【新解さんの恋愛観?】『新明解国語辞典』の恋愛の解釈を第4・7・8版と比較してみた
11月19日に発売されたばかりの新明解国語辞典(以下・新明国、新解さん)の第8版を買ってきた。
「考える辞書」(前置き)
新明国というと、アクセントだったり、その言葉に付随する助詞(-ヲ、―へ)など文法の使い方まで載っている。
しかし何よりも最大の特徴は、編者の独特な解釈(意味)といえるだろう。
そしてその解釈は版を重ねる、すなわち時代が経つごとに変わっている。
新しい第8版が発刊された。前の版の第7版は2011年に出来たものだから、実に9年ぶりの全面改訂。
9年前の発行されたときというと、iPadがはじめて発売されたり、東日本大震災とか起きたすぐあとのころだし…ここ最近だけでも某ウイルスだとか新しい生活様式とか加わっている。
9年間で社会が大きく変わってるんだから、言葉も大きく変わっている。
言葉は生き物。同じ言葉でも時代によって変わるはずだ。
辞書は言葉だけではなく時代を映す。新明国は「考える辞書」として人気を集めている。
前置きが長くなったが、そんな「考える辞書」は現代においてどんなことを伝えようとしているのか。
今回は、ツイッターでバズってた「恋愛」に焦点を当ててみようと思う。新解さんの辞書から恋愛観を紐解いていこう。
※新明国は自宅保管の第4版、第7版、第8版を使用しています。詳細は参考辞書の欄をご覧ください。
恋愛のあり方の違い
とても有名だと思うけど、「恋愛」というページを開いてみる。
【恋愛】特定の異性に特別の愛情をいだいて、二人だけで一緒に居たい、できるなら合体したいという気持を持ちながら、それが、常にはかなえられないで、ひどく心を苦しめる・(まれにかなえられて歓喜する)状態。「―結婚・―関係」 ※第4版
【恋愛】特定の異性に対して他の全てを犠牲にしても悔いないと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。「熱烈な―の末に結ばれた二人」「―結婚・―小説・―至上主義」 ※第7版
異性同士で合体したいとかまれに歓喜するという記載が、二人だけの世界を分かち合いたいに変わっている。
第4版では合体したいというド直球な性欲がベースになっているが、第7版・第8版ではくどくど愛情こそ大事となっている。恋愛は性欲の延長だという人もいるけど、新解さんも7版のころになると「そんなことはない!」と言わんばかりに長々熱弁されてますね。
いずれにせよ、恋愛とは異性に対して持つ感情だとかかれていた。
これが第8版になると、
【恋愛】特定の相手に対して他の全てを犠牲にしても悔いは無いと思い込むような愛情をいだき、常に相手のことを思っては、二人だけでいたい、二人だけの世界を分かち合いたいと願い、それがかなえられたと言っては喜び、ちょっとでも疑念が生じれば不安になるといった状態に身を置くこと。「熱烈な―の末に結ばれた二人」「―結婚・―小説・―至上主義」
おわかりいただけただろうか。
ほとんど第7版と同じだけど、第8版では「異性」という言葉がなくなっている。
2020年の辞書では性的マイノリティ、すなわち同性愛者やトランスジェンダーにも配慮するようになったのだ。
ちなみに、岩波国語辞典を開いてみると、
【恋愛】(特に男女間で)恋いしあうこと。こい。「-感情」「ー結婚」
となっていて、なるほどたしかに同性愛も少し含まれている。性的マイノリティも認めようというのが今後のトレンドといえるのだろう。
はっきり言って岩国の言う通り男女間の恋愛の方が圧倒的に多い。しかし多様性を求める現代では、「恋愛とは男女間でするものだ!」みたいに少数派だとか伝統という点から否定したり決めつけるものは少なくなっている印象にあった。
確かに最近国際関係の授業課題で、「日本人はこんな性格、中国人はこんな性格の人が多い~~」という発表したら、いろいろな人がいるんだから現代でそのような発言は少しずつタブーになっていくと注意された。
それと同じで多様性を尊重し、少数派の個性でも否定しない時代に変わっているので辞書にも配慮がなされたのだろう。
(本当はこんな現代だから、多様性ってのは何かもっと深掘りしてほしかったけど…特に大した記述なかった。残念。)
