ウスバカゲソウ

一歩進んで moonwalk 月旅行

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最近の記事

禍話リライト「青い胸像」【怪談手帖】

Bさんが学生時代に見たものの話。 夏の盛り、叔父の経営する養鶏場へ手伝いに行くこととなり、(この暑い中で…養鶏場……)とボヤキつつ、父の運転する軽トラで向かっていた。 容赦のない陽光を降らせる空は腹立たしいほど青く澄み、入道雲がその中央を占領して、下半分には深い森と山々の緑がずっと続いている。 窓を開け、燦々たる日差しに目を細めながら、そんな夏の画を眺めていた彼は、やがてふと気が付いた。 景色の一角に奇妙な物がある。 緑の帯の上、キャンバスの端に近い場所。 それは胸から上の

    • 禍話リライト「こわいでしょう」

      体験者であるAさんが、学生時代に廃墟で体験した話。 その廃墟は、廃校になった学校の校舎だという。 山間に立つその学校では、大きな事故や災害で死者が多数出たというような話はない。 ただ、一人亡くなった人がいて、その死に方がひどく悲惨だったという曰くが曖昧に語られていた。 そして、その廃墟にはある噂があった。 ”とにかく恐ろしいことが起こる” 何が起こるか分からないという、こちらも輪郭がぼやけた噂である。 血まみれの幽霊が追いかけてくる云々という凡庸な怪異が出現するパターン

      • 禍話リライト「とんぼ玉」【怪談手帖】

        数十年前の夏の夜のこと。 当時小学生だったDさん達は、友達同士で連れ立って近所の墓地で「人魂狩り」を行ったのだという。 墓地といっても家のご先祖様が入るようなものではなく、所謂無縁仏を弔ったような所だった。 そこに、夜ごと人魂の群れが色とりどりの火で迷い出る。 いつのまにか、そんな噂が立つようになっていた。 たまたま近くを通って肝を冷やしたという酒屋のおやじの話を盗み聞くや、Dさんを含めた悪童達は次の日の晩には作戦を決行した。 家を抜け出した彼らは、手に手に虫取り網を持ち、

        • 禍話リライト「猫仙人」【怪談手帖】

          つい先ごろまで、高齢者の見守りや支援の仕事に携わっていたというBさんは、いろいろと奇妙な体験をしている。 その中でもとりわけ特異で、できれば思い出したくない一件があるという。 近隣の住民からの相談で、とある男性の一人住まいが俎上に載せられた。 「俗にいう『猫屋敷』ですね、ご本人も軽度の認知症を患っていて、管理できているとは言えない状況だったようです」 少なく見積もっても、30匹程度の猫が出入りしているとのことで、鳴き声や糞尿への苦情が上がっていた。 「高齢化社会の流れ

          禍話リライト「ボウコ」【怪談手帖】

          20代のAさんが、社会人になってから何年かぶりで実家に帰省した時の話。 「仕事でいろいろあって…ちょっとだけ逃げたくなったんです……」 両親との会話もほどほどに、シャワーだけを済ませ自分の部屋のベッドへと倒れこんだ。 ずっと拭えない全身の倦怠感と、頭に纏わりつくモヤモヤとした感覚。 「体力には自信あったんですけどね、ずっと運動部だったし」 社会で必要なのは、体力だけではなかった。 同僚や上司とのちょっとした衝突や行き違いの会話が、いつまでも頭の中をぐるぐると巡る。

          禍話リライト「ボウコ」【怪談手帖】

          禍話リライト「川案山子」【怪談手帖】

          諸事情で実家との縁を切って久しいというDさんは、ほんの数年前までひどく捨て鉢な生活をしていた。 そんな時代の彼が、安さだけが取り柄のような、とある川沿いの集合住宅に住んでいた頃のことだ。 深夜に起きた仲間内の厄介事からようやくの思いで抜け出した彼は、隣の区から歩きとおして夜明け前に家へ帰ってきた。 心身ともに擦り切れて、道路横の欄干に肘を掛ける。 帰宅前に一息つきながら、彼はその川を眺めていた。 普段ろくに見やることのない、名前も憶えていないような川だった。 なにかそれなり

          禍話リライト「川案山子」【怪談手帖】

          禍話リライト「朧猿(おぼろざる)」【怪談手帖】

          「少年自然の家」ではなかったはずだという。 当時Eさんの所属していた子ども会では、前年度まで合宿で使用していた施設が老朽化による建て直しのため借りられなくなったため、その年からの新たな宿泊先を検討していた。 その時に、会員の一人が人伝に探してきてくれたのが、”K”という施設だった。 あまり新しくはないものの、去年までの場所に比べると非常に安価で利用できる、という点が決め手だったそうだ。 「その時点でちょっと怪しいでしょ?今ならもう少しちゃんと調べると思うんだけど…私たちの

          禍話リライト「朧猿(おぼろざる)」【怪談手帖】

          禍話リライト「犬古(いぬひね)」【怪談手帖】

          Bさんという男性の方から頂いた体験談である。 彼は10代のころ、家族や教師と折り合いが悪く、事あるごとに学校をサボったり家を飛び出したりしていた。 そんな時によく逃げ込んでいたのが、隣町の低い山の中ほどにある、父方の親戚の家だったのだという。 「〇〇(地名)の叔父さん、叔母さん」と呼んではいたが、父の兄弟という訳ではなく、どちらかといえば祖父母に歳の近い遠縁の老夫婦だった。 彼らは所謂”本家”とはあまり関係が良くなかったようで、親戚の集まりなどにも顔を出すことなく、隠遁じみ

