら、ときどき息が止まりそうになる意見をはさむ彼は、not

          約束

           晩春の夕闇の中で、風と光の濃淡を織りまぜながら、枝いっぱいに薄紫の花房をわさわさと揺らせて、いつもぼくを待っていた。  姉妹のように寄り添っていた二本の桐の木は、一方の幹が朽ちはじめて倒れる危うさが懸念されて、五年ほど前だっただろうか、一本きりになってしまった。  それでも、彼女が呼吸しつづけてきた川沿いの生活道路には、そのおおらかで繊細な容姿を楽しめるように、水筒形のオブジェがいすの役割を果たすために配置されてあって、ぼくの電動車いすでも脚元まで近づくことができた。  ひ

          事情

           昨日、ぼくは何も書かなかった。 いや、何も書けなかった。  いつもならタブレットの画面を眺めているうちに、なんとなくとっかかりが見つかって、その日の出来事やなつかしい思い出をたぐり寄せていくうちに、いつのまにか二千字近くになることが多い。  ありふれた一日だった。気が合うわけでもなく、そうかといって苦手でもないサポーター(ヘルパー)さんとお昼前から夕方までを過ごした。 リハビリのために、動かなくなった車いす(充電できない)に乗って、二時間ぐらいぼんやりと唄を聴くつもりだっ

          ことば

           最高の一日だった。  自分を確かめられた一日だった。  考えさせられる一日でもあった。  人間関係での貸し借りはないのに、わが家に出入りするサポーター(ヘルパー)の中でも、いちばん仕事感を持たずに過ごしてくれるKくんが午後から夕方までのシフトだった。  相変わらずだった。 なにかの会話が途切れたと思ったら、わずかな前ぶれもなく彼が切りだした。 「ぼくねぇ、菓子パンと惣菜パンを食べるとしたら、菓子パンから惣菜パンの順番にしたいんですよ」 「また来た」と思って、吹きだしそう

          影と陰

           天井を正面に置いて、仰向きになっていた。 夕食のあとにうたた寝をしていて、「いま」へ意識が戻ったばかりだった。  おそらく天井は合板で、人工的につくられた木目がくっきりと描かれてある。  頭の中はカラッポだった。    ぼくは子どものころから、ずっと斜視とつき合ってきた。 焦点を集中させることができないから、なんとなく左右のものが視野に入ってしまう。  空白の横たわっていた意識が、不意に飛び跳ねるように動いた。 一瞬というよりも、すこし間があって体が反応した。  全身がこ

          つらつらと

           タイトルが画面に打ち出されて、「センスがないなあ」と苦笑いしてしまった。  自分だったら、このタイトルで読んでみたくはならないだろう。 でも、最近出逢った小さなこと、大きなことを「つらつら」と書きならべてみる。  昨日、スーパーで買ったワンコインのにぎり寿司セットを食べ終わって、ついに恐れていた事件が起こってしまった。  サポーター(ヘルパー)のSくんが、部屋の灯りに鈍く光ったプラスチックのパックを片づけようとして立ち上がった。 「なあ、今日はガリが入ってへんかったんかぁ

          間(ま)

           ぼくの中で親友と呼べる三人のうちのひとり「中村ブー」が、妙にしみじみと言ったことがある。 「オレなぁ、パチンコとウマと麻雀、みんな好きなんやけどな、あえて順番をつけるとな、麻雀が一番で、ウマが二番で、パチンコが三番目なんや」  深い理由は訊かなかった。 「やっさんも、麻雀を覚えようなぁ。あれは運と実力が半々ぐらいやさかい、めちゃくちゃオモロイと思うでぇ」  世の中に三人しかいない親友の一人のブーの誘いとはいえ、どうしても乗り気にはなれなかった。  「テレビで麻雀してる場面を

          商店街のジングルベル

           この間、久しぶりに生麩まんじゅうを買いに橋を渡った。 以前はゴールデンウィークから九月までの期間限定だったけれど、人気があるらしくて、いまはいつ行ってもお目にかかれるようになった。 たまに売り切れていると、揚げまんじゅうのお世話になることもある。  このお店の特筆すべきところは、いい意味で味と値段が釣り合っていない点にある。 生地に玉露か何かを混ぜているのだろうか、そのほろ苦さに口もとが緩む。  それでいて、なんと一個「百円」なのだ。 最近、甚だしく時系列に自信が持てなくな

          商店街のジングルベル