ちなみに。
【恋】特定の相手に深い愛情をいだき、その存在が身近に感じられるときは、他の全てを犠牲にしても惜しくないほどの満足感・充足感によって心が高揚する一方、破局を恐れての不安と焦燥に駆られる心的状態。 ※第8版(例文省略)
恋は自分の感情をさすけど、恋愛は感情にいるということをさすのかな。これまた8版で特定の異性ではなく特定の相手に変わっただけだった。
ちなみに第4版では「恋…①恋愛。」だけだった。わかんねえよ笑
じゃあ愛って何?というと、
【愛】個人の立場や利害にとらわれず、広く身のまわりのものすべての存在価値を認め、最大限に尊重していきたいと願う、人間に本来備わっていると捉えられる感情。 ※例文省略 ※第7・第8版
ここは特に第7版と第8版と変化なかった。
本来備わっている…たしかに本当はあるのかもしれないけど、これには本当か?と考えさせられる人もいるかもね。
誰に恋をしてもいい
【恋人】その人の恋している相手。「永遠のー(=その人の理想像としての相手)」 ※第8版
このように、恋人という単語も当然ながら(異性)から(相手)に変わっている。恋は誰にしてもいいんだよというエールを送っているかのようだ。
一方で、
【夫婦】結婚(同棲)している、一組の男女。{多く、家族構成の最小単位と認められる}
この解釈はさすがに同性結婚のことは配慮されず男女で一緒だったけど、その後の例文が変わっている。
「おしどりー・すれちがいー・ー仲」※第7版
「ーげんかは犬も食わない/ー愛・ー仲・ー別姓・おしどりー」※第8版
第8版でなぜか例文が変わっている。
なぜ「夫婦喧嘩は犬も食わない」ということわざを最初にしたし笑
夫婦間のケンカは些細なことで起こり、すぐ仲直りするからいちいち他人が仲裁はせず放っておけという意味。
要はなんだかんだ言って夫婦の仲はいい、という意味をさす。
そしてすれ違い夫婦という見るからに仲悪そうな例文がなくなり、代わりに夫婦愛・夫婦別姓という例文がついてきた。
夫婦は仲がいいというものばかりにしたのは、夫婦のカタチが変わる中でも愛こそ大事ということかな。それとも編者さんたちの中で夫婦喧嘩に関して何かあったのでしょうか笑
それにしても、例文の変化だけでも意味深で考えさせられるね。
同姓の恋愛も肯定されている時代
といっても、恋愛というとこの解釈の方が時代を表している。
ホモ…(口頭)同性愛者を好む性的倒錯者 ※第4版
ちなみに、倒錯という意味は「入れ違って、正しい順序と正反対」となっている。つまり、ホモは"正しくない"というニュアンスが強い。
しかし20年ほどたつと、第4版の時代はゲイという言葉すらなかったんだけど、これがゲイに成り代わってる。さらに、ホモという言葉にも変化が生じている。
ゲイ…男性どうしの同性愛者 ※例文省略 ※第7・8版
ホモ…ホモセクシュアルの略↔レズ ※第7版
ホモ…ホモセクシュアルの略(差別を含意する)↔ヘテロ ※第8版
第8版でホモは差別的な言葉と認められた。
トランスジェンダー…自分の身体的な性の区分に違和感を持ち、別の性による社会生活を望むこと(人)。
ヘテロセクシュアル…異性を対象とする性愛。異性愛(者)。略してヘテロ。↔ホモセクシュアル ※第8版
この2語が新語として第8版で追加されていた。
ホモセクシュアルの対義語になっていたけど、ヘテロなんて言葉は知らなかった。
あとはレスビアンがレズビアンに変わっていて、その参考例がホモセクシュアルじゃなくてゲイに変わっていた。
これは新しいを意味していた「あらたし」が「あたらし」に変わったみたいな変化なのかな。
全体的に差別的とかおかしいというような解釈はなくなり、同性愛も普通なことだというのが淡々と描かれているようになった。(さすがに昔もそこまではっきり正否は書いていなかったけど)
とはいえ性的マイノリティにはまだまだ偏見も多い。
私も一度大学で外部講師としてレズビアンの人が来て話したことがあるが、その人は受けた偏見で苦労したこともあってか色々ぶっ飛んでて、正直また会ったら今後どういう反応するかわからない。
私が言うのもなんだけど、将来もっと理解されていくことになるだろうか。
体の関係にも時代の変化が?