          禍話リライト「犬古(いぬひね)」【怪談手帖】

          禍話リライト「梟の部屋」

          それは、インターネット黎明期に噂された、ある動画の名前だという。 90年代末ごろ、「梟(フクロウ)の部屋」という動画がヤバいらしい、との噂が一部のネット掲示板で囁かれていた。 しかし、たびたび貼られるリンクはブラクラや違法サイトに繋がる悪戯ばかりで、実際どのような動画なのか詳細は不明のまま、噂だけが一人歩きしていた。 ただ一点、中年の女性が出てくるらしい、ということだけは知られていた。 それは、どこにでもいそうな、例えば近所のスーパーや公園で見かけるような、普遍的でありふれ

          禍話リライト「梟の部屋」

          禍話リライト「大首の家」【怪談手帖】

          「今でもまだ怖いんだよ、ずっと。考える度にドツボに嵌る気がして…本当は考えない方がいいんだろうけど……」 話者であるAさんは、今の職業や年齢については明示しないで欲しいと言ってこの話を切り出した。 彼が大学生の頃、曰くつきの家で目撃してしまったモノの話。 それは地元では有名な、とある事件の舞台となった一戸建てだった。 報道ではぼかされていたものの、被害者である女性が異様な状態で見つかったというのが半ば公然となっており、それでいてどういう状態だったのかについてはてんでばらば

          禍話リライト「大首の家」【怪談手帖】

          禍話リライト「箒神」【怪談手帖】

          「長っ尻って言うんでしたっけ?ほら、なかなか帰らないお客さんのこと」 Aさんは、彼女曰く”空想のタバコ”を挟み込んだ痩せた指先で、トントンと絶え間なく机を叩きながら言った。 「そういう迷惑なお客をさ、箒で追い払う御呪いってあるでしょ?」 「”逆さ箒”、ですね」 箒を逆さまに襖や壁に立てかけて、手拭いを掛けるなどして長居する客の退散を願う。 古い俗信のなかでは、豆知識の類として知っている人も少なくないだろう。 彼女は僕の言葉に頷きながら、トトン、と指先のリズムを狂わせて

          禍話リライト「箒神」【怪談手帖】

          禍話リライト「ヤンボシ」【怪談手帖】

          某登山口でふた昔ほど前に噂されていたという話。 宵の口、山の傍から降りてくる人影として、山伏のようなものが現れることがあったという。 本物の山伏、所謂修験者というわけではない。 それは、下ってくる人影の姿かたちを見れば分かる。 装いこそ、一般的に連想される伝統的な修験者の様子なのだが、その顔を見ただけで宗教に詳しくない登山者や若い人にもそれが異様な存在であることが分かるという。 輪郭の内側の真っ黒な顔の形にヌラヌラと煌めく幾つもの光点と、棚引く雲のような紋様が蠢き、渦巻い

          禍話リライト「ヤンボシ」【怪談手帖】

          禍話リライト「古いテレビ」【怪談手帖〈未満〉】

          「私はそのころ、今もそうかも知れませんが、とにかく物知らずで愚鈍な子でした……」 現在イラスト関係の仕事をされているAさんの幼少期の記憶は、彼女が云うには「灰色の記憶」であるという。 物心もつかぬうちに病気で母親を亡くし、父子家庭で過ごしたAさんだったが、小学校に入ってほどなく父親も事故でこの世を去った。 その後は親戚の家に引き取られ、そこからようやく彼女の日々は人並みの色づきかたをするようになった。 「それまではそうじゃなかったんです。母のことはほとんど憶えていなくて。

          禍話リライト「古いテレビ」【怪談手帖〈未満〉】

          禍話リライト「こおろぎ」【怪談手帖〈未満〉】

          ある日の夕方、Iさんは運動がてら家の近所からもう少し足を延ばして目的地もなく散歩していた。 涼しくなった風に秋の訪れを感じつつ、足元ばかりを見てあれこれと考え事をしていたせいだろうか。 ふと気が付くと、大通りから離れて普段通らない道に入り込んでいた。 人通りは無い。隣町に近い、住宅と空地の点在する一画である。 日も暮れつつある中、秋らしい虫の声だけが聴こえてきて、物寂しさを掻き立てられる。 (そろそろ戻ろうか…) 踵を返しかけたところで、微かな違和感を覚えた。 (なんだ

          禍話リライト「こおろぎ」【怪談手帖〈未満〉】

          禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】

          Cさんの旅先での体験。 シャッター通りと化した商店街を散策していると、土産物屋が一件だけ開いていた。 通り過ぎる時、子どもの泣き声がしてきたので思わず店の中を覗くと、入ってすぐのところに小学生くらいの男の子がいて、半泣きの顔で店の壁を見上げて 「お父さん…お父さん…」 と繰り返している。 父親らしき人は見当たらない。 迷子かな、と思いつつその子の視線を追う。 ペナントやキーホルダーが並ぶなか、妙に浮いたデザインの人形があった。 スーツ姿の男性を模した小さな人形だった。 そ

          禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】

          禍話リライト「とおりゃんせ降ろし」

          禍話リスナーであるAさんの体験談。 小学生のころ、誰から聞いたのか憶えていないが 神社に向かって「とおりゃんせ、とおりゃんせ」と歌うとお化けが”降りてくる” そんな噂が流れたことがあった。 興味を持ったAさんは試してみることにした。 下校途中にある、なんの変哲もない神社。 Aさんはそこの社に向かって「とおりゃんせ、とおりゃんせ」と歌い始めた。 すると、確かに何かが近づいてきている感覚がある。 (来る!来る!) すぐそこまで気配が迫ると慌てて逃げだした。 お化けの姿

          禍話リライト「とおりゃんせ降ろし」