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【読書ノート】77『データが語る日本財政の未来 』明石順平

著者はブラック企業被害対策を行っている弁護士。経済の専門家でないにも関わらず日本財政に精通していて、今まで何冊も本を出版している。(「アベノミクスによろしく」が有名)。
衆議院選での「消費税廃止論」の話を聞いて、日本財政についてもっと理解を深めようと考えて読んでみた。バブル崩壊後に日本が低迷し続けた理由など、日本財政の問題点などが網羅されていて理解が深まった。アベノミクスの問題点(公的資金を使って無理やり株価や不動産価格をつり上げる)や戦前の高橋是清の高橋財政についても説明されている。対談形式で読みやすく、日本財政の入門書としてお薦め。

<目次>
第1章:国債とは何か
第2章:財政赤字が増えた理由
第3章:税収の国際比較
第4章:アベノミクスの大失敗
第5章:アベノミクスの失敗をごまかす「ソノタノミクス」
第6章:日本は資産があるから大丈夫?
第7章:巨額の日銀当座預金がもたらすもの
第8章:歴史は繰り返す~高橋財政~
第9章:今、そこにある未来
 


以下、気になった個所を抜粋・要約

こうやって税率だけ見ていると非常に高く見える法人税。 だけれども、日本の法人税は大企業に極めて有利になっていて、不公平な状態になっている。資本金が5億円以下の企業までは徐々に負担が上がっていくけども、それ以降になるとどんどん下がっていって100億円超になると12%ほどしか負担していない。

代表的な理由をあげるとすると受け取り配当金が課税対象に入らないことになっていることが大きい。大企業は子会社をたくさん持っているけれども、そこからも株の配当金には課税されないということだ。だから法人税の負担が軽くなる。具体的に言うと株式について1/3超の発行額を保有している会社から得る配当金については課税の対象外となる。
そして、海外の子会社からの株の配当金の受け取りについては95%が課税の対象にならない。その海外子会社のある国の法人税が日本より安ければボロ儲けになる。現地国には日本より安い法人税を払い、その会社から得る配当には日本において5%しか課税の対象にならないという結果になるから。海外にたくさんの子会社を持っている大企業にとって極めて有利な制度。
あと、「繰越欠損金」という仕組みが認められている ことも大きい。これは赤字分を4期以降に繰り越せる制度のこと。例えばある年に10億の赤字を出し、翌年の10億の黒字を出したとしよう。この場合、重要な赤字を繰り越して翌年の10億円の黒字を帳消しにして、法人税をゼロにできる。リーマンショックが起きた時は多くの企業が赤字になり、その後何年間かはずっと法人税を納税してしない状態が続いた。結果として大きな企業ほど、実際の法人税負担が低くなっているのは不公平だと言える。(119~122ページ)

こうやって優遇してきたのも影響して、企業の内部留保は順調に増え続けている。・・・これをもっと税金に回していれば、こんなに財政が気になることもなかっただろうし、給料に回っていれば労働者の賃金がこんなに低い状況になっていなかっただろう。(123~ 124ページ)

付加価値税というのは要するに消費税のこと。 日本は30位でOECD平均よりも低い。EUなんかは加盟国に対して付加価値税の標準税率の15%以上にする指令を出している。・・・標準税率はほとんどの加盟国が20%を超えている。 しかし、デンマーク以外は軽減税率が設定されている。基本的に高い税率だが生活必需品等の税率を軽くすることで生活が苦しくならないように注意している。(24~125ページ)

所得税や法人税は、簡単に言えば収入から仕入れ値や経費と除いて得た「儲け」の部分に課税される。だから、儲けが減れば課税額が減るし、儲けのない「赤字」の状態になってしまえば課税すらされない。従って景気悪化して儲けが減り、赤字の企業が増えれば、当然税収が減る。
ところが消費税はそうではない。消費税は高齢者が含めた全世代から広く取ることはできる。現役世代中心取らざる得ない所得税とはそこが違う。また、所得税や法人税は、外国へ資産を移す等して課税逃れををされるけれど、消費税はそういった恐れはない。だから、諸外国で軒並み高い税率が採用されている。
収入の低い人ほど収入に占める消費の割合が高くなり、収入に対して消費税の負担も高くなる。これを逆進性という。所得税のように、収入の高い人ほどより多くの税金を払う仕組みにした方が公平なのは間違いない。 消費税その逆だから不公平。諸外国もそれをわかっていて導入している。ただ、軽減税率で少しでも負担を軽くしたり、社会保障を手厚くしたりすることでバランスを取っている。だから国民も受け入れている。(126~128ページ)

消費税率が上がるとその分が価格に上乗せされるので、当然物価上昇していく。しかし、他の国の場合は賃金も伸びているので、消費税率の上昇によるダメージを賃金上昇でカバーできる。しかし、日本はそうではない。賃金が全然上がらないのに物価だけ上がったのって生活が苦しくなった。
(129~130ページ)

