携帯小説『コンプレックス』
トイレの入り口に位置する手洗い場の鏡の前に立ち、歯を磨いていた。歯ブラシの毛先を歯の表面に当て優しく縦に横に小刻みに動かす。
ごめんね、とあまり話したことのない先輩が化粧をしにやってきたので身体を横にずらしてスペースを空けた。口は泡で塞がっているので会釈で返事をする。念入りに歯を磨く私を鏡越しに見た先輩と目が合った。
「歯並び綺麗でいいなあ」
生まれて初めて言われたその言葉に動揺した。
大人の歯に生え変わるときに曲がって生えてきた前歯にずっと苦しんできた。朝から夜までバイトし