「うつは『繊細すぎる人』がなる」のか?
① 「うつって、要するに『繊細すぎる人』がなるんでしょう?」という質問
「うつって、要するに『繊細すぎる人』がなるんでしょう?」と真顔で聞かれることがある。時には善意に満ちた笑顔で。この質問には、ちと答えに困る。
なぜならこのような質問してきた人は、実は予め答えを自分で決めているからである。「繊細すぎる人」とは、どういう人なのか考えてみよう。その人にとっては「繊細すぎる人」とは「ちょっと『変わった人』」である。まあ「変な人」とまでは言わないが。
では「変わった人」の反対語は何か。もちろん「普通の人」である。では本人はどちらのつもりなのか。もちろん「自分は『普通の人』」のつもりである。何事もよろず自分が判断基準の中心なのだ。
② 無意識の先入観
多分ご当人の頭の中は、図のような世界観になっているのだろう。
これは所謂「正規分布曲線」のつもりだ。フリーハンドで書いたから、正確なものでは無い事はご容赦戴きたい。
つまり「うつって、要するに『繊細すぎる人』がなるんでしょう?」という質問の背後には、既に自分で決めた答えが潜んでいる。「うつとは『変わった人』がなる病気であり、『普通の人』である自分には関係ないことだ」という先入観である。
③ 何でうつになるのか
だが、うつとはそういう病ではない。
詳しくは本編ウェブサイトで書いたことだが(末尾【注】参照)、うつは誰でもなる(かもしれない)病気だ。本人が内心で抱いていた何らかの価値観や価値。それが当人の周囲の環境と衝突して矛盾を生じ、挫折若しくは喪失することによって、うつ病は発症する。
だが「内心で抱いている何らかの価値観や価値」などは、人によって千差万別だ。またそれを全て意識的に自覚できている個人など、いやしない。どんな個人にも、無意識下には自己認識できていない盲点や死角が必ずある。そこを衝いてうつ病は発症する。
その「価値観や価値」が周囲の環境といつどんな矛盾を生じるのか。それは船の航路上の暗礁と似ている。
同じ大きさ、同じ喫水、同じ速力の船舶であっても、暗礁が有っても満潮なら座礁せずに気がつかないままに通過してしまう。逆に干潮なら座礁してしまう。
人生も同じだ。全てが順風満帆で恵まれた環境なら、どんな性格と価値観の持ち主だろうと挫折など体験しないかもしれない。逆に言えば、たとえそっくり似たような性格と価値観の持ち主であろうとも、その人生行路と環境次第では、うつになるかもしれないし、ならないのかもしれない。
いや「全てが順風満帆な人生」なんて「空しく満たされない」と感じて、うつになる人もいるのかもしれないのだ。
つまり、うつの原因はその人の性格が繊細すぎるのかどうかなんかではない。あなたの意識していなかった盲点が、顕在化したか、しなかったかの違いだけなのだ。そしてその盲点が顕在化するのかどうかは、あなたのこれまでの人生行路での偶然でしかない。
④ 誰がうつになっているのか
では、うつが「誰でもなる可能性のある病気」だとすると、いったいどれくらいの人がうつになっているのだろうか。
ちょっと古い数字だが、厚生労働省のサイトによると「日本の気分障害患者数は(略)2008年には104.1万人」だそうだ(https://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/detail_depressive.html)。なんと常時百万人以上の人がうつになっているのである。
ではうつ病の体験者数って、どのくらいなのだろうか。同じく厚生労働省のサイトによると「これまでにうつ病を経験した人は約15人に1人」だそうである。日本の人口が一億二千万人なら、その15分の一は800万人である(https://www.mhlw.go.jp/shingi/2004/01/s0126-5b2.html)。
ここでちょっと、ご自分の家族親族、知人友人、同期同級生の顔を思い浮かべていただきたい。
そこで十五人のお顔がうかんだのなら、その中に一人は必ずうつ病の体験者がいるということなのだ。では貴方の毎年の年賀状の宛先や、SNSで「繋がって」いる「友達」さんたちや「メル友」さんなどはどうだろうか。もしそれが150人いらっしゃるとすれば、その中には必ず10人のうつ病体験者がいる筈なのである。
自分がうつになったと知らせてくれる人ばかりではないだろうから、うつ病体験者全員のお顔が浮かぶわけではないだろう。だが、知らせてくれた人のお顔だけでも思い浮かべていただきたい。皆さん「繊細すぎる」からうつになっているのだろうか。どうだろうか。
⑤ 先入観を捨てて貰うためには
実はこれが「うつって、要するに『繊細すぎる人』がなるんでしょう?」という質問に対する答えなのだ。
予め自分で答えを決めているような人、つまり予め先入観から結論を決めている人に対しては、「あなたはの思い込みは間違っている」などと理屈で論破しようとしても無駄である。なぜなら当人は自分が先入観に囚われているという自覚すらないからだ。
だからそういう人には、自分の先入観と事実との食い違いを自分で自覚してもらうしかない。そこで問いかける訳だ。「あなたの周囲にうつ病の人はいませんか?その人たちの顔を思い浮かべてみて下さい。その人は『繊細すぎる』のでしょうか?」と。
その中には、もしかしたら本当に繊細な人もいるのかもしれないし、そうでない人もいるのかもしれない。となると繊細かどうかは、うつとは直接関係ないのかもしれない。
こう思い当たったような表情になって初めて、その人は先入観抜きでうつ病について考え始めることができるのだ。
【注】
この辺の内容については本編ウェブサイトで詳しく書いてあるので、あわせてご覧戴けると有り難い。
●うつの「名医」は人それぞれ(うつは千差万別、ひとそれぞれ)
●うつの「予防」はできるのか(まとめ:うつは誰でもなる病気か?)
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