みんな消費税が増税されてきたことは知っているだろうけれど、その他の法人税や所得税が散々減税されてきたことはあまり知られない。そうやって減税して経済成長狙ったけど、結果は全然ダメだった。
・・・法人税や所得税は諸外国の税制の隙間をつくような節税対策をされると、課税から逃れることができる。 そして、大きな会社やお金をたくさん持ってる人ほど、そういった節税対策に励んで納税額を小さくしてるという現状がある。所得税や法人税を思い切って増税すると、そういった課税逃れがより悪化して、かえって税収が減ると主張する人もいる。他方、消費税にはそういった心配がない。(131ページ)

4章 アベノミクス失敗

3) 2015年度の実質民間最終消費支出は、アベノミクス開始前(2012年度)を下回った。(消費がアベノミクス前より冷えた)。
4) 2015年度の実質GDPは2013年度を下回った。(3年もの成長率が1年分の成長率を下回った。)
5) 歴年実GDPにおいて同じ3年間で比較した場合、アベノミクスは民主党時代の約1/3しか実質GDPを伸ばすことができなかった。(149ページ)

8章 高橋財政

*金本性をやめて、その結果円安になった。
*公定歩合も引き下げて、お金が借りやすくした。(6.5%から3.29%)

円安にしたのはアベノミクスと共通。金利の方は、アベノミクスは名目金利を下げる余地がほとんどないから実質金利を下げようとしたけれど、高橋財政の場合はまだ名目金利を下げる余地があった。だから名目金利を下げた。実質と名目の違いはあるが、「金利を下げる」という点では共通している。
*さらに 高橋是清は日銀に国債を直接引き受けさせた。国債の発行額を飛躍的に増加した。高橋是清は開始前年度に比べると国債2倍以上発行している。 アベノミクスの場合は横ばい。
*政府がお金を使う政策のことを財政政策というが、アベノミクスがあまり積極的な財政政策をしていないのに比べ、高橋財政は思い切った財政政策をしている。こうやって政府が使ったお金は巡り巡って国民の懐に入る。 つまり、マネーストックが増えるということ。 そこがアベノミストと違う。
アベノミクスは国債を爆買いしてマネタリーベースを増やしたが、たいして貸し出しが増えなかった上、政府が積極的に財政政策を行ったわけでもないので、マネーストックの増加ベースは変わらなかった。

*高橋是清は日銀に直接引き受けさせていた国債の大半を後で民間金融機関に変え取らせていた。民間金融機関は国債の代金を支払うので、民間金融機関が持っている通貨は減る。つまり日銀が大量供給した通貨を売りオペによって回収して通貨の量が極端に増えすぎないようにしていた。これによってインフレを抑制していた。
*高橋是清もアベノミクスも両方とも日銀を使って借金をごまかすという点では共通している。こういう手法を1度使ってしまうと日銀への依存が止められなくなる。そのため、こういう手法はあくまでも一時的であり、いつまでもこれに頼っていたら最終的に通貨の信用が失われることになる。
*だからこそ高橋是清は経済がある程度回復したのを見て、今度は緊縮財政に転じようとした。 政府の使うお金を減らそうとした。そのうち日銀の直接引き受けもやめるつもりだったが、ところが軍務が猛烈に反対した。日中戦争が開始する前の時期で軍事費が必要だったからである。高橋是清は死を覚悟して軍と対峙し、軍事費を削ろうと主張したが 36年に殺されてしまった。

*誰も軍に逆らえなくなった結果、日銀直接引受は続き、国債発行額は増え続け、政府の歳出も拡大していった。こうすると当然通貨の信用は落ち物価は急上昇する。しかし、戦時中は39年に価格等統制令を執行するなどとして物価が無理やり抑え込まれていた。しかし、戦争が終わると無理やり抑え込むことができなくなり物価が急上昇。1945年と比べて物価が100倍ぐらいになっている。(通貨の供給のし過ぎのため)

*この極端なインフレは1949年2月からドッジラインと呼ばれる財政金融引き締め政策が行ったことにより収束に向かった。この政策を主導したのはジョセフ・ドッジ、流通するお金の量は減るので、日本をものすごい不況に襲われた。
*通貨の過剰供給によるインフレはある程度その場しのぎになるが、いつまでも通貨の価値が安定しない。通貨の供給を絞れば、インフレは止まるけど、今度はお金が全然足りなくなり、景気が悪化して失業者が増える。
*財政法第第4条が原則として国債発行を禁止した上、財政法第5条が日銀の直接引受を禁止した理由がこれである。日銀に直接引き受けさせて国債発行し放題になったことが、戦争の遂行を可能させてしまい、ついに通貨の信用を崩壊させたから。(241~248ページ)

借金に足を引っ張られるから少子化対策や教育科学、研究など未来への投資へのお金が回らなくなる。 文部科学省は「教育研究活動を支える常勤教員の人件費、特に若手研究者の常勤雇用が減少し大学院。進学者の現象など、優秀な人材の確保に支障が生じるとともに、研究時間の減少などの弊害が生じていることなどの看過しがたい状況が見られる」と言っている。これは日本の科学力の低下をもたらすだろう。(268ページ)

さらに、OECDが公表したデータによると、2014年のGDPに占める小学校から大学までに相当する教育機関への公的支出の割合について、日本は3.0%で、OECD では公表した36カ国中最低だった。OECD 平均は4.3%。公的支出が少ない分、家庭の負担が重くなる。(272ページ)

(2024年10月24日)

参照:https://diamond.jp/articles/-/109277




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