
lululemonのマーケティングコピーを考える
今回の題材は、カナダ生まれのスポーツウェアブランドlululemonのマーケティングコピーです。ウェブサイトはこちら。lululemonはヨガウェアから始まって、いまではランニングやトレーニング用のスポーツウェアを幅広く展開しています。お値段お高めですが、シンプルで機能的な点が特徴的です。
コピーの確認
気になった日本語のコピーと、対応する英語のコピーは以下の通りです。
すべてのランに、おめでとう
Every run, a celebration.

意図を考える
この短いコピーには、どんな意図が隠されているのでしょうか。
上に挙げた画像を見ると、若者たちがさっそうとランニングをしています。誰もが笑顔を浮かべて、充実した表情を見せていますね。
また、画像の下には次のようなコピーがあります。
完璧主義にさようなら。機能性に優れたランニングウェアは、自分のペースで走り続けるあなたの味方。
Chase a new mindset, not perfection. Run at your own pace, powered by our exceptional training gear.
この訳もどうかと思う点はありますが、ポイントは1文目の「Chase a new mindset, not perfection」です。「mindset」は、自分の中に固定化されている、または習性になっている考え方や、物の見方を意味します。この文は、完璧じゃなくてもいいから新しい価値観を追いかけてほしいという意味になるはずです。つまり、ランナーとして速さや記録を追求せずに、自分らしく走ることに価値を見出していることが分かります。
原文の意図が見えてきたでしょうか。
走ることで心を軽くすること。lululemonのウェアなら、そのお手伝いができること。これが原文の意図だと思われます。
改善点
考える材料が出そろったところで、翻訳の改善点を探しましょう。
すべてのランに、おめでとう
Every run, a celebration.
直訳すぎて、わけが分からなくなっていますね。ガーデンサラダと称しつつ、泥付きのもぎたて野菜を食べさせられているような気分です。
原文通りに訳すことを重視したのかもしれませんが、「ランに、おめでとう」というのはさすがにやりすぎなのではないでしょうか。「celebration」の「お祝い」の意味から転じて、おめでとうとしたのかもしれません。しかし、日本語として意味をなさなくなってしまっています。原文の意図をつかんでいないどころか、ユーザーに不信感を与えることにもなりかねません。改善の余地が大いにありますね。
代案
上記を踏まえて、訳文がカラフルになるような代案を考えてみましょう。全角換算で13文字なので、これに近い文字数で代案を作ります。
走るたびに 心躍る
走りも心も軽快に
ランナーとしてスピードや記録にこだわらず、純粋に走ることを楽しみたい。速く走らなきゃ、ちゃんと走らなきゃという「perfection」から解放され、走ることを心から楽しめる状態は、まるで「celebration」のような状態です。既存訳と比べて、心が軽くなって走る足取りも軽やかになっている様子が想像できるのではないでしょうか。
終わりに
いかがでしたか?個人的には、1つめの代案の方が好みです。
翻訳作業には通常、翻訳者、レビュアー、翻訳マネージャー等の責任者が携わっています。また、マーケティングコピーなので、営業や販売部門の担当者も関わっていることでしょう。これほど多くの厳しいプロの目がありながら、既存訳のようなものが通ってしまうのが不思議ですね。もしかしたら、AI翻訳に頼っていたり、本国から渡されたコピーだったりしたのかもしれません。いずれにしても、プロとして品質に対するこだわりは犠牲にしてはいけないものです。
他の訳文を思い付いた方は、Xのリポストやリプライでぜひ披露してください。それではまた!