今まで歴史の闇に埋められてきた広島の軍港・宇品に置かれた陸軍船舶司令部についてのノンフィクション。著者の綿密な取材力に脱帽する第一級の優れた作品。
太平洋戦争はいわば広大な太平洋から南アジアまでを戦域とする「補給の戦争」であるにもかかわらず、日本の参謀本部は輸送や兵站を(情報同様)軽視し続ける。それが敗北の大きな要因の1つになっていくことが、陸軍船舶司令部の歴史と3人の人物を通じて良く理解出来る内容になっている。
また原爆投下後の船舶司令部の活躍も描かれている。筆者はなぜ広島に原爆投下されたかについても言及している。
海軍で海上護衛総司令部参謀を務めた大井篤の護衛戦の貴重な体験記である「海上護衛戦」でも、太平洋戦争の敗因の大きな要因は船舶の喪失と激減であったことを明らかにされている。併せて読むと日本軍の輸送や兵站の大戦中における無為無策の理解が深まる。
また国家安全保障局次長を務めた兼原信克が日本の安全保障政策体制について包括的に解説した「安全保障戦略」にも、大戦中の輸送隊と兵站についての無為無策と、その問題が現在もまだ解決されていないことをエネルギー安全保障に絡めて記載している。
「暁の宇品」では日本の輸送や兵站の中核を成すと言える船舶・商船隊の重要性が資料と聴き取りを駆使して絶妙な筆致で描かれたが、それを守るための建設的な戦略を構築することは、現在においても未だ大きな課題であると言える。
(2022年8月15日)