禍話リライト「土産」【怪談手帖〈未満〉】
Cさんの旅先での体験。
シャッター通りと化した商店街を散策していると、土産物屋が一件だけ開いていた。
通り過ぎる時、子どもの泣き声がしてきたので思わず店の中を覗くと、入ってすぐのところに小学生くらいの男の子がいて、半泣きの顔で店の壁を見上げて
「お父さん…お父さん…」
と繰り返している。
父親らしき人は見当たらない。
迷子かな、と思いつつその子の視線を追う。
ペナントやキーホルダーが並ぶなか、妙に浮いたデザインの人形があった。
スーツ姿の男性を模した小さな人形だった。
それが、風もないのに長い手足をブラブラ、カクカクと蠢かせている。
奇怪な光景にギョッとしたCさんは、同時に店の奥、カウンターの向こうから店員が覗いていることに気が付いた。
暖簾の下、電気を消しているのだろうか、真っ暗闇の中にポツンと、やけに歯を見せた笑みを浮かべてこちらを向いている。
数秒それを凝視し、やがて違和感の正体に気が付いた。
その笑顔は不自然なほどにぴたりと制止している。
まるでビデオを一時停止したようだった。
「お父さん…お父さん…お父さん…お父さん…」
その間もずっと、手前で泣き顔の子供が繰り返している。
その動作も、なんだかそういう映像をループ再生しているように感じられてきて、訳もわからなくなった彼はその場を逃げ出した。
後で調べてみたところ、該当するところの土産物屋は、少なくとも10年前には店を畳んでいた。
加えて、その観光地で父と子の2人が行方不明になった事件があったそうだが、数十年も前のことで、何か関係があるのかどうかはわからないままだそうだ。
この記事は、毎週土曜日夜11時放送の猟奇ユニットFEAR飯による禍々しい話を語るツイキャス「禍話」から書き起こし・編集したものです。
禍話アンリミテッド 第二十夜(2023/06/03)
「土産」は45:45ごろからになります。
『怪談手帖』について
禍話語り手であるかあなっき氏の学生時代の後輩の余寒さんが、古今東西の妖怪(のようなもの)に関する体験談を蒐集し書き綴っている、その結晶が『怪談手帖』になります。
過去作品は、BOOTHにて販売されている『余寒の怪談帖』(DL版はいつでも購入可能)を参照していただけると幸いです。
珠玉の怪談がこれでもかと収録されていますので、ご興味のある方はぜひ。
※「土産」については、まだ書籍には収録されていません。
参考サイト
禍話 簡易まとめWiki 様
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