さて、続いてはみんな大好きなエロに入ろう。
誰しも一度は下ネタやエロを辞書で調べたことがあるかと思いますが、童心に帰ってそれも調べてみた。いやあ楽しい!笑
性交…成熟した男女が(時を置いて)性的な欲望を満たすために肉体的に結合すること。セックス。 ※第8版
何この意味深な()。ちなみに第7版では()はなく、普通に「成熟した男女が時を置いて性的な欲望を満たす~~」と書いてあったのになぜ。
マッチングアプリとかワンナイトとかそういう言葉は載ってなかったけど、ヤリモクの人もネットで簡単に出会える時代。そういう時代背景もあって一線を超えるハードルが下がったことも関係しているのだろうか。
くそー、ヤリ〇ンのワンナイト勢め、許さん!笑
コンドーム…男性が避妊・性病予防に用いるもの。薄いゴムで作る。ルーデサック。スキン・ゴムとも。 <かぞえ方>一枚:一箱
ゴムって一枚二枚って数えるんだ… 普通に知らなかった笑
ちなみに第4版では魚のうきぶくろで作られるとなっていた。昔のことはもう意味が分からない…
まあ他にもいろいろ調べてみたんだけど、肉体関係に関しては見た感じあまり変化はなかった。
むしろハグという単語が無かったり、キスと調べても接吻と出てきたり、正直思ったよりも踏み込んではいなかった。
やはりあの新解さんとはいえ、国語辞典。性的な行為や行動よりも感情の意味の解釈の方を優先するのだろうか。
今後は避妊の重要性やAVは作り物ということも、できる範囲でもっと記載してほしいですね。
当たり前を疑う「考える辞書」
辞書は時代の鏡という意見があるが、辞書の中にも「当たり前」が残っていた。
男女の恋愛だとか夫婦のカタチだとか、当たり前と言われていたことが変わっている。
他にも些細なことだけどとても重要な変化もあるだろう。今後も調べてみていきたい。
とはいえ新明解国語辞典だって、客観的な解釈だけではなく、編者の感情も載っている。愛の解釈は岩波の方が客観的で優れているなと思った(今回は省略)。
純粋な言葉の客観的な意味を知りたいなど、言語学を専門でやっている人などは苦手という方もいると思う。
だけど、それは編者というか、世間一般の意見ともいえるだろう。
個人的にはそういうのも、社会の表れとか、言葉の学びとして優れているだろうから好き。時代によって変わる解釈もあるだろうし、知識人だとしても一般人と同じ目線で見ないとだめだろう。
辞書は時代を語る。
だからこそ私たちは(電子辞書だろうと紙だろうと)辞書を買って新しく言葉をアップデートしていくのが重要だ。
それにしても、ここまで時代背景に沿って細かい点まで突っついているとは思わなかったので感心した。
深掘りする機会ってなかなかないと思うけど、とても面白かった。
最近あまり辞書を読めていなかったので、久々に読んでまた記事を書いていきたいと思う。辞書コレクションも再開していきたいな。
皆さんもよろしければ、ぜひ一冊お買い求めください。
↓辞書の書評が面白いと思ったあなたへ。沼の『三省堂現代新国語辞典』の書評もどうぞ。個人的に結構好きな記事です。
参考辞書
新明解国語辞典
・1991年 第4版 第3刷
・2015年 第7版 第4刷
・2020年 第8版 第1刷
岩波国語辞典
・2019年 第8版 第1刷