しかたがない
なんとネガティブなタイトルだろう。
我ながら、書き進めたくなくなりそうになった。
おたがいに、マイノリティーの背景があって、中身は異なっていても通じあっていたサポーター(ヘルパー)が、年内で大阪を離れていく。
家庭の事情だから、しかたがない。
いつか書いたように、そばで入力している人の雰囲気によって、モチベーションが上がったり、やる気を削がれてしまったり、その存在は意外と大きい。
いろいろとツッコミを入れながら、ときどき息が止まりそうになる意見をはさむ彼は、noteへの投稿にとって貴重な存在だった。
もっと想いを書き連ねたいところでも、社会観や生きにくさについてはほとんどわが家でしか語ろうとしなかった彼だけに、ここで紹介するのも気が引けてしまう。
ただ、ひと言だけ書き残せるとすれば、いつもこのフレーズで耳にタコができそうだった。
「スタッフさんとか、家族さんとか、そんな人に気に入られるよりも、障害者の一人ひとりに心をゆるしてもらえたらそれでいいんです」
彼といっしょに書き進めていた小説もまだ道半ばで、予定ではほかのサポーターに引き継ぐつもりだった。
だけど、予想以上に痛手は強力で、電子書籍を使った読書と短文のメールやラインに活用するはずだったワンキースイッチで、効率悪くチビチビとミミズが這うごとく、登りつめることになりそうだ。
ひとつのキーで文章をつくっていくのだから、ほんとうに手間がかかる。
気づかないうちに、小説を書くときにかぎっては、彼がそばにいなければモチベーションが保てなくなってしまっていた。
しかたがない。
効率の悪さだけではなく、ワンキーを使うにあたっては予定外の支障が出現した。
ハブを使って充電と併用しても、消費量の違いでどんどんバッテリーが減っていって、連続三時間前後でストップしてしまう。
結局、ぼくの入力をこなす速さでは、一回に三百字ほどしか進まない。
低音で濁った声質のぼくは、音声認識には向いていないようだ。
硬直と視力があまり良くないから、視線入力もなかなかハードルが高い。
結局、コツコツとゴールをめざすよりないのかもしれない。
おまけに、短期記憶障害が深刻で、おとといぐらいまでのメニューはなんとなく思い出せても、いま、話していた内容が抜けていく。
これまた、しかたがない。
こまかい意思疎通の難しいサポーターが多くなって、苛立つというほどでもなく、ざわつく場面が増えた。
今日も、効率悪く汗だくで小説に試行錯誤していると、すぐそばで洗濯物の乾き具合を確かめたり、視野に入らないところで沈黙されるとよけい気になるのに、その辺が通じあえなくて、だいぶ面倒くさかった。
でも、オシッコはひとりではできない。ノドが渇いても、ぼくだけではガマンするしか道がない。
またまた、しかたがない。
それでも、泊まりのサポーターが来る二時間ぐらい前に帰ってもらって、ひとりでワンキーと格闘していた。
ここのところ、冒頭に登場した彼だけではなく、ぼくの日常に大切なアクセントをつけてくれていた一人ひとりが、雪崩を起こすように離れていった。
あるひと文字を入力すると、予測変換でそのひとりの名前が画面の中央に現れる。
そのたびに、やるせなくなる。
ほんとうに、しかたがない。
夕方、涙をためながら、カーソルの示す文字を追いかけていた。